voice of mind - by ルイランノキ |
シドとカイは検査を終えて1階の食堂にいた。ルイは長引いており、どのくらい時間がかかるのかわからないためとりあえずコーヒーだけ頼んで待っている。
「まず。ルイの入れたコーヒーの方がチョーうまい」
と、不服な表情でコーヒーを飲むカイ。「苦い。ジュースにすればよかった」
「ルイのはお前の好みに入れてるからそりゃうめぇだろうよ」
シドは文句を言わずに飲んでいるが、自分もルイが入れたコーヒーの方が美味しいと思っている。
「アールんにメールしよー」
と、携帯電話を取り出す。
【やっほー。何してる? 俺とシドの診査が終わったよ! 結果知りたい?】
──送信。
返事はすぐに返ってきた。
【知りたい】
それだけだ。
【ほんとうに知りたい?】──送信。
【知りたい。大丈夫だったの?】
【そう思う? 実は…】──送信。
【はよ。】
【まずはシドの結果から…】送信。
【もったいぶらないでよ】
【シドは無事でした】──送信。
【カイは?】
【知りたい?】──送信。
【しつこ! チャットじゃないからめんどくさ!】
【俺も無事でした。感染しておりませんでした(ピースの絵文字)】──送信。
【よかった。ルイは? まだ診査中?】
【診査チュウ。一応もう少し待ってるみるけどあまり遅いようなら先に帰ってていいってさ】──送信。
【そっか。了解です】
【アールはなにしてんの?】──送信。
【お留守番(ピースの絵文字)】
【そうだろうけどさ!笑】──送信。
【(笑) 本読んでた。そういえばライリーから電話来たよ。元気そうだった】
【俺のことなんか言ってた?】
カイがアールとメールをしている姿をシドは呆れたまなざしで見ている。メールは面倒なシドからしてみればよくもまぁそんな長くやり取りが出来るなと思う。
【みんな元気か聞いてきたよ。元気って言っといた】
【それから?】
【それだけだよ】
【うそばっか!】──送信。
「アールってばライリーから俺宛てへのメッセージを無かったことにしてるっぽい」
「ライリー?」
誰だそれ、と忘れているシド。
「嫉妬深いよねーほんと。嬉しいけどさ。よくいるじゃん? 『これラブレター、カイくんに渡しておいてくれますか?』って頼まれた女子がわかったって言いながら渡さないの。俺のことが好きだから! いじわるだよねー、好きなのはわかるけどイジワルしてまで手に入れたいかねぇ、俺のこと。わかるけど!」
「お前のそのくそポジティブはどっからくんだよ」
「俺昔いじめられてたじゃん? でも気づいたんだ。みんな俺に嫉妬してたんだなって。かわいいから。顔が」
「…………」
シドはため息をこぼし頬づえをして呆れた眼差しをカイに向ける。
「仕方ないよねぇ、こればかりはさぁ。好きでかわいい顔に生まれたわけじゃないんだ。今は成長してかわいいからかっこいいになってきたけどね」
「…………」
「シドは偉いよ」
「あ?」
「そんな俺に嫉妬したこともあっただろうに、一度もそんな素振りを見せたことがない」
「嫉妬した覚えはまったくねぇからな!」
「まぁまぁ、わかるよ。認めたくないのは」
「殺すぞ……」
近くのテーブルにいた女性が驚いてシドを見遣った。
「あ、気にしないでください。彼の『殺すぞ』はただの冗談ですー」
と、カイ。
「割と本気だけどな!」
「まぁまぁ」
と、カイは両手の手の平を見せる。
「それやめろ。腹立つ」
「まぁまぁまぁまぁ」
と、手をひらひらさせる。
「…………」
シドの目がキレる寸前だ。
「あ、ごめん。冗談」
引き際は大事だ。
アールからメールが来た。
【シドそこにいる?】
「なにこれ。シドそこにいるかって聞いてきたんですけどー」
「いねぇって言っとけ」
なんか面倒なことを頼まれそうな予感がしてそう言った。
「オッケー」
【シドが「いないって言っとけ」って】──送信。
【相談したいことがあるからなるはやで戻って来てって伝えといて。電話でもいいけど】
「はい」
と、カイは口頭で伝えるのが面倒でメール画面を見せた。
「いねぇって言ったんじゃねぇのかよ!」
「言ったけど。『シドがいないって言っとけって』って」
「おまっ……はぁああぁぁ」
あまりのバカさにうな垂れる。今にはじまったことではないが。
「なんて返すー?」
「すぐ戻るって言っとけ」
と言いつつ戻る気はない。
「ほい」
【すぐ戻るってー。でも多分戻らないと思うよ。めんどくさそうだから】──送信。
数秒後、シドの携帯電話にアールから電話が来た。
「おいコラどうなってんだボケ……なんでこっちに電話がかかってくんだよ」
苛立ちマックスである。
「わかったって伝えといたけど、でも多分戻らないと思うって言っといた。俺優しいから」
「お前ぜってー殺す」
近くの席に座っていた女の人が離れた席へ移動した。
Thank you... |