voice of mind - by ルイランノキ


 イストリアヴィラ2…『ルイの笑顔』

 
その会話は、二室隣の部屋にいたジョーカーの地獄耳にも届いていた。
 
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キャバリ街のゲート前で待っていたルイは、遅れてやってきたアールを笑顔で迎えた。
 
「アールさん!」
 と、ゲートから出てきたアールに声をかける。
 
アールはゲートに並んでいる人たちを避けながらルイの元へ歩み寄った。
 
「遅くなってごめん……」
「いえ。なにかありましたか?」
「……シドたちは?」
 辺りを見回すも、姿がない。
「アジトへ戻られました。アーム玉の回収を行うとのことで……」
「アーム玉……シュバルツに捧げる? この前持って行ったはずじゃないの?」
「おそらくまだ手元に持っていたのではないかと。詳しくは聞いていないので何とも言えませんが」
「そっか。なんかもどかしいね、一緒に行動してこんなに近くにいるのに阻止できないなんて」
「はい。でも今はアリアンの塔を探すことに専念しましょう。シュバルツに関する情報もそこで手に入るかもしれませんから」
「うん。なにもないかもしれないけどね」
「なにもないとなると落胆は大きいですね……。もうニッキさんのところへ向かいますか?」
 と、ルイはアールを気にかけた。
「ちょっと心の準備してもいい?」
「えぇ、もちろんです。喉が渇きました。喫茶店でお茶でもどうですか?」
「うん!」
 
三部隊がいないおかげで少しはゆっくりできるものの、逸る気持ちは常に持っていた。
小さな喫茶店に入り、ルイは紅茶を、アールはりんごジュースを頼んだ。
 
「実はこっちにくる前に、廊下でベンさんとばったり会ったの。てっきりルイたちと一緒だと思ってたからビックリした」
 と、りんごジュースが来るまで少し水を飲んだ。
「そうでしたか。なにか話されましたか?」
「話されました……シドのお姉さんのこと」
「なんと?」
「認めたの。ヒラリーさんが幼いとき、襲おうとしていたこと」
「ほんとですか?」
 と、驚いた。
「うん。あの場にシドがいたらよかったんだけど」
 と、苦笑する。「ちゃんと本人の前で謝罪してってお願いした」
「了承したのですか?」
 と、ルイも水を少し飲んだ。
「うん、一応。投げやりな感じだったけど」
「そうでしたか……急展開ですね」
「うん」
 水が入っているグラスを傾けた。小さな氷が沢山浮かんでいる。
「それにしてもこれまでシラを切っていたのに、どうやって認めさせたのです?」
「水ってなんであるんだろう」
「え?」
「飲み物だけ頼む人もいるのに、どうして水出すのかなって。水飲んじゃったらジュースはいらなくなっちゃう。タプンタプン」
「確かにそうですね」
 と、笑う。「水とはいえ残すのは気が引けます」
 
りんごジュースと紅茶が運ばれてきた。ルイはそのまま一口飲んでから、ミルクを少し入れた。アールはルイを眺めながらストローでりんごジュースをかき混ぜた。
 
「ごめんルイ……今さっき無視しちゃった」
「え?」
「どうやって認めさせたの?って訊かれたとき。スルーしちゃった」
「そんな……謝るほどのことでは」
「でも意図的にスルーしたから。……嫌われたくないと思って」
「嫌われる?」
 と、ルイは聞き返した。
「嘘ついたの。私、ベンさんに。平然と沢山嘘並べて、煽った」
 
ルイは黙ったまま小さく頷き、アールの話を聞いた。
 
「自分でも驚いた。あんなにスラスラ嘘が出てくるとは思わなかった。嘘をつきながら本当にあったことのように物語をつくっていって……。嘘つきは泥棒の始まりなんだって。泥棒になれるかも」
「……泥棒?」
「そんな言葉はこっちの世界にはないんだね、よかった」
 と、かすかに笑って、ジュースを飲んだ。
 
ルイもミルクを入れた紅茶を飲んで、「嫌いにはなりませんよ」と言った。
 
「え?」
「僕は、アールさんを嫌いにはなりませんよ。なにがあっても」
「…………」
「……あ、少しかっこつけすぎましたか?」
 と、苦笑する。
「うん。なにがあってもって、大げさ」
 と、笑う。
「そうですか?」
「…………」
 
アールは照れ笑いをして、少し考えた。
 
「言われてみれば私もそんな気がする」
「え?」
「ルイのこと、嫌いにならないと思う。ていうか、ルイのこと嫌いになる人なんていないと思う。よっぽど心が捻くれてる人だよそんなの」
 

──ルイ
今でもそう思ってくれてるのかな
 
あのときの私はもう
ここにはいないけれど

 
「僕はそんな万人に好かれるタイプではありませんよ」
「ルイが万人に好かれるタイプじゃなかったら私はどうなるのさ」
「アールさんはおモテになるでしょう」
「……は?」
 と、無表情になる。「もしやルイって人を見る目ない感じ?」
「そんなことはないと思いますが……」
「ルイって嫌われたことある? ないでしょ」
「ありますよ。魔法学校に通っていた頃に隣の席だった女性に言われた一言は今も忘れられません」
「え、なんて言われたの?」
「笑顔がうさんくさい、と」
「なにその女連れて来い!! 今すぐここに!!」
 と、立ち上がる。
「まぁまぁ」
 と、笑う。「なるべく彼女の前では笑わないように心がけました」
「意味わかんない。なんでルイが気を遣わないといけないわけ?」
 ぶつくさ言いながら椅子に座りなおし、ストローを使わずにジュースをがぶ飲みした。
「笑顔の裏になにかありそうとはよく言われたものです」
「そいつらぶっ飛ばす。」
「こらこら、シドさんの口の悪さが……」
「…………」
「すみません……」
「ううん、『こらこら』ってもう一回言って?」
「こらこら?」
「うん、なんかルイのその柔らかい叱り方好き」
「そう……ですか?」
「ていうか、ルイは笑顔が爽やかでいいわけだから、僻みだよ絶対」
「…………」
「いるんだよね、真っ当に生きている人間を攻撃して貶めたいと思う心の汚れた人間が」
「…………」
「かわいそうな人たちによるただの僻みだから気にしなくていいと思う」
「…………」
「聞いてる?」
「えぇ、やっぱり僕はアールさんのこと嫌いにはなれないと思います」
「へ」
 と、口に含んだジュースをこぼしそうになった。
「アールさんにはどうも怒れません」
「……なにそれ。いい意味で?」
 

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