voice of mind - by ルイランノキ


 トーマの冒険記6…『別行動』

 
「よかったです。わかりました。また連絡してください」
 と、珍しく肩にスーを乗せたルイは電話を切った。
 
「ヴァイスさんからの電話で、アールさんは無事だそうです」
 
洞窟内では、シド、ベン、ジャックが焚き火にあたっている。ジャックが安堵のため息をこぼした。
 
「そうか。一安心だな」
「はい」
 と、また携帯電話が鳴った。今度はカイからだ。
「カイさんです」
 と、ジャック等に伝え、電話に出た。「もしもし」
『あ、ルイルイ? 電話気付かなくてごめんよー』
「ご無事でしたか。今どちらに? トーマさんとは一緒ですか?」
『うん。えーっとね、助けたミンフラに運ばれて島を出て、雨に打たれながら陸に到着。そこの一軒家のおばあさんの手料理をこれから頂くところです』
「……とにかく安全な場所にいるのですね。ミンフラはどうなりましたか?」
『ここのばあちゃんがね、ミンフラが集まる湖を知ってるらしいんだ。俺たちがいたその島に住処があって、湖はミンフラの憩いの場だってさぁー』
「わかりました。そちらは任せても大丈夫ですか? トーマさんに代わっていただけませんか」
『今? あとでいい? ごはん冷めちゃう』
「わかりました。食事が終ったら連絡してくださいね」
 と、電話を切った。
 
「食事と聞いたら腹が減ったな」
 と、ジャックはおなかを摩った。
「なにか食べますか? 雨はまだ止みそうにありませんし、アールさんのことは心配ですがヴィイスさんが一緒なら……」
 と、少し表情が曇ったのを、シドは見ていた。
「今頃仲良くやってんだろうな」
 シドはルイを煽る。
「……なにか食べたいものはありますか」
「カレーだな」
 と、ジャック。「がっつきたい気分だからな」
「わかりました。カレーなら保管も出来ますから助かります」
 
ルイはテーブルを出し、食事の準備を始めた。
 
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「こんなものしかなくてすまないねぇ」
 と、白髪のおばあさん。
「おいしいお米となめこ汁と焼き魚、完璧じゃないかー!」
 と、カイは頭にタオルを巻いて風呂上りの格好をしていた。ちゃっかりふたりはお風呂までいただいていた。
 
彼らがミンフラに下ろされたのは12軒ほど家が立っている小さな集落だった。びしょ濡れで困っていたところにおばあさんが声を掛けてくれて、世話になっている。
 
「どうして見ず知らずの俺たちに優しくしてくれるんですか?」
 と、トーマは肩にタオルをかけている。
「こんな小さな村に客が来るのはめずらしいからねぇ。それに人は助け合うことが大切なんだよ。見返りを求めず、誰かのために行動する。それが自分を人として成長させる、自分の幸せに繋がるものさ」
「でも、世の中いい人ばかりじゃないだろ? 人の優しさにつけ込んで来る人だっている」
「だからこそ、人には優しくするものさ。悪人を増やさないためにもね」
 
カイは二人の会話を聞きながら、魚の身をほぐした。隣の部屋には仏壇があり、おじいさんの遺影が飾られている。
 
「ばあちゃん子供は?」
 と、カイは魚を口に運んだ。
「おらんよ。主人と出会ったのが50のときだったからねぇ。初婚でね」
「それまでいい人いなかったのん?」
「ひとりが好きでね。でも、主人と出会って、はじめてこの人と生涯を共にしたいと思ってね。幸い、彼も同じ様に思ってくれたから、籍を入れさせてもらったんだよ」
 愛おしい目で遺影を眺める。
「そっか。でも今ひとりなら寂しいねぇ」
「人間の子供はおらんけどね。──ポチ!」
 と、名前を呼ぶと、柴犬が玄関から走ってきて尻尾を振りながらおばあさんに飛びついた。
「なる!」
 なるほど、の略である。
「ところでこの集落には若い女性はいないの?」
 ここぞとばかりにそう訊いたのはトーマだった。嫁さん探しを忘れない。
「いたけどみんな18になったら街へ出てったさ」
「街? 近いの?」
「いんや、馬に乗って3日かかるよ」
「馬っ?!」
 カイが大声を出して驚いた。馬なんてテレビでしか見たことがない。
「集落の奥におるで」
「見に行くー!!」
 と、食事を急いで平らげて集落の奥へ向かったカイの目に飛び込んできたのは、馬っぽい生き物だった。
 
顔は馬だが、二本足で立っており、前足は極端に短い。後ろ足はダチョウのような細い足だ。
 
「なにこれ」
「馬だよ」
 と、トーマ。
「俺が知ってる馬じゃない。どうやって乗るのさ!」
「これ」
 トーマは小屋の中にあったおんぶ紐のようなものを持ってきた。
「それ赤ちゃんおんぶするやつじゃん!」
「馬に乗る為のやつだよ」
「やだよ恥ずかしい! てか馬じゃないし!」
「君たちほんと変だよね、一体どこの国から来たんだよ」
「…………」
 ここが本の中の世界だということを忘れていた。
 
でも、ここが本の世界なら、誰がこの本のシナリオを書いたのだろう。魔術師に違いないが、何のためにこんな世界を作ったのだろう。ここに住む住人は人間なのだろうか。年を取らないのだろうか、ストーリー上、年をとるならその分年を取るだろうが、生きていると言えるのだろうか。
 
「なんか頭痛くなってきた」
 考え事は苦手だ。
「頭痛薬飲む?」
 と、トーマ。
「持ってんの?」
「持ってないけど」
「持ってないんかーい」
 

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©Kamikawa
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