voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国10…『気になりますか?』 ◆

 
森の中を駆けて行くアールとルイ。出口への矢印看板を目印にゴールを目指す。
ゲーム終了のカウントダウンが始まっていた。3人の男たちはまだ諦めてはいなかった。ゴールの前で奪い返すことが出来たら残り時間が少なくてもそのポイントを手に入れられる可能性が大いにあるのだ。
ルイは背後を気にしながら、個壁結界を立てて追ってくる男たちの邪魔をした。結界で囲むことが出来れば早いが、ここは森の中だ。木が密集していて男たちを囲む結界を張れるスペースがない。
 
「アールさん!」
 
アールの真横から2人組の女が飛び掛ってきた。
 
「お宝よこせー!!」
 
アールは咄嗟に地面に転がるように避け、立ち止まらずにまた走る。宝を持ってゴールに向かっていることを知った他の参加者たちが一斉にアールとルイを待ち構えていた。ゲームが始まった瞬間から宝を探すのを放棄してゴールで待ち構えている者もいた。
飛んでくる様々な属性の魔法攻撃を死ぬ物狂いで避けるアールと、その後ろから彼女を守ろうと必死にロッドを振るうルイの汗が飛ぶ。
 
そして、ゴールが見えたとき、アールは一瞬自分の目を疑った。《お宝はこちらへ》と書かれている看板の矢印が差しているのはなんと、ひとまわり大きく作られたバスケットゴールだった。
 
「冗談でしょ?!」
「援護します!!」
 
ルイが周囲に集まってきていた参加者を風の魔法で吹き飛ばし、アールが向かっているゴールへの道筋に背の高さが異なる結界を並べた。アールは地面を蹴って階段のように駆け上がると、最後の結界から高らかと飛び上がった。
 
残り10秒。
 
ルイはハッと自分が持っているリュックサックを背中から下ろして一か八かゴールに向かって思い切り投げた。勢いよく飛んだリュックはアールが王冠をゴールに入れる前にガシャン!と見事ゴールリングを通り、その直後にアールの手から王冠もゴールに納まった。
 
「わっ! ……とっと、」
 走りつかれた足で着地したアールはふらついたが、ふぅとため息をついてルイを見遣った。
「ぎりぎり、間に合いましたね」
「ほんと?! やったぁ!」
 と、喜んだアールだったが、その笑顔はすぐに消えた。
 
他の参加者たちの冷たい視線が痛かった。
二人は出口の受け付けでポイントを貰い、カードを見て確認したあと、目を見合わせて笑った。宝探しの会場を出ると次のゲームを探すために一旦立ち止まった。周囲は人でごった返している。
 
「僕たちが取得したポイントも含め、いつのまにかポイントが増えていますね」
「うん」
「次はどうしましょうか」
 と、パンフレットを開く。
「…………」
「なにか参加したいゲームはありますか?」
 と、アールの顔を見遣ると、アールは浮かない表情をしていた。
「どうかしましたか……?」
「あ……ううん。なんかごめん」
「え?」
「嫌だったでしょ? 騙してお宝奪うなんてこと……」
 
ルイは少し驚いて、優しく笑った。
 
「騙してはいけない、奪ってはいけないというルールはありませんから」
「でも……ルイだったらしないでしょ? こんなこと。引いたよね」
 と、視線も肩も落とす。
 ルイはそんなアールを眺め、少し考えてから真面目な口調で言った。
「気になりますか」
「え……?」
「僕からどう思われているのか、気になりますか?」
「…………」
 

 

僕からどう思われているのか、気になりますか?
 
ルイはどういう気持ちで訊いたんだろう。
 
そして私はこの言葉を投げかけられたことで、自分がいかに人の、仲間の目を気にしていたのか痛感した。
私は嫌われたくないと思っている。
既に万人から好かれるような人間じゃないから、これ以上は嫌われたくないと思っている。
 
それは何故か。
 
いじめられていたときのトラウマもあるし、嫌われたいと思う人の方が少ないから当たり前でもあるけれど、きっと、この世界で生きている私(アール)は、ほんの少しでも環境が変わることに怯えているんだろう。
 
私に、私たちに降りかかる問題で変化してゆく環境はまだいい。人生とは変わりゆくものだと思っているから。
でも、人が、人間関係が変わってしまうことがなによりも怖くて、不安になる。
 
仲間の目を気にして、自分らしさなどどこにもない。
でもそれでいいと思ってた。
この世界で自分らしさなど必要ないから。
この世界で少しでも楽に呼吸が出来るように、いい子でいたいと思ってる。
きっとそう。
 
私は自分の為に生きている。
誰かの為と思うことも、元を辿っていけば自分の為になっている。
 
私はそういう人間だ。

 
ルイはアールの目から視線を逸らさなかった。その瞳の奥を覗きこむように、決して自分からは目を離さなかった。彼女が僕からの評価を気にしているのは、もしかしたら……そんな顕微鏡で見てもわからないくらいに小さな希望を、彼女の瞳の奥から感じ取れやしないかと探していた。
けれど、その視線から逃げるように、アールは目を伏せた。そして──
 
「カイ?」
 
自分ではない他の仲間の名前を口にした。質問の答えを出さないままに。
 
「アールじゃーん! なにしてんのー?」
 と、カイが人ごみの中歩み寄って来た。
「ルイも一緒かぁ」
「宝探しゲームが終わって、次どこに行こうか考えてたとこなの。カイは?」
「俺はねぇ、このあと大食い選手権に出るんだ」
「なにそれ」
「午後のチーム戦がはじまる前のお昼休憩の時間に行われるらしいんだけど」
 と、受け取ったチケットを見せた。「食べ放題!」
「へぇ……でも大丈夫なの? 没収されたりしない? ポイント」
「大丈夫、大丈夫、大丈夫。他のみんなは何してんの?」
「わからない。会ってないし連絡もないから」
「各々、自分に合ったゲームを見つけているのだと思いますよ」
 と、ルイ。
「そっかそっか。じゃあさ、大食い選手権見に来てよ。誰が一番食べるのか賭けたりも出来るんだって。俺っちに賭けてよ、頑張っちゃう!」
「そういうのはほとんど勘だからやめとく」
「カイさん、参加されるのは構いませんが、食べ過ぎないようにしてくださいね」
「え、なんでさ。大食い選手権なのに食べ過ぎないとか!」
「そうですが……チーム戦に参加する場合、なにが行われるのかわからないのですよ。食べ過ぎてしまうと動けなくなります」
「その時は消化を早める魔法をかけてくれたらいいよ」
「そんな魔法あるの?!」
 と、アールは目を輝かせた。いくら食べても消化が早ければ太らないのではないだろうか。
「いえ……。消化を早める薬は売っていますが持ち合わせておりません」
「えー、じゃあほどほどにするよ……でもそれじゃあ優勝は狙えないや。みんなお腹壊してくれたらいいのに」
 

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