voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国13…『第一ステージ』

 
第一ステージは水の中だった。水深15mの底に沈められた宝箱から時間制限内に鳥かごの鍵を探すという単純なゲームで、宝箱の中には勿論ハズレもあり、煮えたぎる池から身を守るアイテムも入っている。単純なゲームでありながら白熱するのは水の中で繰り広げられる争奪戦と、仲間の一人の命がかかっているからである。
 
ステージがいくつまで存在するのかわからない参加者は、体力の温存も考えなければならなかった。なぜならチーム戦でのルールとして“回復薬を使ってはならない”という項目が入っていたからである。そのため、シキンチャク袋は一時的に没収されてしまっている。無論、第一ステージがはじまる前に説明されたルールである。参加者の持ち物は愛用の武器以外募集されてしまった。
 
「ルールは簡単なのに縛りがあるとたちまち難しくなるね」
 と、アール。
「武器は持っていていいということは用心しなければなりませんね。事前に聞かされたルールにも武器での戦いについて禁止事項はありませんでしたから」
「さすがに殺し合いはないでしょう……?」
 不安がるアールに、カイがゲップをして言った。
「そんなのわかんないよ、参加者の中に子供を人質にとられて犯人からポイントが高い商品を手に入れなければ子供を殺すと脅されている人がいたらきっと殺しにかかってでも優勝してポイントがっつりもらうはずさぁ」
「そんな人いるのかなぁ……」
「僕らのように複雑な事情を抱えている人がいるかもしれないのは確かですよ」
「そっか……私たちも負けらんないね」
「午前中に稼いだポイントの数を見ても優勝しない限り金のプレートは手に入れられません。準優勝ではポイントが足りないんです」
「うっそ?! じゃあ目指すは優勝しかないってこと?」
「言わずもがな」
 と、カイ。
「カイさん、言葉の使い方を間違えていますよ」
「知らんがな」
「言わずもがな、とは本来『言わなければいいが』や『言わないでほしい』という意味ですが、先ほどのカイさんは……『言うまでもなく』という意味で使われたように思うのですが」
「勉強になったがな」
「しかし最近では『言うまでもなく』という意味で使われる方が多いので伝わればいいのかもしれませんが」
「どっちでもええがな」
「なんで関西弁?」
 と、アール。
「カンサイベン?」
「あ、なんでもない」
「気になるがな」
 
ベンは呆れるようにため息をつき、シドを見遣った。
 
「いつもこうなのか」
「…………」
 シドは腕を組んだまま、つまらなそうな顔をしている。
「さぞかし煩わしかったろう」
「……まぁな」
「その点、組織はどうだ。居心地は」
「良くも悪くもねーよ。特に今はな」
 
第三部隊の存続が危うい今、決して居心地が良いとは言えない。ここ数日、上からの連絡が途絶えていることに不満を抱いていた。エルドレッドが隊長を務めていた頃は逐一グロリアに関する情報収集と新たな任務の伝達などの連絡が来ていたように思う。
第二部隊が城を襲撃したという自分たちには知らされていなかった動きがあった。今は三部隊に構っている暇はないとでも言うのか。
 
ベンはシドの険しい表情を見て、苛立っているのを感じ取った。苛立っているのは自分も同じだった。正直三部隊は完全に終わっている。グロリアの動きを見張っているだけの役目にすぎない。上の連中も三部隊に期待などしていないと思われる。こうなったのはシドが戻ってきてからだ。計画が全て塵と化してゆく。どうにかシドから自分に向けられた疑いを取り払いたいと思っていたが……。
 
ベンはシドの顔を盗み見て、ある提案を思い浮かべた。
 
──いっそのこと、殺してしまうか。
自分が三部隊の隊長になればいい。いや、この部隊はもうとっくに御役御免だ。どうにか自分だけでも第二部隊か第一部隊に昇格できないだろうか。シドを裏切り者に仕立て、殺してアーム玉を奪う。こいつのアーム玉もそこそこ使えるはずだ。ひとりでグロリアを射止めるのは用心棒が邪魔で厄介だが、シドなら。
面と向かって戦って、どっちが勝つ?昔なら簡単に殺せただろうが今のシドは……。
 
「そろそろ始まりそうですね」
 とルイが言った。
 
スピーカーから進行者の声が響き渡った。
 
《お待たせいたしました。それでは只今より、第一ステージ『仲間を助けるために潜って戦ってがんばっちゃってゲーム』を開始します!》
 
「叩いてかぶってじゃんけんぽんみたいなドストレートな名前だね」
 アールがぼそっと言った瞬間、スタートの合図が鳴った。
 
参加者は一斉に水の中へと飛び込んだが、あえて飛び込まない参加者もいた。彼らは鍵を見つけて上がってた敵チームを狙うつもりだ。
 
「私たちはどうする?」
 どうでもいい会話をしていたせいで話し合っていなかった。
 
と、その時、悲鳴をあげながら水面に顔を出した参加者がいた。真っ先に水に潜った参加者たちが次々と水面に顔を出し、切羽詰った形相で叫んだ。
 
「魔物だ! 中に魔物がいるぞ!」
 
「俺っちパス。吐いちゃう。中で吐いちゃったら魔物が寄ってきちゃう」
「水中でも余裕でいけるのは……」
 と、アールはシドを見遣った。
「…………」
「お願い出来る?」
 戸惑い気味に尋ねると、シドは黙ったまま刀を抜いて水の中へ飛び込んだ。
「僕も行きます。3人は待機を。全員体力を奪われるわけには行きませんから」
 と、返事を待たずにシドを追いかけるようにルイも水の中へ飛び込んだ。
 
第一ステージの場所にもモニターが設置されており、捕らえられている仲間の姿を見ることが出来た。頑丈なワイヤーにぶら下げられている鳥かごがゆっくりと煮えたぎる池へと下がってゆく。
 
「鍵、見つけた後どうするんだろう」
 ふと、思った。
「説明してなかった? 俺トイレの場所しか覚えてない。吐いてきます」
 と、カイが参加者をかき分けながらトイレに向かった。
「説明してました?」
 アールはベンを見遣った。
「いや。仲間の元へ駆けつける方法を探すのもゲームの一環なんじゃないか?」
「面倒くさい!」
 アールが辺りを見回すと、同じように疑問に思った参加者が仲間の元へ向かう方法を聞きまわっている。説明になかったため、誰も知るわけがなく、パニックになっている。
「ここから近いのかな……。パーク内にありますよね?」
「探す必要があるな」
「もう……ヴァイスがいたらひょいひょいって探しに行ってくれるのに……」
 嘆いていると肩にいたスーが足元に下りて自分の胸辺りを叩いた。
 アールはスーの前でしゃがみ込む。
「探してくれるの?」
 スーは拍手をした。──その通り、任せてと言っている。
「でもスーちゃんはケータイ持ってないし離れ離れになったら連絡取れなくなっちゃう……」
 スーは体を平たくして地面に伸びきった。──そんなぁ……と嘆いている。
「なにか他にいい方法があれば」
 と、見回し。「そうだあそこの大きな木に上って見える範囲にヴァイスいないか見てくれる?」
 
アールは近くの林に駆け寄ると、既に同じ考えを持っていた参加者が何名か木に登っていた。しかし人間では重すぎて枝が細くなっているてっぺんまでは上がれないようだ。
アールの手から離れたスーはあっという間に一番高い位置まで上り、更にそこから体を伸ばして周囲を眺めた。
 
「どうだった?」
 アールの元に戻ったスーは、両手でバツをつくった。
「そっか……見える範囲にはいないのか……」
「落胆するのは早い」
 と、そこにベンがやってきた。その後ろにはまだお腹を抱えているカイがいる。
「なにか手がかりでも?」
「トイレでいいもん見つけた」
 と、カイが一枚の紙をアールに渡した。この辺りの簡易的な地図で、ゲートがあるマークが描かれている。
「これって……」
「おそらくそこから行ける。隠しておけ。盗まれるぞ」
「あっ、うん」
 アールは慌ててポケットにしまった。
「カイ、ありがとう」
「役に立つとは思わなかったよ。さすが俺」
 
連れてきた仲間が多くて正解だった。ジョーカーやジャックも連れて来ればよかったと、アールは思った。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -