voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ3…『新たな力を』 ◆

 
改めて会ってみたらこれっぽっちも似ていなかった。──という展開もなく、覚悟していたとはいえ父と同じ顔を持った男が薬局のレジにいるのを見て目眩がした。
 
「こんにちは、ニッキさん」
 客がいなくなったのを見計らって、ルイが声を掛けた。
「えーっと、あぁ、鍵の! 無事だったか! 鍵は見つかったのか?!」
「はい。ただ、第4の鍵の場所がわからないんです」
「おっと。それは困ったな」
「えぇ。それで、心当たりはありませんか」
 
二人が話をしている後ろで、アールはずっとニッキの顔を眺めていた。父がいる。そう思ってしまう。表情ひとつひとつが全く同じだ。
ふと、あるものが目に入り、気になった。レジ横に古い刀が立てかけてあるのだ。薬局には似つかわしくない。誰かの忘れ物だろうか。刀を忘れたりするだろうか。
 
「残念だが他の鍵については知らないんだ。誰が持ってるとかも知らない。役に立てず、申し訳ない」
「いえ……ありがとうございます」
「それでそっちのお嬢さんは」
 と、アールを見遣った。「俺の知り合いかい? 前に会ったときは話せなかったからな」
 
アールが突然倒れたからである。
 
「あ……すみませんでした。ご心配おかけしました。知り合いにとても似ていたので驚いたんです」
 そう答えながら、父と話をしているような感覚に陥る。目や口のシワも、髪質も、見れば見るほどよく似ていた。
「その俺に似ている知り合いってのはさぞや最低な男だったんだろうなぁ、ぶっ倒れるくらい」
 と、からかうように笑う。
 
けれど、アールはうまく笑えなかった。笑った顔も父のそのものだったからだ。
 
「冗談がすぎたかな? すまんね」
「あ、いえ……」
 と、慌てて首を振る。
 
レジ横に立てかけていた刀にルイも気が付いた。
 
「これは?」
「あぁ、俺のだ。ちょっと魔物退治を頼まれてな」
「ニッキさんがですか?」
「おう。こう見えても若い頃は親に反抗して外の世界へ飛び出したんだ。外での旅は半年も続かなかったが、VRCに入り浸っていたから魔物の知識は人よりあるし、腕もそこそこ自信があるからな」
「大丈夫なのですか? お一人で行かれるのですか?」
「まぁこういった依頼は初めてじゃねぇからな。もう一人いるよ、若者がね」
「そうですか。なにか手伝えることがあれば言ってください」
「なーに、心配いらねぇよ」
 
──嫌な予感がする。
アールはルイのコートを引っ張った。不安げな表情でいるアールを見て、ルイは言った。
 
「……どうしました?」
「いや……なんか……」
「心配ですか?」
「うん」
「女の子に心配されるとはね」
 と、ニッキ。
「ついて来てもいいが、手を出さないでくれよ? これは俺の依頼で小遣い稼ぎとして引き受けたんだ。他の奴に手助けしてもらったなんて知られたら報酬が減ってしまう」
「もちろんです」
 と、ルイが代わりに答えた。
 
━━━━━━━━━━━
 
三部隊のアジトに、シド・クラウン・ジョーカー・ジャックが集まっていた。元十部隊のサーカスアジトから運んできたクラウンのコレクションでもある大量のアーム玉は昨夜のうちにここへ運び終えていた。
 
「集めるのに苦労したんじゃないのか? クラウン」
 と、後から保管部屋にやってきたのはベンだった。
「集めるのは簡単さぁ。サーカスをやっていれば向こうから集まってくる」
「かなりの数を隠し持っていたんだな」
 と、シド。
「すまないねーぇ、今でこそ三部隊に入れてもらったが、十部隊なんて下っ端の下っ端なもんで、こういうものでも隠し持っていないと組織から簡単に追放されかねないと思ったのさ」
 クラウンはそう言って苦笑した。「オレにしか開けられないようにしていたからねぇ」
「なるほどな」
 シドは開いている木箱からアーム玉を一つ手に取って眺めた。
「すぐには持っていけないぞ、回収屋の方から連絡が来ないとこっちからは連絡できない」
 と、ベン。
「んじゃあなんでお前はここに来たんだよ」
「暇潰しにカナブンを取りにアジトに戻ってきたらお前等と出くわしただけだ。お前こそ次の鍵探しはどうした」
「あいつらが行ってる。聞き込みよりアーム玉の確認を優先しただけだ」
「ふん、そうか」
 と、ベンは保管部屋を出て行った。
 
ジャックは二人の空気の悪さを感じながら、口を開いた。
 
「これからどうするんだ? 第4の鍵の場所がわからなかったら」
「…………」
 シドは手に持っていたアーム玉を木箱に戻し、腕を組んで考えた。
「アールの覚醒を試みるのか……? 戦うのか?」
「殺しはまだだ。塔を探すのにあいつにしか解けない仕掛けでもあったら困る」
「そんなもんあるのか」
「さあな。ただ、イスラ奏安窟でなぜかあの女は悪魔を封じる方法を知っていた」
「そりゃまた謎だな……」
 
仮面を身につけているジョーカーは無言でシドを見つめている。その隣に立っているクラウンはそんなジョーカーを盗み見て、シドに視線を向けた。──計画性もなく、頼りない隊長だ。そう思いながら。
 
「クラウン」
 と、シドは見遣った。
「なんだい?」
「隠し持っていたアーム玉はこれで全部だろうな」
「もちろんさ」
 ぎくりとしたが、顔には出さなかった。顔に出しても白塗りのお陰で動揺がばれることはなかっただろう。
「使えるもん貰っとくか。塔の鍵については奴等に任せる。奴等の監視はお前がやれ」
 と、シドはジャックを見遣った。
「……俺が?」
「それくらいしかできねぇだろお前は」
「あぁ……」
 腑に落ちないが、否定できない。
「モーメルより優れた魔術師を紹介してくれ。新しい力を備える」
 
シドは一部のアーム玉を自分のものにしようと試みた。ジョーカーはシドに言われた通り、一人の魔術師を紹介した。名前はアサヒ。20代半ばの男だが、彼は第一部隊に所属している。
 

 
第三部隊のアジトに訪れたアサヒは、大量にあるアーム玉の中からシドの身体に合った力を探した。
クラウンとジョーカーは保管部屋を出て屋外へ出た。ここの地域は常に肌寒い。時に雪が降るほどだ。
 
「よかったんですか? アサヒさんを彼に紹介して」
 と、クラウンはジョーカーを見上げた。
「グロリアのアーム玉を手に入れ、女を殺したあとは奴のアーム玉も奪うつもりだ。今以上に力を身につければシュバルツ様も喜ぶだろう」
 
シドは保管部屋にあった空の宝箱に腰掛け、アーム玉を漁っているアサヒを見遣った。
 
「第一部隊にいる者がなんでジョーカーの世話をしていたんだ?」
「ジョーカーだけに限ったことではないよ。俺はそれぞれの部隊を仕切る隊長の世話係だ」
「ふん、いろんな係がいるんだな」
「君にも挨拶をしなければと思っていたところだよ。三部隊の隊長エルドレットが死んだと知ったときは三部隊も終わりかと思ったが、新たに君が引き継いだと聞いてね」
「…………」
「でも、気をつけたほうがいい。君は、信用されていないようだよ」
 と、3つのアーム玉を持ってシドを見遣った。
「信用はこれから取り戻す。問題ない」
「そうか。余計なお世話だったな。ここは狭すぎる。広い部屋はないか?」
 
シドはアサヒを連れて部屋を移動した。
 

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