voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記17…『ジョーカーの企み』

 
ひょうたん島のD地区の前に、フードを被った男が立っている。派手な格好では目立つために黒いフードつきのコートを纏っているのはジョーカーだった。周囲を見回し、E地区がある方角を見遣った。
 
「さて、パーティはこれからだ」
 
━━━━━━━━━━━
 
アールは席に座ってトーマが楽しそうに女性と会話をしているのを満足気に眺め、何気なく視線をずらした。積極的な女性がヴァイスの腕にしがみ付いているのが目に入る。
 
「…………」
 
その女性はヴァイスに話しかけながら、可愛らしくぴょんぴょんと飛び跳ね、豊満な胸をすり付けているように見える。
 
「…………」
 アールは胸の奥で疼く痛みに首を傾げた。
 
周囲は騒がしい。皆、運命の相手とうまくいくように必死に自分をアピールし、会話を楽しんでいる。ひとりでいるのはアールだけだ。次第に視線が落ちていった。
 
「えぇ、残念ながら僕は男性の方が……」
 と、ルイは女性と会話をしながらアールに目を向けた。寂しそうに座っている姿が目に入る。
「え、じゃあなんで参加してるの? 男に飽きたとか?」
「えっと……親が心配しているので」
「安心させたいから女性と結婚したいってこと?」
「そう……ですね」
 否定したいけれど出来ない。
「ごめんやっぱ私無理だわ」
 と、ひとりの女性はルイから去って行った。残りは一人。
「私からも質問いい?」
「はい……」
 対応をしながら、ちらちらとアールを気にかける。
「じゃあ、相手の女性には好意を持たないってこと? 男性好きの自分を受け入れてくれる女性なら誰でもいいってこと?」
「家族として一生共に過ごすのですから、誰でもいいというわけでは」
 と答えながら、この女性も去るいい案がないかと考える。できれば傷つけたくはない。
「んー、子供は?」
「え、子供?」
「結婚するなら、子供、欲しくないの?」
「えっと……」
 ルイはまだ17だ。そこまで考えたことはない。
「子供は嫌い? 女の子とエッチできるの?」
「嫌い、ですね……」
 と、思わず嘘をついた。苦手な話題だ。とはいえ、嘘を口にするたびに心が痛んだ。
「そう……両方愛せるっていうから興味本位で声かけたのに」
 と、女性はガッカリしたように呟いた。
「すみません……」
「ううん。あなたも色々と大変なんだよね、親には心配かけたくないだろうし。でも、男性が好き……」
「…………」
「私とは縁がなかったけど、幸せになってくださいね。きっとありのままのあなたを受け入れてくれる女性がいると思うわ。男性もね」
 と、言い残し、彼女はカイの元へ移動した。
 
一人になったルイは、アールの元へ歩み寄った。
 
「どうしましたか? 料理、お口に合いませんか?」
「え? あ、美味しいよ! 女の子は?」
「去っていきました」
 と、隣に座る。
「ごめんね、嘘つかせて……」
「いえ。トーマさん、いい人は見つかったのでしょうか」
「うーん、どうかな……」
 と、トーマの方には目を向けず、グラスの水を飲んだ。
「……? あの女性とはいい感じなのでしょうか」
 トーマの元には3人の女性がいる。中でもアールがトーマの元へ行かせた女性と会話が弾んでいるように見えた。
「…………」
 アールは一瞬だけトーマを見遣る。「どの女性?」
「……髪をアップにしている女性です」
「あぁ、私が促したの。ベンさんに好意を持ってたみたいなんだけど、相手にされなかったって言いに来たからトーマさんを薦めてみたの」
「そうですか」
 と、アールの様子を気にかけながらルイはもう一度トーマに目を向けた。
 
なにか気に障ることでもあったのだろうか。──と、視線を少しずらすと、ヴァイスが壁に寄りかかって立っていた。そんな彼にくっついて離れない女性がいる。
 
「…………」
 ルイは暫くそんなヴァイスを眺め、アールに視線を戻した。
 
そして少し考え、今一度二人を見遣った。
 
「……アールさん、ヴァイスさんはあの女性といい感じなのでしょうか」
「さぁ、どうなんだろうね」
 と、見向きもしない。
「…………」
 ルイの心をかき乱す、嫌な予感がした。
 
アールの薬指に嵌められた指輪に視線を落とす。よく見れば傷だらけでくすんでしまっている。それだけの時間を、彼女は同じ指輪を嵌めている男性のいない世界で過ごしているのだ。
 
「アールさん……」
「ん?」
「そろそろ、時間ですね」
「あ、うん」
 食事会のお開きの時間が近づいていた。
 
──と、その時だった。
突然外から悲鳴が聞こえてきた。それも「逃げろ!」「魔物だ!」「誰か!」という切羽詰まった声があちらこちらから聞こえてくる。
 
「魔物?!」
 と、アールとルイは顔を見合わせ、家を飛び出した。
 
シドたちも続けて外に飛び出すと、参加者の女性たちは不安げに中から外を眺めた。
 
外にいた人々はE地区に目を向けている。木々の背を軽々と越える魔物が雄叫びを上げていた。
 
「なにあれ……」
 大きな胴体は灰色の毛で覆われ、顔はモグラのように鼻が突き出ている。
「バニップという魔物です」
 ルイが答えると、シドが誰よりも早くE地区へ走って行った。
 
シドに続いてベン、ヴァイス、ジャックも走ってゆく。
 
「僕らも行きましょう」
 と、ルイ。
 アールはトーマに目を向けた。
「トーマさんはここにいてみんなを守って。カイも一緒に」
「お、おう」
 と、ぎこちなくトーマは答えた。
「残ってる料理食べていい?」
 と、カイ。
「全部食べて」
 そう言い残し、ルイとアールも遅れてE地区へ向かった。
 
「アールさん気が利きますね、トーマさんに女性陣を任せるとは」
「どうかな、男らしく守ってくれるといいんだけど」
 
E地区に向かう二人に、島の住人が声をかけた。
 
「戦うならC地区を守ってくれ!」
 自己中なお願いかと思ったが。
「C地区には動物がいるんだ。人間は自力で海にも空にも逃げられるが動物はそうもいかん。食われちまう!」
「わかりました!」
 と、ルイ。
「動物いたの? あとで見に行きたい」
「僕もです」
 

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©Kamikawa
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