voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記16…『嘘八百』

 
「でもルイさんって……両方いけるんですよね?」
 と、一人の女性が言った。
「両方いける?」
「どっちのほうがタイプなんですかぁ?」
「すみません、なんの話でしょうか」
 
その頃、アールは空いている席に座ってルイの手料理を堪能していた。どれも美味しい!肉にほお張ったところで、女性に囲まれているルイと目が合った。
 
「…………」
「…………」
「…………」
 アールはゆっくりとルイから目を逸らした。目が合った理由を察したからである。
 
気まずそうにもぐもぐと肉料理を食べていると、ルイが歩み寄って来た。
 
「アールさん……」
「ふぁい……」
 肉をほお張っているため、変な返事をする。
「両刀とはどういう意味でしょうか……」
「…………」
「僕のプロフィール欄になんと書かれたのです……?」
「忘れちゃった……」
 と、目も合わさずに肉を飲み込んだ。
 
ルイは椅子の上に置かれていたプロフィールを見つけ、拾い上げた。
 
「あ……」
 見ちゃダメ、と言おうとしたが時すでに遅し。
 
《名前…………ルイ・ラクハウス
 趣味…………料理。掃除。
 特技…………料理。掃除。癒しのほほえみ。
 性格…………穏やか。優しい。真面目。
 タイプ………男性と女性
 その他………男性と女性、どちらも愛せます》
 
「アールさん……?」
「ごめんなさい」
「どういうことですか?!」
 と、小声で問いただす。
「だって! わかるでしょ! これはトーマさんのための食事会なの! トーマさんを見てごらんよ!」
 と、周りに聞こえないように小声で耳打ちをするアールに少し動揺した。
「誰もいないでしょ?! ちょっと癖のあるプロフィールにしない限りトーマさんに勝ち目がないんだから! これでもルイの方が人気なんだからわかるでしょ!」
「で、ですが……」
「お願いっ! トーマさんの相手を探さなきゃいけないんだからみんながモテちゃだめなの!」
「しかしこれは……」
「お願いお願いお願いお願い!」
 と、手を合わせて必死に頼む。
「わ……わかりました」
「ありがと! できれば男性のほうが好きってことにして」
「正気……ですか……?」
「お願い。トーマさんのためなの。鍵のためなの!」
「…………」
「お願い」
 と、目を潤ませる。
「わかりました……」
 消え入りそうな声でそう言ったルイは、女性陣たちの元へ戻って行った。
 
ほっとしたアールはトーマの方に目をやろうとしてビクリとした、ヴァイスが目の前に立っていたからだ。無言で見下ろされ、視線を逸らした。ヴァイスもルイと同じ理由でアールに問いただしに来たのである。
 
「プロフィールになんと書いた」
「えーっと……特に……なにも」
 と言うアールの横から椅子の上にあるプロフィールに手を伸ばすヴァイス。
「…………」
 
《名前…………ヴァイス・シーグフリート
 趣味…………黄昏。スライム。
 特技…………狙い撃ち。
 性格…………暗い。引きこもり。
 タイプ………放置してくれる人。
 その他………仕事以外家から一歩も出たくない引きこもりです》
 
「ごめん。わかって」
「…………」
「同じこと言うけど、トーマさんを見てごらんよ! トーマさんの為の食事会なのに誰もいないでしょ?! こんなマイナスなプロフィールにしないとトーマさんに勝ち目がないんだから! こんなプロフィールでもヴァイスの方が人気なんだからわかるでしょ!」
「…………」
「お願いわかって」
「妙な質問をされると思ったが、理解した」
 と、ヴァイスはアールに紙を渡して女性陣の元へ帰って行った。
「あながち嘘でもないと思うけど」
 と呟く背後で紙を拾い上げる音がした。振り返るともう一枚のプロフィールを見ているシドがいた。
「あ……」
 
《名前…………シド・バグウェル
 趣味…………魔物狩り。
 特技…………刀捌きと毒舌。
 性格…………上から目線の俺様気質。
 タイプ………言いなりになってくれる女
 その他………態度が悪いがそれが俺です》
 
「バカにしてんのかテメェ?!」
「しーッ!!」
 と、アールは両手でシドの胸倉を掴んで引き寄せた。
「静かにしてよ! これにはわけがあるの! シドの性格を知らなかったらみんな冷たくあしらわれてショック受けるだろうし怒って食事会どころじゃなくなると思ったから先に言っておけばいいかなと思ったの!」
「どーりで適当にあしらってんのにニヤニヤとついて来るわけだな!」
 毒舌俺様気質のシドが好きな女が群がっているらしい。
「鍵! 全部鍵の為なの! だから我慢して! ていうかシドのところに集まってる女の子たちをどうにかトーマさんのところに流してよ!」
「うぜぇから流そうとしてんのにテメェが変なプロフィール書くからそれでもいいとか思ってやがるバカ女が離れねんだろーが!」
「私のせいにしないでよ! 私も私なりに頭使ってんだから!」
「俺はもう出る」
 と、外に出ようとするシドの腕にアールはしがみ付いた。
「鍵!! 協力してくれないならたとえ手に入っても渡さないよ!」
「…………」
 シドは無言でアールを睨みつけた。
「鍵全部自分等で持ってたいんでしょ? これまでの鍵も全部そっちが握ってるもんね」
「…………」
「最後まで付き合ってくれたら鍵はそっちに渡すから」
「……チッ」
 と、舌打ちをして女性陣の元へ戻って行ったシド。
 
アールは大きくため息をついた。
 
他の男性陣のプロフィールは比較的普通にした。カイの性格欄には「女好き」と書いておいたが。
 
「おかわりある?」
 と、ひとりの女性が声をかけて来た。グラスが空だ。
「あ、少々お待ちください」
 急いでキッチンに行き、ワインボトルを開けた。
 
女性のグラスに継ぎ足していると、女性がつまらなそうにため息をこぼした。
 
「なんか、好きな男性は全く見向きもしてくれないから食事を楽しむしかないわ」
 20代半ばの、胸元が大きく開いている女性だ。
「どなたにアプローチを?」
「ベンさん」
「おっと……」
 意外な名前が出てきた。「なるほど」
「あの人はっきりものを言うのね。君みたいな“女を武器にする”女性には興味がないって言うのよ」
「すみません……」
「あなたが謝ることじゃないわ。それに、興味ないくせにニコニコしてるタイプ、嫌いだもの」
 と、ルイを見て言う。「その点、はっきり言ってくれる人の方が好きよ」
「なるほど……」
 と、トーマに目を向けるが、彼はまだ一人で食事をしている。
「トーマさんとか、どうですか? 彼って人気ないんですね?」
 おじさん丸出しのジャックよりは人気があってもいいものの、ジャックの方にはずっと同じ女性がついている。
「あの子は若すぎるわ」
「年齢だけですか?」
 見た目はよくも悪くもなく、普通といえる。
「なんか……冴えないのよね。だから男性としての魅力を感じないのよ。異性として見れないというのかしら」
「あぁ……わかる気がします……。でもジャックさんよりはいいと思うんですけど」
 ジャックには失礼だが。
「おじさん好きにはたまらないと思うわ。筋肉もあって男らしさもあるじゃない? トーマくんは細いし……」
「なるほど……」
 けれどもだからと言って放置は出来ない。
「でも、若いってことはこれから十分に変わっていけるってことですよね。大人だと今更自分を変えるのは難しいですけど」
「そうね。でもプロフィールに女性らしくて色気がある人って書いてあったじゃない? 普通思っていても言わないわよ。どんだけ下心あるの?って感じ」
「それは……彼が、素直なんだと思います。自分に正直で、素直なんです。それに、嘘がつけない人で、普段もっとぼろぼろな格好をしているんですけど、私が着替えるように言ったんです。でも、普段の格好のほうがいいと最初おっしゃられて。これが自分だからと」
「そう……」
 と、考えるようにトーマを眺める女性。
 
もう一押しかもしれない。一か八か、賭けに出てみよう。
 
「実はここだけの話し、彼、まだ、女性とお付き合いしたことがないんです」
「そうなの?」
「女性を知らないから、好きなタイプでさえ想像で答えてて。実際に女性と話してみたら考え方とか好きになる女性とか変わりそうなんですけど、ごらんのとおり誰からも相手にされていなくて……」
「ふーん」
「話し相手になっていただけないかと……」
 まずは話だけでも。
「やけに彼を薦めるのね」
「参加者の女性の中でもお姉さんが一番色気があるから。お姉さんに相手にされたら彼も喜ぶんじゃないかって」
「そうねぇ……仕方ないわね」
 と、笑った。「可哀想だから話し相手になってあげるわ」
 
そう言ってトーマのところへ向かった女性を見て、安堵したアール。
その後、ちらほらとトーマの元へ移動する女性が増えていった。
 

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