voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国2-12…『陣地』

 
「なるほど、それは考えましたね」
 
ルイは林を更に抜けた先にあった小川の付近でアールの話を聞いた。川の反対側は崖になっており、洞窟があったのだ。
 
「考えた?」
「敢えて目立つ場所を陣地にしたのでしょう。敵チームから居場所はすぐにばれてしまいますが、拓けていればどこから敵が攻めて来てもわかりますよね」
「なるほど!」
「このゲームは人数が多いほうが有利です」
 と、洞窟の中を見遣る。
「このゲームに限らずだよね」
 うんざりしたようにそう言うと、洞窟内に入っていたカイが顔を出した。
「なんか毎回ゲーム内容が違うらしいよ。他のチームが話してたー」
「そうなの?」
「仲間の全員がクリアしないと先に進めないゲームとかあったらしいからねぇ」
「最悪……よかったそれじゃなくて」
「でしょー? 巨大な斧が振り子のように道を塞いでてそこを全員通らないと次のステージにいけなかったらしいんだ。俺無理だね」
「私も……よかったそれじゃなくて」
 
一同は隠れ家を洞窟に決め、旗を“隠す”と反則になるため、洞窟の外からでも見える浅い場所に旗を立てた。すると、旗から2メートル範囲の赤い円が浮かび上がり、ビービー!と大きな警告音が響いた。
 
「わ! なになに?!」
「離れましょう」
 ルイが察して全員を旗から遠ざけると、警告音が止んだ。試しにルイだけ2メートル範囲の中に足を踏み入れてみると、赤い円は青へと変化し、警告音は鳴らなかった。
「“守り”はルイにしようか」
 と、アール。
「僕ですか」
「待て。魔導士はそいつだけだろう」
 と、ベン。「結界を使ってはならないのは旗に対してだけだろう?」
「そっか、敵チームを攻める戦闘員としてもルイは重要だね」
「シド、お前はどうする?」
「攻めるに決まってんだろ」
「あんたは?」
 と、ベンはヴァイスを見遣った。
「…………」
「どっちでもいいって」
 アールが表情を読み取った。
「そういうお前は?」
「私は……自信ない。守りも攻めも」
「使えないな」
「すいません……」
 
攻めてくる敵を遠ざける戦闘員と、敵チームの旗を奪いに行く戦闘員、そして旗を一番近くで守る“守り”がひとり必要だ。
 
「あ、俺いいこと考えた」
 そう言ってひとつの提案を出したのはカイだった。
 
カイの提案によってそれぞれに割り当てられたのは、ベンとシドは敵チームを攻める戦闘員、ルイとカイが陣地で攻めてくる敵を追い払う戦闘員、そして。
 
「ヴァイスんが守りで、アールが“盗人”」
「ちょっとなにそれ」
「守りとしても攻めとしても自信ないんでしょー? だったらシドとベンについて行って、二人が敵チームとバタバタやってるときにアールが旗を盗む! そんでスーちんはそんなアールを守る係」
「…………」
 なんも言えねぇ。
 スーはまかせなさいと言わんばかりに拍手をしてみせた。
「ついて来れんのかよ」
 と、シドはアールと目も合わさずに言った。
「……がんばります」
 
こうして役割分担が決まり、隠れ家探しの30分が過ぎ、それぞれ行動を開始した。
シドとベンが敵チームを探しに走り出したため、アールも慌ててスーを連れて後を追った。それを心配そうに眺めながら見送ったのはルイだ。ベンもシドも組織の人間だというだけで気が気でないのに。
 
「大丈夫でしょうか……」
「スーちんがいるから大丈夫大丈夫」
 と、カイはその場に座り込み、ブーメランを抱きかかえた。
 
ルイは少しカイと距離を取って立ち位置に立った。周囲を警戒しながら、頻繁にアールの様子を気にかけるのはそこに特別な感情が含まれているからだ。世界の運命を左右する選ばれし者を危険な目に晒すというだけでも目の届く範囲にいないだけで不安になるというのに、ルイの心に芽生えているもうひとつの感情は更なる不安を作り出しては痛みとなって彼の心を締め付ける。
ルイは後ろを振り返り、旗のそばに立っているヴァイスを見遣った。ほぼ無意識の行動だった。
 
「どうした」
 視線に気付いたヴァイスが言う。
「あ……いえ」
 ルイは前を向きなおし、なぜヴァイスに目を遣ったのかを考えた。その答えはすぐに出る──。
「ルイさぁー、ゼンダのおっちゃんのことどう思う?」
「え?」
 予期せぬ質問だった。
「シド見てると時々思うんだよね。タケルが死んだとき、シドおっちゃんのこと恨んでたよねぇ……」
「…………」
 ルイは黙ったまま当時の事を思い返した。
「俺も、おっちゃんばっかり責めるわけじゃないけど、やり場のない思いとかで、なんでもっと早く本当のこと教えてくれなかったんだって思ったんだ。シドは特に思ってたと思う。タケルの死を真っ先に見つけたのはシドだったし、人嫌いなシドにしてはタケルに心を開くの早かったし、ルイもそうだろうけど、シドは一番強いから、自分がタケルの面倒を見てやらないとって思ってたと思うんだ。それがあんなことになってしまって」
「えぇ……。もしもタケルさんがグロリアではないということをもっと早くに知っていたら、彼を死なせずに済んだかもしれない。その思いもあったでしょうね」
「んで結局さ? タケルを騙し続けてた理由は曖昧っていうか、俺たちが納得してないだけかもしれないけど、俺たちを本物のグロリアと会わせる前の予行練習だったとか、タケルを刺激しないようにグロリアの情報を聞き出すためだったとか言い訳いっぱいだったじゃん」
「タケルさんの気持ちを考えると言い出だせなかった、というのもあるのかもしれません。彼は自分の世界に失望し、命を捨てた。その先にあった別の世界で、自分の居場所を見つけた。彼の喜びようは、カイさんも覚えているでしょう?」
「覚えてるよ……忘れるわけ無い。だって俺が勘違いしたんだし。俺のせいでタケルも勘違いしたんだ」
 と、カイは未だ消えない心の傷が痛み、顔を伏せた。
「カイさん……」
「シドはきっと、あの日からゼンダのおっちゃんのことを信用できなくなったんじゃないかなって思う。そんなときに勧誘されたんだよ、組織の連中に」
「…………」
 
ヴァイスは黙ったまま、二人の会話に耳を傾けていた。おしゃべりなカイからこれまでのことを嫌でも聞かされたことがあった。お節介なルイからも仲間内の情報を聞かされたことがあった。アールからも時折、聞かされる。だからタケルという人物が彼らにとってどのような存在なのかはある程度わかっているつもりだったが、空気の重さを肌で感じると、彼らの心に刻まれた傷跡は予想以上に大きく深いのだと改めて知る。
 
「んで、ルイはゼンダのおっちゃんのことどう思ってんのかなーって」
「どう……と言われましても」
 と、言葉を濁す。
「完全に信用してるって言える? 心から」
「……どういう意味でしょうか。カイさんは疑ってらっしゃるのですか? シドさんのように」
「そうじゃないけどさ、なんていうかさぁ……」
 カイは考えるように足元にあった小さな枝を拾った。
「なんていうか、俺たちにも話してないなにかがあるような気がするっていうのかなぁ。それが良いことなのか悪いことなのかもわかんないけど」
「…………」
 ルイはなにも言えなかった。
 
──ゼンダさんはなにかを隠している。
 
「リアおねぇさま元気かなぁー」
 と、カイは拾った枝を放り投げて地面に寝転がった。「最近連絡も来ない」
「忙しいのでしょう。でも確かに連絡が途絶えていますね。城で起きた騒ぎが今どうなっているのか、気になるところです」
 

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©Kamikawa
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