voice of mind - by ルイランノキ


 覧古考新16…『セイクウ街』

 
──セイクウ街
 
この街に建っている民家は真っ白い壁に茶色い屋根で統一されており、花を愛でているのか家の周りを花で飾っている家が多い。街のすぐ隣では綺麗で大きな川が流れている。流れは遅く、子供たちが川に入って遊んでいるが深さはその腰辺りの高さまでしかない。
スイス中部にあるルツェルンという街によく似ている。
 
「いらっしゃい」
 街に入ると、腰が90度に曲がっているおじいさんが一同に飴玉をひとつずつ渡した。
「ウエルカムキャンディ!」
 カイはシドとルイとヴァイスの飴玉を奪った。
「私のはいらないの?」
 と、アール。
「アールも飴ちゃん好きじゃん」
「今は食べられないし」
 と、飴玉をカイに渡した。
「ひょーい! 飴玉5つゲットだぜ!」
 テッテレー!と、脳内で音が鳴る。
 
受け付けを済ませると、シドは2時間後に落ち合うことを提案し、自由行動を開始した。シドはすぐに武器屋を探し、ヴァイスはスーを連れてどこかへ向かった。
 
「私もいろいろ見てくる」
「俺も行く」
 と、カイ。
「おもちゃ屋には寄らないよ?」
「いいのいいの」
「ではなにかありましたらご連絡ください」
 と、ルイ。
 
アールはカイを連れて街の奥へ向かった。街の中を歩いていて気づいたが、外に設置されているゴミ箱が多い。ごみ箱といっても見た目は洒落た木箱で、街の雰囲気を崩すことなく点々と置かれていた。
 
「ゴミ箱が多いといいね。散らからない。回収する人が大変かな」
「ゴミ箱は全部繋がっているんだよ」
 と、たまたま近くにいた住人が言った。20代後半くらいの男で、手に持っていた紙コップをゴミ箱に入れた。
「繋がってる? もしかして転送魔法で一箇所にまとまるとかですか?」
「いやいや、魔道具は金が掛かる。実際にゴミ箱の下にパイプがあって繋がっているんだ。で、街の奥にある巨大焼却所に繋がってる。その途中に分別工場があるんだ」
「便利ですね」
「《この街あの街わたしの街》の美しい街ランキングで連続5回6位になったことがあるんだ」
「びみょー…」
 と、カイ。
「この街あの街ってなんですか?」
「知らないの? これだから外から来た者は! 無知で! どうしようもない命知らずの恥知らずばかりなんだ!」
 と、突然毒を吐いて去っていく住人。
「え、急に酷い……」
「《この街あの街わたしの街》は俺が生まれる前からある雑誌」
 と、歩き出すカイ。
「ふーん。街の情報誌ね。覚えとこ」
 
アクセサリーショップを見つけたアールは、迷わずに足を踏み入れると仲間の証に相応しいデザインのブレスレットを探した。可愛いものを選びたいところだが、仲間は男ばかりだ。革製が無難だろう。
 
「どういうのが好き?」
 と、隣を見遣るもカイの姿がなかった。
 
カイはレジの女性店員と楽しそうに話している。まぁ、いつものことかと笑う。旅は決して楽なものではない。神経をすり減らす毎日だ。街に立ち寄ったときくらい女の子との会話を楽しんで癒されたくもなるだろう。でもなにも言わずにいなくなるのはやめてほしい。隣にいるもんだと思って話しかけたらいないと独り言になってしまう。幸い他に客がいなかったおかげで恥をかかずに済んでいた。
でもなんで私についてきたんだろう……。
 
ショーケースの中に並んでいるブレスレットはどれも高かった。でも長く身につけるならしっかりした作りのものがいいのかもしれない。お店に入る前に所持金を見ておくべきだったなと思う。ここで決めるのはまだ早いかなと、ひとまずキープをして店を出ることにしたが、店員と話し中のカイになにも買わずに出ることを伝えるのは気が引ける。
しばらく店内を見て歩きながら二人の会話が終わるのを待ってみたが、いつまでも笑い声が耐えない。仕方なく、店員の前ではあるもののアールはカイに店を出ることを伝えた。
 
「他のお店も見てくるね」
「あ、ほーい。──でさぁ! そのあとどうなったと思う?」
 と、カイはすぐに店員との会話に戻った。
 
アールは店を出ると所持金の確認をした。5人分買うとして、高くても一人3,000ミルまでがギリギリだなぁと思う。3,000ミルのブレスレットを買ったらしばらく無駄遣いは出来ない。
それにしても、カイのあっけない態度に少し嫉妬する。男女の嫉妬ではない。自分に懐いていた子供が他の人に懐いてしまったような、どこに行くにもついてきて自分に懐いていた犬が他の人のところへ行ってしまったような寂しさの嫉妬だ。鬱陶しいと思うときがあるけれど、そっぽ向かれると寂しいと感じる。
 
他にブレスレットが売っていそうなお店を探し歩いていると、武器屋を見つけた。シドがいるんじゃないかとガラス窓から覗いてみると、思っていた通り武器を品定めしているシドの姿を見つけた。声を掛けようかと思ったが、思い止まってお店探しを再開。女はなにかとすぐに絡みたがるな、と自分でも思う。用もないのに見かけただけで声を掛ける。やたらとべたべたしたがるのも女だ。もちろん、みんながみんなそうではないけれど。
 
一方ルイは、薬屋に向かっていた。最近は大きな戦いがなかったから切らしている救急用品はないが、もしもの時のために多めに補充しておく。怪我をすることは少なくなったが、ストレスのある日々の中で頭痛や腹痛といった体調不良は置きやすい。
いつも買い足す薬をかごに入れてレジに運んだ。
 
「いらっしゃいませ」
 店員が商品をひとつひとつ取り出してバーコードを読み取っていく。
「すみませんが、この街に病院はありますか」
「そりゃあるよ。大通りの先に花屋があって、花屋の右通路をまっすぐ行けば見えてくるさ」
「ありがとうございます」
 
薬屋での買い物を終えると、今度は迷わずスーパーへ向かった。食材の買い足しだ。店に入るとかごを持ってからポケットに入れておいた1枚の紙を取り出した。昨晩、足りない食材などをメモしておいたものだ。日々チェックしているため、買い忘れや余計な買い物をしてしまうことはほぼない。
 
「いらっしゃい」
 と、がたいのいい男性店員が声を掛けた相手は、シドだった。
「刀を探しているのか?」
 シドの腰にかけてある刀を見て言った。
「まぁな」
「その刀を少し見せてくれ」
「あ?」
 なんでだよ、と思いつつも刀を手渡した。
 店員は鞘から半分ほど引き抜いて四方八方から眺めると、納得したように頷いてすぐにシドに返した。
「お目当てのもんはないかもしれんが、お得意様にだけ売っている武器が地下にある。ちょっと見ていくか?」
「へぇ、面白そうだな」
 
男は店の当番をバイトに任せ、シドを連れてレジの奥へ。レジの奥は生活部屋になっており、そこを抜けて裏庭に出ると地下への扉を開けた。
地下の電気は目を細めてしまうほど眩しい。40本ほどの刀や剣が壁に掛けられており、白熱灯に照らされていた。シドは一本一本確かめるように眺める。数は多くないものの、どれも珍しい武器だらけだった。
 
「どこで手に入れたんだ?」
「それは答えられない。まぁ、ちょっとしたツテがあってね」
「値札がねぇのな」
「交渉次第さ」
 
シドは、今愛用している武器をもっと強化するか、いっそのこと武器を買い替えるか悩んだ。強化と言っても限度がある。今現在特に不自由なことはない。買い換えるのはまだ早いか。
 
スーパーで買い物を終えたルイは時間を確認してから、病院へ向かった。そして驚いたのは、病院の玄関でばったりヴァイスに会ったことだ。
 
「ヴァイスさん……病院にご用ですか? なにかあったのですか?」
 ヴァイスは病院から出てきたのだ。
「いや。お前は」
「僕は……薬を頂こうかと。ストレス性の咳がまだ治まらず」
 と、苦笑いをした。
 ヴァイスはルイの前にこぶしを突き出した。何か持っているようだ。
「なんでしょうか」
 ルイが手の平を出すと、ヴァイスは持っていたものをルイに手に落とした。1錠の白い薬だ。
「…………」
 ハッと、ルイの顔色が悪くなる。
「お前が落とした薬だろう」
 数日前にルイが落とした薬をヴァイスは拾い、今日まで持っていたようだ。
 
ヴァイスは困惑しているルイの肩に手を置くと、何も言わずに背を向けて去っていった。
ルイはしばらくその薬を眺めた。そして、ヴァイスは拾った薬を調べるために病院へ訪れたのだろうと憶測する。もしそうだとしたら。──言い訳は通用しない。
 

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