voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記15…『アウェイ』

 
空き家の居間に大きなテーブルが置かれ、ルイの手料理が並んだ。色とりどりのサラダからメインディッシュの肉料理、好き嫌いがないように魚を使った料理など、隙間なく並べられた。テーブルの中央にはパーティを飾る花が置かれ、雰囲気は完璧。
ただ、不機嫌そうにそこに座るのはシド、ベン、ヴァイスだった。
3人は半ば無理矢理集合を掛けられ、参加を強制された。カイ、ジャック、トーマはニコニコと笑顔だ。トーマはアールのお金で新しい服に着替えているが、白いTシャツに黒い長ズボンというラフな出で立ちだ。これにはアールの懐事情に訳があった。
 
「ほら、3人も笑って。不機嫌だったら女性陣のテンションが下がるじゃない」
 と、アール。
 
女性陣は家の外で待機している。男6人に対して、女性人は14人も集まってしまった。
ルイが慌ててもう一つ、テーブルを出した。作り置きしていた料理を並べ、なんとか全員入れそうだ。
 
「ごめんねルイ。こんなに集まるとは思ってなくて……」
 むしろ一人も来なかったらどうしようと思っていたところだ。
「いえ、大丈夫ですよ」
「できればルイも参加して?」
「僕も……ですか」
「お皿片付けたりは私がなるべくやるから」
「わかりました」
「よし!じゃあ女性陣を入れまーす」
 と、手を叩く。「みなさん。これは“鍵を手に入れるため”の、パーティですので、笑顔でお願いしまーす」
「鍵?」
 と、トーマは隣に座っているカイに訊く。
「こっちの話。気にしなくていーのいーの」
 
アールが玄関へ走り、ドアを開けた。チラシを持った女性たちが着飾り、待っていた。
 
「おまたせしました! えっと、残念ながら男性陣は7人です。でも、みなさまに楽しんでいただけるよう、美味しい料理を沢山用意しておりますので、楽しんでいってください! それではどうぞー」
 と、アールは女性たちを室内へ促した。
 
こうしてトーマの結婚相手を探す食事会がはじまった。本気で結婚相手を探している女性は他の女性を押しのけて男性陣が座っているテーブルについたが、その席に座れなかった女性がここぞとばかりに主張した。
 
「こっちの席にも男性がいないとおかしくないですか?」
「あ、すみません行き届かなくて!」
 と、アールは慌てて男性人を3対4で分けた。
「えーっと」
 幹事などやったことがないアールは不慣れながらに頭をフル回転させた。自己紹介などするべきだろう。
「それでは、お手元のグラスを持っていただいて、まずは乾杯を。それから端の方から順に、自己紹介をお願いします」
 
乾杯を合図に食事が始まった。女性陣から順に、自己紹介が始まる。
 
「趣味は手芸で、好きな人とお揃いのセーターとか着てお出かけするのが夢です」
「…………」
 シドたちは相変わらず無反応だが、こういうときに役に立つのがカイだ。
「はいはいはーい! 俺もそういうの好きー!」
 
場が和む。そしてルイも、役に立つ。
 
「他に、どういったものを作られるのですか?」
「マフラーとか、ぬいぐるみとか、小物入れとか、一通りは」
「器用なんですね」
 
アールは部屋の隅っこに置いた椅子に腰掛け、全体を観察しながらうんうんと頷いている。その肩にはスーがいる。そして心配なのは男性陣の自己紹介が回ってきたときだ。シド、ベン、ヴァイスが自己紹介をしてくれるかどうか……。
ルイとカイが積極的に質問をしてくれるお陰で考える時間があった。
 
「そうだ。男性陣のプロフィールは紙に書こう!」
 と、アールはシキンチャク袋からノートを取り出して、女性陣の自己紹介が終るまでにと書きはじめた。
「スーちゃん、トーマさん連れてきて」
 
スーはパチパチと拍手をしてトーマの元へ。トーマは同じテーブルの女性陣に一礼をして、アールの元へ。
 
「自信ない……」
「いきなりなんなの。ねぇ、フルネームと趣味とタイプとか教えて」
「君、俺に気があるの?」
「バカなの? 男性陣のプロフィールは、紙に書くことにしたの」
「なんで」
「自己紹介面倒くせーっていう男性陣を配慮して」
「あぁ……。でも全員に訊くの?」
「女性には悪いけどトーマさん以外はサクラだから適当でいいの」
「さくら??」
「はやく教えて」
 
トーマから詳しくプロフィールを聞き終えたアールは、全て一枚の紙に書いた。それをもう一枚書き写し終えたとき、女性人の自己紹介が終った。
 
「男性側の自己紹介ですがっ」
 と、立ち上がる。「こちらの紙に詳しく書いておきました」
 
ひとつのテーブルに一枚ずつその紙を渡した。
 
「なんで男は紙なの?」
 と、参加者のひとりが言う。ごもっともである。
「口下手な男性がいて、上手く自己紹介できないとのことで、でも、知っていただきたかったことと、時間上、自由に会話をする時間がなくなってしまったので。急遽こういった形を取らせていただきました。ご理解していただけると助かります」
 
なるほどねと頷く女性と、不服そうな表情を浮かべる女性がいるが、文句は言わずにその男性陣のプロフィールが書かれた紙を確認し、回していった。
心なしかシドの眉間のシワが浅くなったような気がしてほっとしているアール。
 
「じゃあ自由に質問していいのかしら」
 と、積極的な女性が言う。
「はい! どうぞ!」
「でも、食事は美味しいけど距離感が気になるわ。私、向こうの席の男性が気になるし」
「えーっと……」
「何も椅子に座らなくてもいいんじゃない?」
「あ、そうですね! じゃあ……立ちパーティと言うことで!」
 そういうと、全員グラスを持って席を立った。
 
アールはトーマに目を向けた。女性陣がそれぞれ気になる男性に歩み寄っている中で、彼に近づいてくる女性はいない。
 
「やばいな……」
 と、回収したプロフィールを改めて見遣る。
 
集まった女性のほとんどは20代半ばから後半だ。本気で結婚を考えている女性を募集したのだから無理もない。もちろん、若い子もいるが、トーマのプロフィールに書かれているタイプが引っかかっているのかもしれない。
 
《女性らしく、色気のある子》
 
「…………」
 色気に関しては排除しておけばよかった。
「どうしてくれるんだよ」
 と、トーマが歩み寄って来た。
「え……」
「そりゃあ俺一人だったら女性たちも納得いかないだろうけど、せめて……」
 と、ルイたちを見遣る。「人を選んでくれよ」
「どういうこと?」
「ルイ、ヴァイス、シド、カイはいらないだろ」
「え、じゃあトーマさんとジャックさんとベンさんだけでよかったってこと? 人数足りなすぎ……」
「カイもまぁ黙ってりゃいい顔してるし、他のも女受けしそうで勝ち目がない」
「あぁ……そういうことか」
 確かに言われてみれば、女性陣はその4人に群がっている。
「タオル、俺が持ってるってこと忘れるなよ?」
 そう言い残して席に戻った。
「……脅し?!」
 

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