voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ18…『黒いもの』

 
洞窟の中は思っていたよりも広々としていた。ひやりとした空気が漂い、奥の方でコウモリが羽ばたく音と鳴き声が聞こえてくる。
 
「アールの様子はどうだ?」
 と、ジャックは後ろから来たヴァイスに言った。
「…………」
「最近変わった様子はないか?」
「…………」
「…………」
 ジャックは足を止めてヴァイスを見遣ると、ヴァイスは黙ったままジャックを避けて洞窟の奥へと進む。
「無視かよ……」
 
シドの姿はない。随分と奥まで行ったようだ。
 
「お前には関係のないことだ」
「なんだよ、敵とはいえ相手の現状を聞くくらいいいだろう」
「お前はどうなのだ」
「俺?」
「敵か味方か」
「…………」
 
ジャックが言葉に詰まっていると、ヴァイスの足が止まった。道が二手に分かれている。
 
「シドのやつどっちに行ったんだ……」
 ジャックは腰を下ろして足元を見た。シドのものと思われる足跡は右の通路へ続いている。
「右だな」
 と、右へ行くジャックを無視して、ヴァイスは左の道を選んだ。ジャックは慌てて引き返してヴァイスの後を追った。
「おい! シドは向こうだぞ!」
「同じ道を行く必要はない」
「まぁ……そうだが」
「風の流れを感じる。外へ続くとしたらこちらの通路だろう」
「ならシドに伝えねぇと」
 と、携帯電話を取り出す。
「やめておけ」
「なんでだよ」
 とは言うものの、シドは世話を焼かれるのが嫌いなことはわかっている。確かにこんなことでいちいち連絡しないほうが好ましいのかもしれない。
「よくわかってんだな、シドのこと」
「…………」
「あんたはどう思ってんだ。あいつが組織の人間だったと知って」
「…………」
 
ヴァイスは顔色一つ変えずに先を急いだ。時折袖を捲って時間を確認する。とっくに正午を過ぎていた。
 
━━━━━━━━━━━
 
その頃アールたちは岩山に沿って歩きながらどうにかミンフラがいる岩山の上へ通じる道を探していた。何度か彼らに近づいてくるグランナホッシュが姿を見せたが、ベンが率先して首を刎ねた。
 
「今更だけど、魔物が襲ってくるのって人間を餌として見てるからだよね?」
 と、アール。
「えぇ、大概は。ですがグランナホッシュは自分等の領域に入られて不快に感じているようです」
「そっか。草食系の魔物が襲ってくるときがあるのはどうして?」
「外は弱肉強食の世界です。自分にとって相手が食料でなくても、身の危険を感じれば殺しに掛かかるでしょう。生きるための本能です」
「そっか……」
 
先頭を歩いていたトーマが何かを見つけて足を止めた。宝箱だ。
 
「アーム玉なら貰うぞ」
 と、ベンが歩み寄り、宝箱を開けた。
 
アールは鞘から剣を抜いた。中からキーネロバッドが飛び出してきたのである。キーネロバッドはベンの肩に噛み付いたが、アールがすぐに片方の羽を切り落した。痛みに暴れ、床に転げ落ちたところで剣先を突き立ててとどめを刺した。
 
ベンは舌打ちをして肩を押さえ、自分で傷を癒した。
 
「防護服じゃないのん?」
 と、カイ。
「古いからな」
「僕たちもそろそろ防護服を買い換えたほうがいいかもしれませんね」
 ルイはそう言って自分のコートの袖を見遣った。だいぶ擦り切れている。
「じゃあ俺マントほしい」
「マント? 飛べないのに?」
 と、アール。
「風に靡くマント、それだけで強そうじゃない?!」
「邪魔じゃない? ブーメラン振り回すなら尚更。それにカイいつもブーメラン背負ってるからマント靡かないよ」
「うっ……正論を言われるとなにも言えない」
「のんびりしていられないんだろう? 先を急ごう」
 と、トーマは相変わらず大した活躍もないが将来のお嫁さんを探してもらうために張り切っている。
 
──と、再び歩き出したその時だった。
一行がいる岩山の裏からバキバキと木々が倒れる大きな音がした。足元からその振動が伝わってくる。
 
「なに……?」
 アールは武器を強く握りなおした。
「僕が様子を見てきます。ここで待機していてください」
 と、強い魔力を感じ取ったルイ。
 
アールも全身に痺れのようなものを感じ、気分が悪くなってきた。ルイの腕を掴み、私も行くと言った。
 
「ですが……」
「死なないんでしょ? 本の中は」
「……えぇ。ですがこの魔力は異常です」
「危険ならすぐ離れる」
「では僕の後ろにいて下さい」
 
━━━━━━━━━━━
 
「おいっ急にどうしたんだよ!!」
 と、ジャックはヴァイスを追いかけた。
 
ヴァイスは突然来た道を引き返したのだ。そして二手に分かれた道の出口で同じ様に慌しく戻ってきたシドと出くわした。二人は目を合わせたが、何も言わずに駆け足で洞窟の外へ。岩山の上にいたミンフラが一斉に飛び立った。
 
「お前はここにいろ」
 と、シドはジャックに向けて言った。
 
ヴァイスとシドも突然の強い魔力を感じていた。崖の裏へ回る途中、待機していたカイ等と出会った。
 
「あ……さっきアールとルイが……」
 と、カイが説明をし終える前に二人は行ってしまった。
 
ただ事ではないなと不安になる。テトラは死ぬことはないと言っていた。──絶対に?
 
「ミンフラが行ってしまう」
 と、上空を見上げるトーマ。そして、彼は迷った末に追いかけて行ってしまった。
「ちょっと! 勝手な行動は困るよ!」
 カイはあたふたとその場で足踏みをし、仕方なくトーマを追いかけることにした。
「トーマを追いかけるからアールたちに伝えておいて!」
 と、ベンに言い残す。
 
「なんだよこれ……」
 駆けつけたシドとヴァイスの目に飛び込んできたのは、辺りの木々を押し倒して咆哮をあげる巨大な魔物、オーガだった。
 
2本足で立ち上がるその姿は、8メートルほどはある。体色はどす黒く、目は白くにごっている。耳は尖り、鬼のような角を持つ醜い化け物であった。
 

[*prev] [next#]

[しおりを挟む]

[top]
©Kamikawa
Thank you...
- ナノ -