voice of mind - by ルイランノキ


 説明不足の旅13…『隣り合わせ』

 
「シドは?」
 と、カイはテントに戻ってきたルイに訊いたが、本当は訊かずとも予想はついていた。ルイとシドの会話はカイの耳にも聞こえていたのだ。
「……行ってしまいました」
 そう答えると、ルイはアールが眠る布団の横に腰を下ろして俯いた。カイはアールが寝ている布団を挟んで反対側に座っている。
「そっかぁ」
 心労が重なると、どうしても感傷的になってしまう。
「カイさん、シドさんを追い掛けて行ってもかまいませんよ」
 と、ルイは俯いたまま言った。
「追い掛ける……?」
「えぇ、カイさんが旅をはじめたきっかけは彼にあるのでしょう? 僕達のことは大丈夫ですから……。それに、僕達といるよりも、シドさんと同行した方が危険はないかと。特に今はアールさんの不調もありますし、シドさんは強いですから頼りになります」
 ルイは、アールに目を向けた。
「俺、ここに残るよ。アールとルイと一緒にいる。シドは……分からず屋なんだよ」
「カイさん……」
 ルイは、膝を抱えてアールを気遣うカイを見ながら胸が裂ける思いがした。
「アールのこと放っておけないもん。俺アール大好きだし!」
 迷いなくそう言ったカイに、ルイの心がズキンと痛んだ。
「シドさんから……僕がアールさんの面倒を見ているのは彼女の為ではないと言われ、直ぐに否定が出来ませんでした。否定しようとしたのに……言葉が出なかった」
「うん……実は聞こえてたよ、2人の会話。でももし俺がルイやシドだったら、俺も否定出来なかったと思う」
「え……?」
「俺は力がないから、アールが好きだっていう感情が先に出てしまうだけで、ルイやシドみたいにアールを守れる力があったら、やっぱり“世界を救う選ばれし者”だから守らなきゃいけないっていう気持ちが優先されちゃうと思うんだ……。アールの為じゃない。世界の為にって」
 
選ばれし者を守る使命。その役目を何故か未熟な自分たちが請け負うことになった。その理由は……ハッキリとしていない。ルイはシドとカイと共に国王から直々にゼフィル城に招待を受けた日のことを思い返していた。
 
「アールのこと好きな理由聞きたい?」
 と、カイは言いたそうな顔でルイに言った。
「はい」
 と、ルイは笑顔で答えた。
「まずー、女の子だから! 俺、女の子大好きだしぃ! ヘヘッ」
「そ、そうですね。他には?」
「頭が悪いところとぉ、怪我をよくするところが俺に似てるから!」
「……他には?」
「あとはねー、頑張ってるからかなぁ」
 そう言ってカイはアールの寝顔を眺めた。「アールって俺たちが思ってる以上に頑張ってると思うんだ。ただ上手くいかないだけで」
「そうですね。僕もそう思います」
 
カイはニッコリ笑うと、自分のシキンチャク袋から布団を取り出し、アールの隣にピッタリとくっつけるように敷いた。
 
「……カイさん、少し離しましょうね」
「えぇ?! いいじゃん! 別に悪いことはしないよぉ……心配だから。ね?」
「ダメですよ。それにカイさんは寝相が悪いのでアールさんが下敷きになったらどうするのですか」
 と、ルイは立ち上がり、カイの布団をアールの布団から少し離した。
「ちぇーっ。ケチ」
 ムスッとしてそう言うと、布団に入った。「今日はもう寝ていい?」
「布団に横になってから訊くのはやめてください……。仕方がないですね。このままアールさんが夜まで目を覚まさなければ、今日はもう休みましょう」
 
  * * * * *
 
知らない人が一本道を歩いてきた。
 
その人を取り囲むように魔物が現れた。
 
その人は大声で叫んでいた。
 
 助けて 助けて 助けて !!
 
魔物は躊躇わずにその人に噛み付いた。
邪魔な衣服を起用に剥ぎ取って、腕を胴体から引き裂いた 脚を引きちぎった。
 
バリバリと音を立てながら美味しそうに食べていた。
頭は潰された かみ砕かれて食べられた。
 
残された肉片は体のどこの部分だろう。
何故残したのだろう。
 
原形を留めていない人間の体。
食べ残された肉体。
 
さっきまで普通に歩いていた人間が、
あっという間に小さな肉の塊になった。
 
あの人は男だったの? 女だったの?
何歳くらいの人だったの? こんな所で何をしていたの?
 
そんなことを考えていたら体がムズムズしてきた。
お腹周りが痒くなって服の中に手を入れて掻きむしったら、何かがポロポロと剥がれ落ちた。
 
──なんだろう?
 
服から手を引き抜いたら 無数のウジムシが私の手を這っていた。
 
ムズムズする……
 
服をめくってお腹を見てみると、ぽっかり穴が空いていた。
ちょうど片手におさまるくらいの肉がえぐり取れていた。
 
ウジムシがうごめいて 蝕んでく。
 
──私 死ぬのかな
 
肩がムズムズした。
次はなに? と、肩に目をやった。
片腕がボトリと落ちた。
 
──腕の付け根が腐っていた。
 
背後からボタボタと何かが垂れる音がした。
振り返ると口を大きく開けた魔物が唾液を垂らしながら私を見ていた。
 
『いっただきまーす』
 
  * * * * *
 
「──?!」
 
目を覚ましたアールは、テントの天井を見上げながら思った。──私も死んだら あんな風に なるんだ。
 
 ヤらなきゃヤられんだろが
 
シドの言葉を思い出す。魔物は人を喰い殺す。人間を食料としてしか見ていない。今も何処かで誰かが噛み殺されているのだろう。常に死と隣り合わせ。明日私は、小さな肉の塊になっているかもしれないんだ……。
 
 

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©Kamikawa
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