voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-11…『ファイナル』

 
「アールさん、戻ってきませんね……」
 と、遠目からアールに視線を送っているのはルイだった。
「じらしているのだよ、俺っちを」
 と、茣蓙の上で寝転がるカイ。
「なにを話されていたのでしょうか」
「女の子が集まって話すことと言ったら恋愛話でしょー。さっきこっち指差しながらなにか話してたじゃん? 誰がタイプかって話していたんだよ、絶対」
「…………」
 そうだろうか、とルイは疑問に思う。敵チームの女性が仲間の元へ戻ったというのに、なかなか帰ってこないことが気になった。
「んで、俺の話をしていたんじゃないかと思う」
 カイがそう言ったとき、ヴァイスの肩にいたスーが地面に下りてアールの元へ向かった。
「『あの髪型が素敵な彼には恋人がいらっしゃるのかしら』って相手の女性が訊く。そしたらアールが『いないみたいだけど、彼は駄目。私の彼氏候補だから』つって」
「アールさんには婚約者がいらっしゃるのですよ」
 ルイはそう言った後、視線を落とした。
「ここにはいないじゃないか」
 カイはふてくされるように言い、頭の後ろで手を組んだ。
 
ヴァイスはスーがアールの元へ飛び跳ねながら向かっている姿を眺めていた。そして、彼も立ち上がると、アールの元へ歩き出した。それをルイは無言で眺め、腕時計を見遣った。そろそろファイナルステージへ移動だ。
 
「ありゃスーちゃん。どうしたの?」
 アールはスーに気付き、手を差し伸べた。その手のひらに、スーは飛び乗った。
 顔を上げ、ヴァイスもこちらへ歩いて来ることに気付く。
「心配してくれたの?」
 するとスーはそうだよと拍手をした。
「ありがとう」
 笑顔でそう言い、立ち上がった。おしりについた砂を払い、目の前まで歩み寄っていたヴァイスの肩にスーを戻した。
「心配してくれたの?」
 と、スーに訊いた同じセリフをヴァイスにも投げかけた。
「なにかあったのか?」
 アールを見下ろすヴァイスの目は、優しかった。その些細な温かさを、アールは感じ取っている。
「ううん。余韻に浸っていただけ」
「余韻?」
「いつも男子とばかりだから久しぶりに女同士で会話をした余韻に……」
 と、ミシェルから電話が来ていたことを思い出す。
「ヴァイス、友達ってなんだろう?」
「…………」
「友達だと思っていたら、電話が来たくらいで少し……憂鬱になったりしないよね」
「…………」
 ヴァイスはアールから視線を逸らて暫し考えた。話の主旨が掴めないため、アールがなにに悩んでいるのかがわからない。
「嫉妬って、見苦しいよね?」
「…………」
 ヴァイスはアールに視線を戻し、口を開いた。
「なぜそう思う」
「だって……。あのね、ミシェルからメールが来てたの。最近順調だっていう報告メール。嬉しいはずなのに、心にもやもやしたものがあって。返事は時間があるときにって思って返さなかったの。そしたらさっき電話が掛かってきて、真っ先に思ったの。電話に出たら惚気られちゃうのかな、自慢されちゃうのかなって。そしたら憂鬱に感じて、電話に出られなかった」
「…………」
「いいなぁって、思ってる。ミシェルはいいなぁって。……それに、愚痴りたくなっちゃった。私なんて今大変なんだよって」
「…………」
「幸せ報告、……聞きたくない。もちろん、不幸な報告はもっと聞きたくないし、幸せでいて欲しいけど、今の私、人の幸せを喜べるほど余裕がないのかも……だから出来れば……」
 
できればいちいち報告しないで欲しい。私から尋ねたときに幸せな報告を聞かせて欲しい。いつでも自分のことはさておき相手の幸せを祝福できるほど心に余裕があるわけじゃないんだ。──と、本心を口に出せば出すほど自分が嫌になる。
 
「…………」
 黙って話を聞いているヴァイスを見上げた。
「ごめん、こんな話して」
「話ならいつでも聞く。愚痴でもなんでもだ」
「……ありがとう」
「なんでも受け入れる」
「いや……そこまでしてくれなくても……」
「だから独りで抱え込むな」
「…………」
「いいな?」
 
ほとんど感情を顔に出さないヴァイスの思いやりに溢れたその優しい視線を浴びたアールは「はい……」と、小さくそう応えた。
 
ファイナルステージへ移動を始めた一行は、次になにが待ち受けているのか想像するしかなかった。厄介なのは魔物だ。回復を禁止とされている中で魔物と戦うのは正直億劫に感じた。
けれども彼らが連れてこられたのはなにもない、ただただ広い場所だった。あるのは少し離れた場所に見える林、遠くに見える崖、人間と同じ高さくらいの岩が点々と、もう少し奥へ行けば他にもなにかあるかもしれないが、人工物はなにもない。
参加者達は周囲を見回し、観察をした。魔物の気配はないが、どこからか転送されてくる可能性はある。油断できない。
 
《さぁ、やってまいりましたファイナルステージ! 敵チームの旗を奪って集めて陣取りゲームのはじまりだ!》
 
と、進行者の声が響き渡る。
 
《ルールは簡単だけど、一回しか言わないのでよーく聞くように!》
 
そう言って説明されたルールは以下の通りだ。
・まず、チームごとに小さな旗を手渡される。
・チームはスタート開始後30分以内に自分の陣地(隠れ家)を作ること。
・そこに旗を立てる。ただし、隠すように立てることは禁止。
・守りとして立てた旗から半径2メートル以内にいられるのは1人だけ。
・一度立てた自分の旗には敵チームに触れられるまでは触れてはならない。
・回復魔法、回復アイテムは禁止とする。
・旗を結界や魔法で守ることも禁止とする。
・時間制限内に多くの旗を奪ったチームが優勝となる。
 
「缶蹴りみたいな感じかな」
 と、アール。
「わかりやすっ」
 と、カイ。
「缶蹴りってこの世界にもあるんだ?」
「あるある。缶をずーっと踏んだままぜんぜん離れない奴がいて全然ゲームにならないっていう」
「あるある! でもこのゲームの場合は立てた旗に触れちゃいけないわけだから手に持って固定し続けるのは無しってことだよね。“守り”をひとり決めて、旗を守る。他のメンバーは旗から2メートルは離れていなくちゃいけない。陣地で旗を守る人と、他チームから旗を奪いに行く人と決めなくちゃ」
 
大きな笛の音と共にファイナルステージがはじまった。
それぞれのチームは一斉に散ってゆく。
 
「一先ず僕らは向こうの林へ行きましょう」
 ルイが言い、一同は従った。
 
ふと、アールは仲間の後をつけながら後ろを振り返った。敵チームの内、一チームが立ち止まってなにか会話をしていると思ったら、その場に座り込んでいた。
 
「……?」
 
作戦会議だろうか。
 

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©Kamikawa
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