voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国12…『あたりくじ』

 
「だから言ったじゃない! 食べすぎ注意だって!!」
 
周囲の人々がアールの声に振り返った。そこには青い顔をしたカイがお腹を抱えてえずいていた。
 
「い……言ったっけ……うぷっ」
「あれ? 言わなかったっけ……」
「注意はしましたよ。これでは参加できませんね」
 と、ルイはカイの背中を摩った。
 
結局大食い選手権では4位だった。1位は細身の男だった。2位はなんと10代後半の女性だ。3位はぽっちゃり体系の40代の男だった。
 
「女の子に負けるとは……オイラとしたことが……ウッ……」
「ギ○ル曾根みたいな子だったもんね」
「え?」
 と、ルイ。
「ううん、こっちの話」
 こっちの世界の話。ギ○ル曾根という大食いの女性タレントだ。細身の体のどこにそんなに収納スペースがあるんだと言うほど食べる。消化が早いのか全く太らない体質らしく、羨ましかった。
「ちょっくら吐いてくる……」
「またですか?」
 3度目だった。
 
チーム戦が行われる会場はパーク内の一番奥にある一際大きなスペースに儲けられている。
チームごとに振り分けられた番号が書かれているリストバンドを身につけ、進行を務める色黒の男がステージに立ってマイクを片手に参加者たちを誘導し始めた。
 
《──さぁ、まずはチーム内でくじ引きをして“捕虜”を決めるよ!》
 
一向はチーム戦の受付けに並び、丸い箱に入っている人数分の棒を一斉に引き抜いた。棒の先に赤い印がひとつだけついている。“あたり”を引いたのはヴァイスだった。
 
「こういうのってアールが引きそうなのにねぇ」
 と、カイはパンパンに膨らんだお腹を摩りながら言った。
「一番引きそうにないヴァイスが引いちゃったね」
 
引いた棒のくじを箱に戻すと、受け付けの女性はヴァイスの手首にシリコン製の赤いバンドを嵌めた。
 
「本当になんの説明もないのですね」
 と、ルイは浮かない表情をする。
「あたりを引いた人が良いのか悪いのかもわからないもんね。捕虜っていうくらいだからあたりというかハズレなのかな」
 アールはそう言って、ヴァイスの手首に嵌められた赤いバンドを見遣った。
 
そしてふと、仲間全員に渡したブレスレットを思い出す。シドの腕にはついていない、ブレスレット。なくしたのか、それとも、自ら捨てたのか。シドのことを考えると気分が落ちていった。
 
なにも聞かされていない参加者は進行に従って動くしかなかった。その為、誘導者の声を聞き逃すと忽ち乗り遅れてしまう。くじ引きで当りを引いた者を捕虜といい、捕虜はステージ横に集められた。そして、転送魔法によってどこかへ移動させられてしまった。
しばらくして、ステージ上にある大きなスクリーンに転送先が映し出された。スクリーンを見ていたアールたちの目に一番初めに飛び込んできたのはグツグツと煮えたぎる真っ赤な池。そしてその上に吊るされたいくつもの巨大な鳥かご。その中に“当たり”を引いた捕虜達が捕らわれていた。
参加者達はざわざわと騒ぎ始め、それを静止するかのように進行者の男がマイクを構えた。
 
《さて皆さん。これからはじまるゲームはチーム戦、そして、チームワークが試されます。これからみなさんは第一のステージへ移動していただきます。そこで待ち受けているゲームを制限時間内に成し遂げたチームだけが、次のゲームへ進むことが出来ます。制限時間はあちらをご覧下さい》
 
進行者がモニターを指差した。捕らわれている捕虜たちとは少し離れた場所に同じような鳥かごがひとつぶら下がっている。その中にはマネキンが一体。マネキンを入れた鳥かごはゆっくりと下がっていき、煮えたぎる赤い池の中へと沈んでいった。ジュウジュウと焼ける音と共に煙が上がってゆく。
 
「死ぬよね……」
 と、呆然とモニターを眺めながら呟くアール。
「さすがにそれは……殺人ですよ」
「どうみても温泉には見えないけど」
 
映像を見せられた参加者達からブーイングが上がった。こんな危険なゲームなら辞退するという声も上がる。
 
《まぁまぁ落ち着いてください。あのまま落下すれば死にいたることもありますが、それを簡単に回避する方法もきちんと用意されておりますので第一ステージへ移動してから参加不参加を決めてください。辞退したいチームは受け付けます。ただし、途中棄権ということでこれまでに集めたポイントは全て没収とさせていただきます。》
 
会場からは更に大きなブーイングの嵐が起きた。それに混ざってカイもこぶしを何度も上に突き上げ、「ブーブー!」と言った。
 
「ブーブーッ! ブーブッ……うぷっ……吐きそう」
「やっぱりくじは“アタリ”じゃなくて“ハズレ”だったみたいだね」
「アールが捕らわれてたら全力でがんばっちゃうけど、ヴァイスだもんなぁ」
「ヴァイスも仲間でしょ」
 と、ムッとする。
「もちろんヴァイスでも助けたいしがんばっちゃうけど、気持ちの持ちようが全然違うっていうかさぁ」
 
これまで静かにモニターを眺めていたベンが口を開く。
 
「我々からしても敵の仲間を助ける気にはならんな。グロリアが捕らわれているのなら話は別だが」
「そっちは金のプレートのことだけ考えていればいいじゃない。どっちにしろヴァイスを助けられなかったら次のステージに進めないんだろうし」
 と、アールはますます不機嫌に言った。
「仕方ないな」
 逆なでするように、そう答えた。
「そういえばスーさんは?」
「ヴァイスと一緒なのかな」
 
しかしスーはヴァイスが別の場所へと転送される前に誘導係によって引き離されていた。人々の足の間を縫うように仲間を探しまわり、アールを見つけてピョンと肩に飛び乗った。
 
「わ、びっくりした!」
「スーさん、どこにいらしたのです?」
 
スーはモニターを指差した。
 
「君は駄目って言われたのかもね」
 アールがそう言うと、スーはその通り!と拍手をした。
「スーさんも仲間の一員ですからね」
「くじはスーちんの分なかったけどねぇ」
 と、カイ。
「そりゃあスーちゃんだったらあの鳥かごから簡単に脱出できちゃうからじゃない? 平たくなればスルンとね」
 
スーは自慢げに体を平たく伸ばして見せた。
 
「チーム戦とはいえ、2名で参加した方は大変でしょうね、一人は捕らわれてしまったのですから、一人で助けなければならないのですから」
「確かにそうかも……」
 

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©Kamikawa
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