voice of mind - by ルイランノキ


 ゲーム王国9…『ポイントを貸せず為に』

 
横取りを狙っていた男たちの攻撃魔法は咄嗟に対応したルイの結界に弾かれた。
アールとルイは結界の中で身を構えた。
 
「クソ、やっぱ結界使えたか」
 と、ひとりの男が言う。
「だから言ったろう」
「だから奇襲かけたんだろうが」
「でも失敗じゃねーか!」
 と、3人の男は言い争っている。
「──まぁいい。俺はここでこいつらが観念して結界から出てお宝を渡すのを待つ。お前等は別の宝を探して来い」
 3人の中でも一番体が大きい男がそう言った。色黒で、髭も濃い。
「ひとりで大丈夫か? 逃げられるんじゃねーのか?」
「相手は女と細いガキだぞ。問題ねぇ」
「じゃあ負かせた。あとで合流だ。残りの一個で全部揃う」
 
それを聞いたアールは驚いた。
 
「え、もう4つ見つけて手に入れたんですか?」
「あんたが持ってるやつで4つ目だ。まぁ既に俺らのものだけどな」
 
アールはルイと目を見合わせ、大きなため息をついた。
 
「ルイ……私からこのゲームがいいって言ったけど、これじゃあ時間の無駄だよ……。一緒に参加するプレイヤーの運が悪かった。このままここにいたって制限時間が来て終わりでしょ? 逃げようにも見張られてるし、こっちからお宝奪うのなんて二人じゃまず無理……。だったら途中だけど止めて他のゲーム探したほうが利口じゃない?」
「諦める、ということですか?」
 
3人の男たちは腕を組んで二人を見遣った。
 
「利口な考えだな。それ一個ゴールまで持って行けたとしても大したポイントにはなんねぇし。諦めろ」
「でもここですんなり『はい諦めます』って言ってせっかく見つけたお宝渡して去るのは癪に障るから、お宝渡す代わりに情報下さい。ポイント稼ぎやすいゲームとか、午後からのチーム戦のことで知っていることとか」
「うむ」
 と、男は顎の髭を触りながら仲間同士顔を見合わせた。
「まぁ俺らも悪魔じゃねんだ。知ってる情報くらいくれてやる。午後からのチーム戦だが、参加しない選択肢もある。チーム戦には出ずに宝探しなどのゲームでポイントを稼いで賞金を手にする奴もいる。というのも、過去に死者が出てるんだよ」
「死者?」
 と、アールとルイは声をそろえて聞き返した。
「あぁ、参加する者は契約書にサインが必要だ。契約書にはこう書いてある。《いかなる理由で怪我、死亡しようとも、一切主催者、責任者に責任を問わないものとする》全て自己責任ってことだ」
「……危険だね」
 アールはルイを見上げた。
「他のゲームで地道に稼いだほうが良いかもしれませんね。一度全員で集まって、どのゲームで誰が効率よく稼げるか調べましょう」
「だがもうひとつ教えてやる。チーム戦がはじまったら半数以上のゲームが封鎖されるんだ。何度もゲーム大会に参加しているものは知っているが、初めての者は知らないから戸惑うだろうな」
「強制参加じゃないけど参加しないとなかなかポイントがたまらないってことか」
 と、アール頭を悩ませた。
「情報は以上だ。お宝よこせ」
「ルイ」
 アールはルイに結界を外すよう促して、王冠を彼らに渡した。
 
彼らは王冠を受け取ると、これまで集めた宝を入れたリュックサックのファスナーを開けて王冠も入れてしまおうとしたが、既に銀の杯やパールのネックレス、ルビーやサファイアが嵌め込まれたお皿などで幅を取られ、入らなかった。
 
「お前の鞄に入れるか?」
 と、ひとりの男が仲間に尋ねたその瞬間、アールの足がお宝が詰まったリュックを上空へと跳ね上げた。
「ルイッ!」
 アールはルイの名前を呼び、リュックが落下するまでの短い間に王冠までも奪い取って首にかけていた剣を元の大きさに戻して彼らから距離を取った。
 
ルイはアールに名前を呼ばれた合図で全てを察し、蹴り上げられた宝をリュックごと結界で囲んだ。3人の男のうち1人がすぐさま宝を取り返そうとしたが結界の中にあるため手出しが出来ず、ルイの手に渡った。
 
「どういうつもりだ……?」
 怒りに満ちた笑みでアールを見遣る男。
「人から奪ってはいけない、人を騙してはいけないルールなんてないと思うけど」
 と、アールは王冠を持って走り出した。ルイもリュックのファスナーを閉めてあとを追う。
「まて! 逃がすか!!」
「ルイ援護お願い!」
「はいっ!」
 戸惑っている暇もない。背後から武器を構えた大柄の男たちが追ってくる。
 
男たちは攻撃魔法を操れたが、ルイの結界によって全て弾かれた。アールの足は決して速くはないが、昔ほどの遅さではない。ゴールを探しながらひたすらに走った。制限時間はもうすぐだ。
 
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ゲームセンターの前でポイントカードの変動を眺めていたのはカイだった。その両脇にはシキンチャク袋に納まらなかった大きなぬいぐるみを抱えている。
 
「減ったり増えたりしてるけど減らしてたのは俺だけじゃないよねぇ」
 ならそんなに怒れらないかな、と鼻歌を歌いながら次のゲームを探し始めた。
「美人をナンパして連れて来れた人に1万ポイントとか、お菓子の大食い競争とかないかなぁ」
「あるよ」
 と、突然耳元で呟かれ、びくりと肩を震わせて声の主を見遣った。
 
30代後半くらいの190cmはあるであろう細長い男が髭のない顎を摩りながらカイを見下ろしている。そしてその目線をカイの足元から体全体を嘗め回すように這わせ、うんうんと納得したように頷いた。
 
「俺男には興味ないっす!」
 カイは男の奇妙な視線に怯えてそう言った。
「いやいや、大食い選手権のオーナーだよ私は」
「大食い?! お菓子の?」
「いや、料理は何種類もある。バイキング形式で、どれだけ食べたかではなく、どれだけ体重を増やせたかで勝負するんだ」
「ほう?! お菓子もあるの?!」
「あるさ。ただ、優勝を狙うにはお菓子より肉を食べたほうがいい」
「肉も食うしお菓子も食う! どこでやってんの?!」
「すぐそこだが、開催はもう少しあとだ。ちょうどお腹が空くであろう昼前にたった一回だけ開催する。料理の数にも限界があるからな。で、俺は参加してくれるメンバーを集めているところさ」
 男はポケットからゴムで束ねてあったチケットの1枚をカイに渡した。招待状だ。
「うひょー、楽しみ!」
「場所は裏に書いてある。大食いそうな奴と食い意地張ってそうな奴ばっか招待しているから強敵だぞ」
「えー…じゃあどうしょっかなぁ」
 チケットを眺めながら考えた。お菓子は食べたい。たらふく食べたい。
「参加だけでも5ポイントだ。」
「まじ?! 参加する! ……ポイント没収とかないよねぇ?」
「最下位は取得してあるポイントの半分を没収だ。ズルした奴もな」
「最下位にはならないかなぁ……おっちゃんさ、あんま食べなさそうな人探しておいてよ」
「んなこと出来るか。料理はたんまりあって、全部食い尽くしてもらわねぇと困るんだ。参加人数も決まっているし、食えねぇ奴は誘わない」
「俺みたいなのもいるの? いかにも沢山食べそうな大男以外の」
「安心しろ、用意している体重計が100kgまでしか計れないから、100s以上ある男は参加できないんだ」
「んじゃあ見た目だけなら誰が一番大食いなのかわかんないってことかぁ」
「ちなみに君たちが大食い選手権に参加している姿は巨大なスクリーンに映し出されるようになっていて、誰が一番体重を増やせるのか賭けるゲームも同時に行われているから胸には番号札をつけてもらうことにもなるが」
「えー、恥ずかしい!」
 と言いつつも、既に参加する気満々である。
 

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©Kamikawa
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