voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-18…『5分』

 
「魔物がいるなんて聞いてねぇぞ!!」
 と、叫びながら一人の男が走ってくる。
 
「魔物?」
 アールとルイは足をもたつかせながら走ってきたその男を避け、見送った。
「私たちの陣地から走って来たのかな」
「魔物……」
 ルイは警戒してロッドを構え、陣地へ急いだ。
 
しかし、そこに魔物の姿はなかった。ルイがいたときに襲ってきた男を閉じ込めている結界の上で寝そべるカイと、その隅に腰を下ろしたヴァイスが目に入る。
 
「アールおかえりー! 無事でよかった!」
 と、カイが笑顔を向けた。
「お騒がせしました……。さっき男の人が『魔物がいるなんて聞いてない』とか言いながら走ってったけど」
「あぁ、あれはヴァイスんだよ」
「ヴァイス? ……あぁ、ライズになったの?」
「追い払っておいた」
 と、ヴァイスは短く答えた。
「これはねぇ、はじめから俺の作戦だったんだ。ヴァイスを“守り”に選んだのはライズになって噛み付いたりして脅かせばいいってね」
 カイはそう言ってあぐらをかくと、自慢げに腕を組んだ。
「カイの手柄みたいに言うね。そこの人は?」
 アールは結界の中の男を見遣ると、目が合った。「あ、確か二人組みの……」
「捕まっちまってね」
 と、男。
「ジーンさんですよね」
「なんで名前知ってんだ」
「そーだそーだ! アールこんな奴に気があるの?!」
 と、カイは慌てて結界から飛び降りた。「目を覚ましなよ!」
「なんでそうなるの……。前のステージでもう一人の人が叫んでたから」
「あぁなんだ。オイラはてっきりアールがこんな奴に一目惚れをしてこんな奴の名前をこっそり調べたのかと思ったよ」
「相変わらず妄想が行き過ぎてるね」
「“こんな奴”で悪かったな」
 と、ジーンはカイを睨んだ。
「え、そんなこと言ったっけ」
「無理矢理すっとぼけるのもやめなよ」
 アールは呆れた。
「お前等は面白いな。仲間に魔物付きまでいるとは」
「魔物付き?」
 と、アールは首を傾げた。
「他になんだというんだ? ウェアウルフが実在するとでも言うのか」
「…………」
 アールは何を言っているのかわからず、ルイを見遣った。
「ウェアウルフ、狼男のことですね」
 そしてルイはアールに耳打ちをした。
「──彼は“ハイマトス族”を知らないようです」
「あ、なるほど。でも魔物付きって言うのは?」
「魔物の魂や力を宿したアーム玉を使用している者や、体内に魔物を飼っている人などのことをいいます」
「そんな人いるの?」
 目を丸くするアールに、ルイはまた耳打ちをした。
「シュバルツもそうですよ」
「あ……そっか」
 体内に無数の魔物を取り込んだと言っていたっけ。
 
しばらくして、シドとベンが帰って来た。 その手には収穫として3つの旗が握られている。初めに手にしたのは7人組の旗、次に手にしたのは見晴らしのいい場所に陣地を立て、一人はルイの結界によって捕まっていた2人組のチームの旗。その戦闘中に旗を奪おうとしていた幼馴染チームを取っ捕まえ、陣地を吐かせてからそのチームの旗も手に入れていた。
残すは5人組の1チームだけだが、3つもあれば十分だった。けれどもシドが満足するわけがない。シドは収穫した旗をヴァイスの足元に放り投げると、そのまま残りの1チームの旗を狙いに行った。ベンは少し戸惑ったが、すぐに追いかけて行った。まるで飼い主に忠実な犬に見えなくもないが、自分だけ休むというのはプライドが許さなかったのだろう。
 
「残り時間は?」
 と、アールが訊く。
「残り20分です。旗が自分たちのものも含めて4つあるとなると一番狙われます。用心しましょう」
「そっか、旗を奪われたら終わりじゃなくて奪い返しに来るんだ!」
 
ルイが言ったとおり、残り10分になると突然人の気配を感じるようになった。洞窟の崖の上に人がいる。木々の陰にも何人か身を潜めている。アールは武器を握ったまま警戒を強めていた。先に多くの旗を奪ったものではなく、最後に多くの旗を奪ったものが優勝だ。終了間際に襲ってくるに違いない。
 
「怖い……」
 と、思わず小さく呟いた。
 
アールはシドとベンがあれからなかなか戻ってこないことを考えた。ふたりが未だ旗を奪えていない最後に残していた敵チームは一番厄介なチームだろう。
 
「アールさんは下がっていてください。無理はしないでくださいね」
 アールの呟きを聞き逃さなかったルイがそう言った。
「大丈夫、ありがとう」
 
旗を取られたチームが一斉に襲ってくる可能性がある。シドとベンの少しでも早い帰りを望んだ。
 
「アール」
 と、アールはヴァイスの低い声に振り返った。
「お前が守りに入れ」
「え……」
「旗の側に立っていればいい」
 と、ヴァイスが持ち手を離れたため、アールが守りに入った。
 
「ありがとうございます」
 と、ルイはヴァイスに言った。
「少し体を動かしたくなっただけだ」
「それでも、ありがとうございます」
 
カイはそわそわしながらブーメランを抱きかかえた。出来れば結界で守って欲しいが、そういう流れではないことはわかっている。せめて自分の身は自分で守らねば。
 
──残り5分。
崖の上から叫びながら飛び降りてきた一人の男を合図に、一斉に敵チームが襲ってきた。
 

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©Kamikawa
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