voice of mind - by ルイランノキ |
「ぼくたちのたのしいサーカス〜、みんなを笑顔にかえてみせるよ、かなしいときやつらいとき、いつでも遊びにおいでよ〜、いつでも君をまっているよ、サンジュサーカ〜ス」
と、木の枝に腰掛け、歌を歌いながらシドたちを眺めているのはジョーカーだった。
かつてサーカス団として働いていたときに流れていたテーマソングを口ずさむ。
「懐かしいだろう、クラウン」
と、ジョーカーは手に持っている瓶を持ち上げた。黒い塊が瓶の中で蠢いている。
「そう暴れるな。すぐに出してやる」
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アールは武器を構えた。シドの死角で一体のゴーレムがアールたちに向かって突進してきたのである。
「アールさんでは……」
「無理かもしれないけど無理じゃないかも」
と、どっちつかずな返事をして、地面を蹴った。
ゴーレムより高く飛び上がり、剣先を下に向けて突き刺そうとしたがガキン!と嫌な音が鳴って両手に電気が走った。ゴーレムの頭を少し削っただけだ。全く歯が立たない。
「いけると思ったのに!」
と、しびれた手で武器を握りなおしたアールに、ゴーレムの拳が迫っていた。
ルイが結界で守ろうとしたが、アールは瞬時に姿勢を低くして交わし、ゴーレムから距離をとって改めて立ち向かった。
「無茶はしないでくださいね!」
と、叫ぶルイを、6体のゴーレムを倒し終えたシドはけだるそうに見ていた。
「…………」
アールはゴーレムの物理攻撃を交わしながら、シドの戦い方を思い返す。
──力任せ? ……違う。刀を強化したから硬い岩の鎧も突き抜けたの? それともシド自身の力? 私でも、倒せる?
「アールすげー速くなってる。動き」
と、カイが呟いた。
「えぇ……」
ルイもゴーレムと戦っているアールの動きを確かめながらそう答えた。
「ルイはアールがどこまで成長すると思う?」
「……え?」
と、カイに目を向けたが、カイは真っすぐにアールを見ていた。
「なんか、たまに怖くなるんだよね。アールの成長ってゆっくりじゃん? 選ばれし者のわりにはさ。それってなにか意味があるのかなって。その意味ってなんだろうって。急に成長したらどうなっちゃうんだろうって」
「アールさんに限って心配はいりませんよ」
と、ルイの表情が少し強張った。
「……ん? 心配?」
と、ルイを見遣る。
「え……いえ……、カイさんは何が言いたいのです?」
「だからぁ、急にさ、めっちゃ強くなったら俺たち不要になっちゃって捨てられちゃわないかなって」
「…………」
「ルイはなんの心配をしてるの? 怖い顔してたよ」
「……いえ」
そんな二人の会話を、ヴァイスは黙って聞いていた。
そして。
アールが突き立てた剣先がゴーレムの体を貫いたとき、二人の心に潜んでいるそれぞれの不安が疼いた。
「あんなもんじゃないだろう」
そう言ったのはベンだ。「“滅ぼす”力は」
ルイの中の不安が大きく揺れ動いた。気付いたときにはベンの胸倉を掴んでいた。
「……あ、すみません」
と、我を取り戻し、手を離す。
「信じてないの?」
と、カイが寂しそうに言った。「信じてないみたいだ」
「そんなこと……」
「戻ってきたぞ」
ヴァイスが注意を促した。アールが満足げに戻ってきた。
「倒せた! 苦戦したけど!」
「えぇ……見ていましたよ」
「かっこよかったよー」
と、カイが手を上げたので、ハイタッチをした。
「ありがと!」
再び一行はミンフラを探して道なりに進んだ。
しばらくして、大きな岩山が一行の前に現れた。くりぬかれたように洞窟への入り口がある。しかしミンフラの鳴き声はその上から聞こえた。
「岩山の上にいるのかな。ヴァイス上れる?」
と、アール。
ヴァイスは岩山を見上げた。周囲の木々より何倍も高いが、少し斜めにそびえ立っている。それでも上るのは少し難しいだろう。下りてくる分には問題ないが。
「ヴァイスさんでも難しいかと。ですが必ずどこからか上へ行く方法があるかと」
ルイはタオルを取り戻すシナリオなら必ず道はあるはずだと読んだ。
「気球でもあればね」
と、アールは妖精のノッカーを思い出す。
「シドが入って行ったんだが」
ジャックは既に洞窟の中へ入っていったシドを目で追った。
「岩山の周辺も探索したいですね」
と、携帯電話を見遣る。圏外ではないようだ。「電話も繋がるようなので」
「じゃあ連絡は取り合えるんだね」
と、アールも携帯電話に目を向ける。
「地図などないためあまり離れると場所が特定できませんから、二手に別れてすぐに合流しましょう。トーマさんはどうされますか?」
「俺は……」
と、洞窟の出入り口と岩山を交互に見遣る。「崖の周辺探索かな」
「いやいやここは男なら洞窟の中でしょー」
と、カイ。
「ではカイさんは洞窟探索でよろしいですね?」
「やだ。アールと一緒がいい」
「私は……洞窟かな。蛇は勘弁」
「洞窟内にこそ出そうですよ、彼らは涼しい場所や暗い場所を好む思考にありますから」
「じゃあ外」
「じゃあ俺っちも外」
「…………」
ルイは困り果てた。アールとカイとトーマだけで周囲探索に行かせるのは危険ではないかと。自分も付き添うべきか。
「ヴァイスさんは」
「どちらでも構わん」
「ジャックさんは」
「俺もどっちでもいい」
「ベンさんは」
「どっちでも」
組織の人間と別れるべきか、混一すべきか。
「ルイは?」
と、アール。
「僕は……」
できれば一緒に、と思う。
「相談し合うほどのことでもないだろう。俺は外にする」
と、ベンは歩き出した。
「なら俺は中でいい」
ジャックは洞窟へ。
ルイが決断に困っていると、それを察したヴァイスは彼の肩にぽんと手を置き、スーを連れて洞窟内へ入って行った。
「じゃあルイはこっちね」
と、アール。「探索開始!」
「待って待って。それじゃあ向こうは3人でこっちは5人ってバランス悪くなーい?」
と、カイがものを言う。
「人数のバランスより身の安全を守れるかどうかのバランスの方が大事だよ。こっちはルイがいないと困る」
そう言ったアールに、ルイは優しく微笑んだ。
トーマ、アール、カイ、ルイ、ベンは岩山周辺の探索を、ヴァイス、ジャック、シドは洞窟内へ向かった。
Thank you... |