voice of mind - by ルイランノキ


 一体分身7…『ルイの容態』

 
「もう一度お名前をお願いします」
 と、受け付けの女性看護師が言った。
「ルイ。ルイ・ラクハウス!」
 と、カイはカウンターに身を乗り出した。
「ルイ・ラクハウスさん……」
 看護師はコンピューターに名前を打ち込んだ。画面に患者の情報が映し出される。
「隔離病棟で入院されている方ですね。直接面会は出来ませんが、モニター面会ルームへのご案内は可能です。どうなさいますか?」
「なにそれ。なんでもいいよ、ルイの様子がわかれば」
「では、今案内係をお呼び致しますので、少々お待ちください」
「出来れば綺麗なお姉さんでお願いしまーす」
 と、背を向けてカウンターに寄りかかった。
 
5分ほどして、「おまたせいたしました」とカイの元にやってきた案内係は残念ながら20代半ばくらいの冴えない男だった。
 
「どうぞこちらに」
「…………」
 カイはブスッとして案内人の後をついていく。
 
カイが通されたのはネットカフェのような部屋だった。12台のモニターが3台ずつテーブルに置かれており、それぞれのモニターの前には卓上のスタンドマイクがある。そして椅子は二脚ずつ。それらを仕切りの壁で囲んである。
 
「こちらです」
 カイは案内され、ひとつの子部屋へと通された。
 
モニター前の椅子に座ると、案内人が後ろから手を伸ばしてモニターの電源を入れた。それからモニター横にあった小さな遠隔操作機で映し出す画面の操作を行った。カイの目に映ったのは、点滴に繋がれて眠っているルイの姿だった。
 
「ルイ……」
「ルイさんですが、順調に回復しております」
 と、案内係がカルテを見ながら言った。
「え? なんだ……てっきり寝たきりになってしまったのかと……」
「入院されてからほとんど眠れていないようで免疫力もだいぶ低下していたので、睡眠を促す薬を投与いたしました」
「あぁ……俺たちが心配だったのかも。俺たち外を旅してるんだ」
「なるほど。だから携帯電話の使用を控えるようにと何度か注意をしてもいつも枕元に置いてあったわけですね」
 カイが驚いて画面を食い入るように見遣るが、今は枕元には置いてないようだ。
「治療に専念していただきたく、携帯電話をお預かりしております」
「……それがいいよ。ルイが注意されても携帯電話を手離さないなんてよっぽどだし。ありがとう。安心したー」
 と、カイは背もたれに寄りかかった。
「いえ。こちらもご理解いただけてよかったです」
「ご飯は食べてる?」
「食欲はないようでしたが、時間をかけて残さず食べておられますよ」
「さすがルイ。でも睡眠は自分ではどうしょうもないもんねぇ。がんばって眠れるものでもないし。いつ頃 退院できそう?」
「本来ならば標準的化学療法でしっかり治していただいて、感染の危険性がなく陰性と判断できるまでは入院していただきたいのですが、すぐにでも退院したいからと副作用の強い魔法治療を望まれましたので、ルイさんの回復力を見ながら治療経過が良好であれば早くて一週間ほどでしょうか」
「副作用ってどんなぁ……? あとさぁ、ルイは魔力を制御するバングルつけてるんだけど影響ない?」
「副作用は頭痛や倦怠感、熱、嘔気などがあります。バングルについては初めに伝えられておりましたので様子を見ながら試験的に実施しておりますが、今のところ特に変わった影響は見られません」
「そっかぁ……」
 問題が起きていないのなら心配する必要もなさそうだが、元気な姿を見ない限りはなんとも言えない。
「元々魔力耐性をお持ちなので、よほどのことでもない限り、心配はいりませんよ。声をお掛けしますか?」
 と、案内人はマイクのスイッチを入れた。
 
魔法に絶対はないし、解明されていないことも多い。心配はないと言われても、なにをどう信じればいいのかわからない。
カイは背もたれに預けていた体を起こしてマイクに近づいた。モニターに映っているルイを見ながら声をかけようとして、結局やめた。
マイクのスイッチを切る。
 
「いいや。せっかくゆっくり寝てるんだ。起こすわけにはいかないよ。ルイが目を覚ましたら伝えてくれるー? カイが様子を見に来たって」
「えぇ、お伝えしておきます」
「あと……」
 みんな待ってるよ。そう伝えてほしいと言おうとして、それもやめにした。焦らせてはいけない。ただでさえ、ゆっくりしている暇はないと本人が一番わかっているはずだからだ。
「旅は順調だって伝えておいて。あ、まって。やっぱり、『カイさんが旅は順調だとおっしゃっていましたが、心配かけまいと言っているようでしたので、しっかり治して仲間の元へ戻りましょうね』って一語一句間違わずに自分のセリフとして伝えといて?」
「え、あ……もう一度お願いいたします」
 と、案内係は白衣の胸ポケットに挟んでいるボールペンを握り、カルテの隅にメモを取った。
   
カイは病院から出ると携帯電話を取り出してアールに電話を掛けた。
 
『ルイどうだった!?』
 と、アールが出る。その早さと声で、ルイの報告を今か今かと待っていたのが窺える。
「順調だってさー。携帯電話はお医者に奪われたらしいんだ」
『どういうこと? 詳しくお願い。ルイには会えたの? 顔は見れたの?』
「顔は見れたんだけど薬が効いてて眠ってた。詳しくって言われても、案内してくれた人が順調に回復に向かっていますよーって言ってただけだからさぁ」
 副作用のことは言わないでおくことにした。ルイだったら余計な心配をかけたくないだろうと思ったからだ。
『そうなんだ……。どうせ美人な看護師さんのことばかり考えて詳しい説明聞いてなかったんでしょ』
「なんでわかんの?!」
『お見通しなんだから。でも順調ならよかった。早く帰っておいで? こっちも報告っていうか、話さなきゃいけないことがあるから』
「ほーい。じゃあとりあえず戻ったらまた連絡するー」
 と、カイは電話を切った。
 

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