voice of mind - by ルイランノキ |
アールは満足げにショップから出てきた。その手にはショップの袋がぶら下がっている。新しいブレスレットをゲットしたのだ。
最初に入った店に戻ってカイに声を掛けようとしたが、既にカイの姿がなかった。携帯電話を取り出してカイにメールを打った。
【どこ行ったの? どこの女の子ナンパ中?】
時間を確認すると、集合時間まであと1時間はあった。どこかゆっくり出来そうな場所を求めて歩き出す。カイからすぐに返事が来た。
【どこでしょう】
「なにそれめんどくさい……」
捜しに行く気も失せる。
【じゃあ1時間後にね】
と、メールを打っているときにカイから電話が掛かってきた。
「なに? 今メール返そうとしてたところなんだけど」
『大事な話があるんだ』
「え? なに?」
『ちょっと来てくんない? 本屋にいる。待ってるよー』
と、電話が切れる。
「本屋?」
周囲を見回すと、遠目にヴァイスが歩いて来るのが見えた。
「あ。ヴァイスー!」
片手を上げて飛び跳ねる。ヴァイスはアールに気がついた。
アールはヴァイスに駆け寄ると、本屋の場所を知らないか尋ねた。
「本屋なら向こうにあったが」
と、指を差す。
「ありがと。わかりやすい?」
「あぁ」
「ヴァイスはなにしてるの?」
「散歩だ」
「ルイは見かけた? シドは武器屋にいたけど。買い物かな」
「おそらく」
「そっか。じゃあまたあとでね」
アールはスーとヴァイスに手を振って、本屋へ走った。
カイは本屋の漫画コーナーにいた。アールはカイが子供向けの絵本か漫画コーナーにいるだろうと思っていたので捜すことなくすぐに見つけることが出来た。カイは立ち読み中だ。
「なんの漫画読んでるの?」
と、覗き込む。
「エロ本ではないよ」
と、パタリと閉じた。閉じた表紙には下着姿で足を大きく広げた女の子のキャラクターが描かれている。
「エロ本だよね」
「断じて違う」
と、棚にしまう。棚には《おとな向けコーナー》と書かれている。
「エロ本じゃん」
「違う。ここにだけエロ本ではない本が挟まっていたから気になって取って見てみたらやっぱりエロ本じゃなかった」
「エロ本だよだって4巻じゃん。ここにあるこの本の4巻じゃん」
と指さした。4巻だけエロ本じゃないわけがない。
「そんなことよりアール、大事な話があるんだ」
「…………」
大人向け漫画コーナーの前で話そうとしている時点で大した話しではないのだろうと思う。
カイはアールに耳打ちをした。
「──え? ほんとに?」
話を聞いたアールは驚いた。周りに聞かれるとまずい話ではないのに、カイは耳打ちを続ける。
「そう。でね、そこで相談があるんだ」
アールに耳打ちをしながら耳に息を吹きかけたくなったがそこは我慢した。
「なるほど……」
アールは腕を組んで考える。
「シドたちにも相談してみる!」
「うん、みんなでね」
なんだか楽しそうに2人は笑い合った。
「あ、でも私お金ない……」
「無駄遣いしたの?!」
「みんなでお揃いのブレスレット買ったの。デザインにこだわったら結構高かった。なんせ5人分だよ?」
「おいらちょっと出そうか?」
「ほんと?」
「10ミル」
「少ねっ」
「俺にとっては大金なのに!」
「じゃあいいよ……まだ時間はあるし、お金稼ぐ」
今なら、魔物を捌くことも平気で出来そうな気がした。美味しそうに感じるくらいなのだから。
「シド出るかなぁ」
と、カイはシドに電話を掛けた。
ルイは病院から出ると、ヴァイスの姿を目で捜した。近くにはいないと知ると携帯電話を取り出してヴァイスに掛けた。ヴァイスはすぐに出た。そして近くの喫茶店で話がしたいと告げ、電話を切った。
ルイが待っている喫茶店にやってきたヴァイスは、奥の席にいるルイを見つけるとテーブルの向かい側に腰掛けた。店内の客は少なく、落ち着いている。
「呼び出してすみません」
「いや」
「なにか頼みませんか。飲み物でも」
と、テーブルの上にあったメニューをヴァイスに渡した。
二人はアイスコーヒーを頼んだ。店員が注文を取ってから戻っていったのを確認し、ルイはヴァイスを見て話を切り出した。
「ヴァイスさんが病院にいたのは……薬を調べるためですか?」
「あぁ」
「…………」
ルイは視線を落とす。
「勝手なことをしてすまない」
「いえ……僕の嘘は、そんなにわかりやすいものでしたか」
「どうだろうな。ただ何気なく、気になっただけだ」
「ではアールさんたちは……」
「お前が話していないのならまだ知らないだろう」
「…………」
ルイは思いつめた表情で、俯いた。そして。
「隠すつもりはなかったのです。ただ、色々なことがありすぎて、今ではないと判断しました。いずれ話すつもりでした。タイミングを、見計らっていました」
「…………」
「治療に入れば……時間がかかると思います。せっかくみんな揃ったのに、抜けるわけにはいかないんです」
「…………」
「抜けたくないんです」
「だが、薬で抑えるにも限度があるだろう」
「はい……なるべく早く精密検査を受けて治療に入るよう言われております」
「話すなら早いほうがいい」
「わかっています。それはよくわかっているのですが……」
そこに、店員がアイスコーヒーを運んできた。
「お待たせいたしました。アイスコーヒーになります」
と、二人の前にアイスコーヒーを置いた。「ご注文は以上でよろしかったですか?」
「はい」
「では、ごゆっくりどうぞ」
店員は一礼をして去って行った。
ヴァイスはブラックのままストローも挿さずに一口飲んだ。肩にいたスーがテーブルに下りて、体を伸ばした。彼なりの背伸びだ。
「ルイ」
「……はい」
ルイはアイスコーヒーに手をつけずにいた。
「先延ばしにしても、いいことはなにもない」
「…………」
「手遅れになる前に、話すことだ。お前一人の問題ではない」
「……はい」
ルイは膝の上で固くこぶしを握った。
Thank you... |