voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ4…『行き詰る』

 
ニッキが依頼されたのはキャバリ街から少し離れた場所に現れた魔物、グランボーンメッシュの退治だった。
 
「ボーンメッシュ……?」
 どこかで聞いたことがあると、アールは小首を傾げた。
 
グランボーンメッシュはニガウリを横にしたようなブツブツとした体が特徴で、色は茶色い。頭はアルマジロに似ているが、大きさは体長3メートル、足の速さはイノシシ並だ。
 
「カイさんの昔のあだなは彼からつけられたようです」
 と、ルイが答えた。
 
そうだ。昔ボーンメッシュと言われてからかわれたと話していたっけ。
アールとルイは少し離れた場所からニッキと、一緒にやってきた22歳の若者のボーンメッシュ戦を見守っていた。
 
「強いの? はじめてみた……」
「大きいものになるとそれなりに。今のアールさんなら一撃で倒せるかと。──それより」
 と、ルイはアールを見遣った。
「やはり彼はアールさんのお父さんに似ているのですか……?」
「うん……似ているっていうか、双子みたい。シオンのときもそうだった」
「そうですか。偶然……でしょうか」
「わからない。なにか意味があるのかもしれないし、偶然かもしれない。もしかしたら似てないのかもしれないし」
 と、視線を落とした。
「似てない?」
「長らく会ってないから、ちょっと似てるだけで凄く似てるように見えるだけかもしれないの。色んな感情がそうさせてるのかなって」
「そうですか……」
 
ニッキは若者と一緒にボーンメッシュに挑み、10分程度で仕留めることが出来た。ボーンメッシュの爪を集め、薬の材料として持ち帰る。
 
「また依頼があったら誘ってくれよ」
 と、若者が言った。
「あぁ。今度はもっと大物でも大丈夫そうだな」
 と、ニッキ。
「うん。じゃあ先に帰るから」
「おう」
 街へ戻って行く若者を見送るニッキ。
「彼とはどういうお知り合いなのですか?」
 ルイが気になってそう尋ねた。
「俺のダチの息子だよ。イズルっていうんだ。ダチは3年前に亡くなって、今は母ちゃんしかいない。外に出て旅をすることに憧れていてな、昔の俺みたいにVRCで身体と戦術を磨いているようだが、実際に外に行きたいというから何度か誘ったんだ」
「そうでしたか」
「男の人って外に憧れるものなの?」
 と、アール。
「そりゃあ危険に挑んでいくのが男ってもんさ。自慢話と言えば仕事で成功したことよりも外でどれだけの魔物を倒したかの方が自慢になる」
 
そういうものなのか、とアールは思う。外は危険だとわかっていながら冒険心が心をくすぐるのだろうか。怖いもの見たさもあるだろうし、度胸試しもあるだろう。
女にはあまり理解できないことなのかもしれない。そういえば、女は安定を求め、男は刺激を求めると聞いたことがある。
 
「それにしても、心配はいりませんでしたね」
 と、ルイはニッキの戦いっぷりを見て言った。
「だから言ったろう? 自分のレベルは弁えてる。やばそうだと思ったら受けないさ。命が惜しいからね」
「それなら安心しました」
 
アールは二人の後ろを歩きながら、ニッキの背中を眺めた。ニッキが依頼を受けたと聞いたとき、言い知れぬ不安が襲った。あの不安はどこからやってきたものだろう。戦う姿をこの目で見て、心配するような危なっかしさは感じなかった。それでも今もまだなにか不安が残っている。
父に似ているということが、他人とは思えなくて必要以上に気に掛けてしまっているだけだろうか。
 
3人は街に戻り、立ち止まった。
 
「それでお前たちはどうするんだ? 鍵について俺も調べてみるが……調べるっつっても心当たりもなにもないからなぁ。調べようがない」
 と、ニッキは腕を組んだ。
「ニッキさんの他に、アリアンの塔の鍵について知っている人はいませんか?」
「いないよ、先祖代々、口を割らずに来たんだ。俺がその鍵の話を聞いたのだって親父が亡くなる3日前くらいだったんだ。隠されたアリアンの塔の鍵がどうとか訳のわからないことを言い出したからボケたのかと思ったくらいさ」
「そうですか……」
「その鍵について知っている人たちの共通点ってあるんですか?」
 と、アール。「みんな住んでるところバラバラだから」
「先祖は元々ヌーベに住んでいたんだ。アリアンの塔自体、ヌーベにあるんだろう? 俺はこっちにきてから生まれたからヌーベ自体行ったことはないが」
「じゃあみんな元々はヌーベ地域に住んでたってこと?」
「多分な」
「そのアリアンの塔の鍵はどうやって作られたのでしょうか。そしてどうやってそれぞれ人の手に渡って散らばったのでしょうか」
 と、ルイ。
「うーん、詳しいことはわからないんだ。いかんせんさっきも言ったが俺が知ったのは親父が死ぬ3日前だからな。それにボケたと思っていたから詳しくは聞かなかった。でも俺の腕を掴んでやけに真剣に話すからその内容はちゃんと聞いてメモしておいたけどな。その内容っていうのもいつかアリアンの塔の鍵について探しに来る人が現れるから、その鍵の場所を伝えてやってほしいってことだけだ」
「そうですか……」
「だから君たちが俺のところへ来ただろう? そのあと親父が言っていたことは本当なんだなと思って、親父の部屋を調べてみたんだ。アリアンの塔についてもっと詳しく知りたいと思ってな。興味本位ってやつさ。けど、なんもなかった。元々私物は少なかったし、探し損ねてるってことはないと思うが、念のためもう少し探してみるよ」
「ありがとうございます。なにかあったら連絡してください」
 と、ルイはニッキに携帯電話の番号を書いたメモ用紙を渡した。
 
それからはニッキと別れ、他に打つ手もなく途方に暮れた。
ルイはふと思い立ち、地図を取り出して広げてみた。どうしたの?とアールが覗き込む。
 
「もしかしたらなにか手がかりがあるかもしれないと思ったのですが、第1の鍵から第3の鍵があった場所を直線で結んでみたりしても、特になにもないですね」
「なるほど……。訪れた地域の名前に共通点があるとか……でもないか」
「ヴァニラさんが亡くなってしまったのは予想外でしたね……」
 と、ルイは地図を畳んだ。
「ヴァニラさん、モーメルさんと知り合いだった。モーメルさんはヴァニラさんが亡くなったこと知ってるのかな」
「孫のケティさんが知らせたと言っていたような気がします」
「そっか……。モーメルさんはアリアンの塔について知らないのかな」
「知っていたら話しているかと」
「そうだよね……困ったね」
 と、ため息をこぼす。
「順調だと思っていたのですが……」
 と、ルイも行き詰まり、肩を落とした。
 
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時刻は午後2時。
 
宿でダラダラと過ごしていたカイの携帯電話が鳴った。気だるい体を起こして確認すると、《もじゃ男》と表示されている。──ジャックだ。
 
「……もしもし?」
 警戒しながら電話に出ると、小声で話すジャックの声が聞こえてきた。
『俺だ。シドの奴が新たな力を手に入れようとしている』
「え? なに、どういうこと?」
『アーム玉を使って魔力を高めるつもりだ。お前らとの戦闘を前にな。次の鍵への手がかりが見つからないなら、お前等を襲うことも考えられる。アリアンの塔が見つかるまで、もしくは彼女が覚醒するまでアールを殺しはしないだろうが……お前等はわからん。お前らのアーム玉もこっちの手にあるんだ。殺しかねない』
「…………」
 シドが俺たちを? 考えられなかった。
『とにかく、報告はしたぞ』
「ねぇジャック」
『なんだ』
「こういうのバレたら消されるんじゃないの?」
『……なにも出来ないまま死ぬよりはいい。なにもしないまま生きるよりもな』
 と、電話が切れた。
 
ジャックは心まで組織に売ったわけではなかったんだ。カイは複雑な表情で携帯電話を閉じ、虚空を見遣った。アールに知らせるべきろうか。そして自分も大人しく成り行きを見ているわけにはいかない。もしも戦闘になたら戦うと決めたんだ。向こうが力を備えるなら、こっちもそれに対抗できる準備をしなくては。
 
カイは携帯電話を開いて、アールを表示させた。
 

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