voice of mind - by ルイランノキ


 静かなる願い3…『おとぎの国の静かなる願い』

 
結局、居場所は知らせなかった。
 
《【伝言】
シェラ!元気だよ!仮釈放おめでとう!
シェラも元気そうでよかった(ハート)
このサイトのこと知らなかったんだけどシェラからメッセージが届いてるってルイから聞いて驚いた。嬉しかったよ、ありがとう。
お墓参りのことだけど、みんなシェラの帰りを待ってると思うよ。誰もシェラのこと責めてなんかないよ。
実は勝手ながら、シェラの故郷、カモミールに行きました。そこで、シェラのおばあちゃんや、お兄さんとお会いしました。そして、勝手ながらシェラのお母さんのお墓に手を合わせに行きました。
余計なお世話だったと思います。ごめんなさい。
でも、カモミールでシェラのこと知れてよかった。みんなに愛されてるなって思ったよ。だから、会いに行ってあげてください。
そういえばお兄さんと沢山会話したのに、名前を訊きそびれました。よかったら教えてね。
 
今は色んなところを転々としてて忙しい毎日なの(泣)
落ち着いたらまた連絡します。
 
(追伸)ルイです。【お友達登録】していただけますでしょうか。登録すれば他の方には見れないメッセージが送れるようになりますので、そちらから連絡先をお伝えします》
 
ルイが送信し、もうひとつアール宛にメッセージがあることに気付いた。知らない名前だ。
 
「アールさん、この方からもメッセージが来ていますが、お知り合いですか? もしかしたらアールさんと同姓同名の方へ送られたメッセージかもしれませんが」
 
アールは送り主の名前を見遣った。
 
「あ、スマイリーさん!」
 個性的な名前だったため、物覚えの悪いアールでもすぐに思い出した。ログ街で出会った人だ。農業の仕事を紹介してくれた。
 
《 宛先:アール・イウビーレ様
 差出人:スマイリー・オール
 
【伝言】
アールさん、突然のご連絡失礼致します。連絡先を聞いていたはずなのですが紛失してしまい、こちらから連絡させていただきました。もしご本人の目に止まる事があれば一度そちらからご連絡いただけると助かります。
タダ働きさせてしまったため、遅ればせながら給料をお渡しできればと思っております》
 
「数ヶ月前に投稿されたものですね。気付くのが遅れてすみません……。このサイトに登録したのが割と最近なので」
 と、ルイ。
「ううん。でも今更感があるよね。お金もらえるなら嬉しいけど、もうログ街には戻りたくないし……」
「そうですね……。アールさんにお任せします。受け取り方は色々ありますよ、転送ロッカーでも可能ですし」
「そっか。……受け取っちゃおうか」
 と、子供のように笑う。
「ではその趣旨をお伝えしておきますね」
「宜しくお願いします」
 と、ルイ任せ。
「ノートパソコン使ってるのたまにしか見ないけど、どういうときに使ってるの?」
「緊急の調べものがあるときに。実は携帯電話用の充電シールは販売されていますがパソコン用のものはないので、安易に使えないのです。街に寄ったときなどに充電してはいますが」
「そうなんだ。なんでパソコン用がないんだろう」
「携帯電話自体が今でこそ街の中でも普及し始めていますが、元々は旅人用に作られたもので、充電も楽に行えるようにと開発されました。パソコンは持ち歩いている人はほとんどいませんからね」
「なるほど納得。携帯電話はネット使えないの?」
「手続きを行えば使える機種もありますが……」
「高いんだね」
「えぇ、高額です」
 
時刻は午前6時を回り、アールとルイは本屋敷に泊まったカイ、ベン、ジャック、スーを起した。
ヴァイスは外らしい。
 
「ヴァイスさんに朝食がいるか訊いてもらえますか」
 と、ルイはアールに頼み、テーブルに並べていた朝食のラップを取り、人数分のコーヒーを入れ始めた。
「え、私が?」
「……なにかありましたか?」
「なにもないです……。多分近くにいると思うから見てくる」
 と、屋敷を出て行った。
 
なにもないけど、と思う。昨夜は少し気まずかった。
外に出ると晴天。気持ちのいい風に深呼吸をして道なりに進んだ。崖の手前まで来ると、だだっ広い平原に目を奪われた。遠くの方には山が見える。草原には草食系の魔物が生活をしている。
 
「すっご……」
 
ここでお弁当を食べたいくらいだと思いながら、ヴァイスを捜そうと横を見遣ると彼はすぐそこに立っていた。存在感がないというか、気配を消すのが上手い。
 
「いるならいるって言ってよ」
「いる」
「遅いよ。ルイが朝食いるかって」
「……いや」
「そう。じゃあ30分後くらいに戻ってね、本探し再開します」
「…………」
「お返事」
「……仕方ない」
 
一同は朝食を食べ終えると休む間もなく本探しを始めた。本を探すことに時間を取られたくはない。
苛立ちが募り、ため息も多くなる。
けれども《トーマの冒険記》を探したときよりも早くにそれは見つかった。というのも今回探さなければならない本のタイトルは《おとぎの国の静かなる願い》。文字数が多いこととはじめは平仮名であることを考えると当てはまらないものをすぐに排除していけるため、比較的早く見つかったというわけだ。
 
「あったぞ」
 本を持ってきたのはベンだった。
「当たりじゃな」
 と、テトラ。
「どんなお話なの? 本の中で死んだりしない?」
 アールは本を開こうとするテトラを制止するように訊いた。
「ルールははじめと同じじゃ」
「じゃあ、誰か残って次の本を探さない?」
 と、提案する。
「そうですね。シドさんたちを呼び戻して、残る者と本の中へ入る者とでわかれましょうか」
「シドに連絡する」
 と、ジャックがシドに電話をかけた。
 
電話が終るまで、次の本のタイトルを訊いた。
《ゲーム王国》というなんだかとても楽しそうな名前に、カイが手を上げて発言した。
 
「はいはーい。そのタイトルなら俺見たくなっちゃうから見つけてたら見てると思うから俺がもう調べた棚にはないと断言いたします!」
「私もそのタイトルなら覚えてるはず……」
 と言いつつ、あまり自信はないアール。
「ではお二人が探していない棚を」
「帰ってこねぇってよ」
 と、ジャックが電話を切りながら言った。「そっちに任せるってよ」
「なにそれ……ジョーカーさんは?」
「俺はジョーカーの連絡先知らねんだが」
 ジャックはベンを見遣った。ちょうどベンも電話をかけているところだった。
「連絡つかない」
「そのくせ鍵を手に入れたらよこせとか言うんでしょ?」
 アールは不機嫌そうにそう言った。
「仕方ありませんね……僕らだけでどうにかしましょう」
「誰が入るんだ?」
 ベンはため息混じりに言った。
「お前等で入ってきたらどうだ?」
 と、ジャック。「俺らと一緒より、仲間同士の方がなにかといいだろう」
「…………」
 アールたちは目を合わせた。
「ベンさんは?」
「俺はどっちでもいい。本を探すのも面倒だが、鍵が手に入るわけじゃねんだ。鍵はプレートを集めてからだろ?」
「では、《ゲーム王国》はジャックさんとベンさんにお願いします。本の中には僕たちが」
 
ルイ、アール、カイ、ヴァイス、スーが本の世界へ入ることに決まった。
カイとアールが自分たちが既に探し終えていた本棚をジャックとベンに伝えてから、テトラは時間制限内に金のプレートを手に入れるようにと念を入れ、一行を本の中へと誘った。
 
アールたちが本の世界へ入って行ったのを確認し、ジャックとベンは袖をまくって次の本を探し始めた。
 

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