voice of mind - by ルイランノキ |
「なんで俺なんだよ」
宿に戻ったシドはアールからライリーにお断りの連絡を入れてほしいと頼まれた。
「だってこのままじゃ仲間になりかねないじゃない! 死んじゃったらどうするの? 責任取れないよ……」
と、ライリーの番号が表示されている携帯電話を渡そうとするも、シドは腕を組んだまま受け取ろうとしない。
「だったらテメェがはっきりそう言やいいだろうが!」
「言えなかったの! 結構ちゃんと断ったことは断ったっていうか……伝わってなかったっていうか……」
「悪者になんのが嫌なだけだろ!」
と、部屋を出て行こうとするシドを、アールは腕を掴んで引き止めた。
「そうかもしれない! だからシドお願い!」
「なんだその頼み方は!」
「だってカイは賛成派だろうし、ルイは優しいからはっきり言えないだろうしヴァイスは……喋らない! シドがガツンと言ってくれたら諦めてくれるかも!」
「お前がガツンと言えっつーの! それで駄目だったら言ってやるよ」
「うっ……」
「そいつの命がかかってんだろ? 嫌われてでも止めるべきだろうが」
「……確かに」
と、シドの腕を掴んでいた手を下ろして肩を落とした。
「二度と連絡してくんなって言っとけ」
「それひどい!!」
「ほんの少しでも可能性残すほうがどうかと思うけどな」
「…………」
ごもっともかもしれない。シドは部屋を出て行った。
アールは、仲間になろうとVRCで鍛えているライリーを思い浮かべた。電話の様子からして、もっと強くなれば仲間に入れてもらえると本気で思っているようだった。はっきり断るなら早いほうがいい。
深呼吸をして、着信履歴からライリーに電話を掛けた。──はっきり言わなくては。ガツンと言わなければ。嫌われてでも。
けれどライリーは電話に出ず、留守番電話サービスに繋がった。少しホッとする。直接言うよりは……と。
「もしもしライリー? アールです。電話くれたとき、はっきり言えなかったけど、期待させると悪いからはっきり言うね。私はライリーと旅をする気はないの。まったく……ないの。正直ライリーの面倒までは見れない。自分の身は自分で守るって思うかもしれないけど、そんな甘い世界じゃないから。自分探しの旅なら街の中でも出来る。行ったことのない町に行ってみたら? なにか新しい発見があるかもしれない。──とにかく、困るの。一緒に旅をしたいって言われても、困る。だからそういう連絡なら、もうして来ないで……」
メッセージの録音時間が終わる。心が痛かった。でも、命を守るためだ。
着信履歴に残っているライリーからの電話番号を登録しようかと思ったが、やめた。彼女を見捨てるような発言だっただろうか。他に言い方があったかもしれない。「酷い言い方をしてごめんなさい。あなたのためを思って言ったの」と、今すぐにでも言い足したい。でも、それじゃ意味がない気がする。
コンコン、と誰かが廊下からノックした。玄関を開けると、カイが満面の笑みで立っていた。
「スーパーに寄って帰ってきたー」
と、その手には買い物袋がぶら下がっている。
「なにを買ったの?」
「おっやっつー」
鼻歌を歌いながら部屋に入る。「アールも食べる?」
「うん。なんのお菓子?」
「絶叫チョコ」
「なにそれ」
「人型のチョコなんだけど、食べると叫ぶんだ」
「カイが?」
「人型のチョコが。一個食べてみるねー」
袋を開けて、更に小さな包みを剥がすと人型のチョコレートが出てきた。口に放り込むと、カイの口の中から声がした。
『たすけてー!!』
「えーなにこわい……」
「噛みます」
サクッと噛んだ瞬間。
『ぎぃやぁあああぁあぁあぁ……』
と、声がした。
「最っ悪……なにそのチョコ悪趣味すぎ……」
「巨人気分を味わえるチョコなんだ。アールもいる?」
「いらない!」
カイが戻ってきたことだし、今度は自分が出かけようかなと再び窓から外を見た。この街にVRCはあるのだろうか。なさそうな雰囲気だ。
「そういえば……」
「ん?」
と、アールに目を向けたカイの口の中から悲鳴が聞こえる。
「ううん、なんでもない」
女の子を見た、と言おうとしたがやめにした。また幻覚を見始めたと心配されたくはない。
「なんかこのおやつ食べてると気分が欝になってくるよ……」
と言いながらも口に放り込む。『ぎゃぁあああぁあぁ……』
「じゃあ食べるのやめなよ……ていうか私がいるときに食べないで。チョコが可哀想に思えてくる」
「そうする」
カイはお菓子の袋の口を閉めた。
「ここVRCあるのかな?」
「ないってシドが言ってた」
「じゃあシドはどこ行ったんだろう。私もちょっと出かけてこようかな」
「なんか用事ー? せっかく俺が帰って来たのにぃ」
と寝転がる。
「なにも用事はないけど」
「じゃあ部屋にいればいいじゃん」
「なにもすることないし」
「ダラダラすればいいじゃん。シドもヴァイスんもさぁ、せっかく街に来てゆっくり休めるっていうのにすぐどっか行くよねぇ。体は休めないと」
「まぁね。でも動いていないと体が鈍ってしまうから。疲れやすい体にしないためにも日々動かしてないと気がすまないのかも」
とはいえ、ヴァイスの場合は一人になりたいだけだろうけれど。
「あ」
窓の外に、ヴァイスの姿があった。宿に戻ってくるところだろうか。
ヴァイスは街が似合わないなと思う。街を歩いている姿は違和感そのもの。外から来ましたというのがよくわかる。武器を身につけている以上、誰でもそう見えるのかもしれないが、ルイやカイはどちらかといえば街に溶け込むタイプかもしれない。
アールは遠くから歩いて来るヴァイスを眺めた。途中、ヴァイスの足が止まる。20代から30代くらいの女性に話しかけられている。
──ナンパ? そんなわけないか。
けれども随分と話し込んでいるようだ。話し込んでいるといてもヴァイスは聞いているだけのように思う。一体何を話しているんだろう。
5分近くは話を聞いているようだった。女性は何度もヴァイスに頭を下げ、その場を去ってゆく。ヴァイスは再び歩き出したが、すぐに視線を上に向けた。アールと目が合う。
「え……」
まさかずっと見ていたのバレてた? そんなわけないよね。
とりあえず手を振ってみるが、ヴァイスが振り返すタイプではない。もしもずっと見ていたことがバレていたら気まずい。
「カイ私ちょっと……」
出かけてくる、と言おうとしたが既に眠っていた。
「はやっ。──カイ、ちょっと私出かけてくるから」
カイを揺さぶった。
「んー…」
「鍵、締めといてね」
「んー…」
うなっているだけなのか返事なのかわからないが、まぁ大丈夫だろうと玄関へ向かう。
ドアを開けるとちょうどヴァイスが廊下を歩いてきた。
「あ……私これからちょっと散歩にでも行こうかなって思ってるんだけど」
「そうか」
「中、カイがいる。寝てる」
「あぁ」
「鍵閉めといてね、一応」
「わかった」
「あ、さっきなに話してたの? 女の人と。ずっと見ていたわけじゃないけど」
ずっと見ていたわけだけど。
「……知り合いに冒険家がいるらしく、会ったことはあるかと訊かれた」
「会ったことある人だったの?」
「いや」
「その冒険家の話を聞かされたの?」
「あぁ」
「なるほどね、お疲れ様」
アールは事情がわかってすっきりした表情で宿を出て行った。
宿を出てからどこへ向かおうかと考えていると、携帯電話が鳴った。アサヒからだ。
Thank you... |