voice of mind - by ルイランノキ


 一寸光陰19…『エンカウント率高めなのでは?』

 
説明不足の旅からはじまり、不安が多くある中で、楽しいこともあった。
この世界で自分に置かれた状況を少しずつ理解していくごとに足取りは重くなっていったけれど、それでも仲間と笑い合う瞬間は何度もあった。
 
「ヴァイスさんはグリフォンを、カイさんはコボルトを、シドさんは──」
 と言い終える前にシドはバニファに向かって刀を振るった。
「アールさんはゴブリンを」
「この子強い?」
 と、アールが背丈110pのゴブリンに向かって剣を振り下ろすとゴブリンは素早く攻撃を交わしてアールの背後に回った。背後を取られるほど弱くはない。振り向きざまに剣を振るう。
「すばしっこいね」
「ご用心を」
 ルイは周囲全体に気を配る。目的地に向かうほど、多種多様な魔物が姿を現し始めた。
 
上空を飛ぶグリフォンにヴァイスの銃弾が降り注ぐ。この辺りの敵は体力も素早さも一段と高い。
 
「コボルトもう一匹いる!」
 と、目の前のコボルトからの攻撃をブーメランで交わしながらカイが叫んだ。コボルトが森の奥から走って来る。
「今スーさんが向かいました」
 と、ルイが実況者さながらにスーがヴァイスの元からコボルトの方へ向かったのを確認して口にした。
 
シドはバニファを倒すと、カイの戦闘に手を貸した。
アールはゴブリンに一撃を食らわせたが、ゴブリンは回復魔法ですぐに傷を癒し、アールに物理攻撃を仕掛けてくる。そのほとんどは大したダメージには繋がらがないが、攻撃対象にされたからには勝敗に決着をつけなければしつこくついて回ってくる。
 
「ゴブリンは他の魔物と比べて体力は低いですが回復力が凄まじいので、回復される前に倒してください」
 と、ルイ。
「承知した!」
 アールが地面を踏みしめて一撃で殺しにかかったが、ゴブリンはあざ笑うようにくるんとバク転をしたあと、土属性の攻撃魔法をアールに浴びせた。アールはその衝撃で10mほど後ろに飛ばされたがうまくバランスを取って魔法攻撃をぶっ放す。ゴブリンはその攻撃も軽々と交わしたが、交わした直後に先読みをしていたアールの剣先がゴブリンの体を貫いた。
 ゴブリンは大ダメージを受けたが死には至らず体に突き刺さった剣を引き抜くように後ろに下がり、回復魔法を使った。しかしその直後にまたアールの攻撃を食らう。そしてアールは回復させまいと畳みかけるように連続攻撃をしかけ、ゴブリンを倒した。
「ふぅ……」
 と一息つきたいところだが上空からまた別の魔物がやって来る。
「エンカウント率高すぎない? この辺」
 と、アールは仲間たちから少し離れようと道の先へ向かう。
 
カイの戦闘を見守っていたルイの背後にグリフォンが落下した。ヴァイスに目を向けると、アールを追って木々の上を移動していた。
森の中でコボルトの息の根を止めたスーが戻って来ると、ルイの肩に飛び乗った。
 
「来た道の先にゴブリンが。こちらに気づいているようですが今のところ向かってくる様子はありません」
 シドの刀がコボルトの頭を撥ねた。
「先を急ぐぞ」
 と、シドは刀を右手に持ったまま走り出す。
 
カイが慌ててブーメランを背負って後を追い、その後ろをルイがついていく。  
 
数十メートル進んだ先でアールとヴァイスが4羽のイトウと争っていた。シドが足を止めて攻撃魔法を放つ。カイも応戦するようにブーメランを投げた。シドの攻撃が一羽のイトウを落とした。カイのブーメランも一羽のイトウに命中したが、地面に落下しそうになったところで翼を大きく羽ばたかせて再び上空へ舞い上がった。そこにヴァイスが高らかに飛び上がって銃口をイトウの頭に突きつけると引き金を引いた。
 
「えぐ……」
 と、カイはイトウの頭が四方八方に弾け飛ぶのを見て顔を歪めた。
「森からグリーンジェルが3体。僕がまとめて対応します」
 と、ルイ。アメーバのグリーンジェルは体が分離する上、毒を持っている。ルイが森の中から道へとおびき寄せ、まとめて結界で囲んで攻撃魔法で退治した。
 残りのイトウの翼をアールが斬り落とし、落下した体にとどめを刺した。
「次から次へどんどんやってきます。走りましょう」
 一行は左右の森から飛び出して来る魔物を斬りつけながら目的地へ向かう。
 
いつまでも追いかけてくる魔物もいるが、半数は途中で諦めて戻って行った。
道の先で、またゴブリンが3体、騒いでいる。一向に気が付くと手に持っている棍棒を振り回してギャーギャーと威嚇してきた。
 
「邪魔なんだよッ!!」
 シドが攻撃魔法を放ち、まだ生き残っていた2体を真っ二つに斬り裂いて走り抜けた。
「おーこわっ」
 と、カイが倒されたゴブリンを一瞥し、走り去る。
「ねぇまたイトウ来てる」
 と、アール。左の空から2匹飛んでくるのが見える。
「無視だ無視ッ!!」
「人間は敵だ!ってインプットでもされてるわけ? 魔物同士で戦ってるのはあまり見ないけどこっちにはめっちゃ襲ってくるじゃん」
 走り続けながら、時折上空を気にするアール。
「魔物同士は強弱がはっきしていますから、本能で勝てないと思った魔物には近づかないと訊いたことがあります」
 と、ルイもイトウを気にしながら走る。
「なるほど……」
 
イトウが徐々に一行との距離を縮めて来た。ヴァイスが銃を構えて向かっていく。
 
「ヴァイスさんに任せましょう」
「人差し指をクイッとするだけで殺傷能力爆発させるんだから銃ってずるーい。オイラなんてブーメランぶっ放すたびに腰を痛めてるっていうのに一撃で倒せることなんてそうそうないんだ」
 と、カイが嘆く。
「銃が無くてもヴァイスは強いよ。それに魔銃を扱うのも楽じゃないと思う。知らないけど」
「ブーメランを失ったら俺はもうなにも出来ない」
「カイには誰よりも“素早さ”があるじゃない」
「足が速いだけで行動力は遅いよ」
「確かに!」
 と、笑う。
「こんなことなら体術も鍛えておけばよかったなぁ!」
「今更おせぇーんだよバカタレが!」
 と、先頭を走るシドが言う。
「俺の覚醒はまだかなぁ」
「カイも覚醒するの?」
「実はカイが一番強い説、どう?」
「どうって……今から巻き返す?」
「ルイだって急に竜使いになったんだよ? 俺だってこのあと急に蛇使いになるかもしれない」
「蛇はしょぼすぎだろ」
 と、シドが言った。
 
──その時、突然一行の前に地面の下から何かが飛び出してきた。
 
「ナイフモグラだ!」
 と、アールが剣を構えた。
 ホシバナモグラに似ているその容姿はどうも好きになれない。
「相手すんな!」
 シドは構わずに走って行く。
「いや、もう……」
 ナイフモグラの攻撃を剣で交わした。「相手しちゃった」
「ぶっ飛ばす!」
 と、カイが振り回したブーメランがナイフモグラを森の奥へ弾き飛ばした。
「ナイスー!」
 と、アールは再び走り出す。
「また向かってきます。先を急ぎましょう」
 ルイはちらりと背後に目をやった。ヴァイスが後から木々を伝ってついてくる。背後と上空の敵は彼に任せて良さそうだ。
「回復薬にイチゴ味出たらいいのに」
 と、カイが走りながらシキンチャク袋から回復薬を取り出した。
「そんなに体力減りましたか?」
 と、すかさずルイが声をかける。
「俺は常に体力70以上を保ってないと不安なんだ」
「そんなの初めて聞いた」
 と、アールが回復薬を奪った。「まだダメだって」
 そう言って後ろのルイにバトンを渡すように回復薬を手渡した。
「1日に飲める回数も限られているんですから、使うタイミングは考えましょう」
「旅の初心者へのアドバイスだよ」
 と、アールが言い足す。
「俺たちベテラン?」
「さぁ……、でもけっこう長く旅してきたよ」
「おい! ビックマンティスがお出迎えだ」
 と、シドが足を止めた。
 
巨大なカマキリがこちらに気づき、鎌を振り上げる。
 
「あいつってヘビの森にしかいないんじゃないの?」
 と、カイ。
「わりとどこにでも生息していますよ。ほら、あちらにも」
 と、右の森を指さした。
「ほら、じゃないのよ……ヤダなぁ」
「私もやだ。虫系とアンデッド系はほんと一生ヤダ」
 と、アールの眉間にしわが寄る。
  

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©Kamikawa
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