voice of mind - by ルイランノキ


 心声遺失2…『再会を望む』

 
ハイマトス族のレビが助けに来たヴァイスはなんとかユージーンを討伐した後、レビと共に塔へ向かっていた先で第一部隊のキムスという男に足止めを食らっていた。
キムスは地属性の魔法を得意とし、基本的な攻撃魔法に加えて足場を崩したりぬかるみに変化させたりと少々厄介な特殊魔法を操った。地面に足を突くたびに特殊な魔法で足場を奪われるため、木々を飛び回りながら攻撃するほかなかった。
 
遅ればせながら応援に来た数名のゼフィル兵がキムスの注意を引き付け、崩された足場の上に結界を張ってヴァイスが下り立てるように援護に回った。
 
キムス戦はさほど苦労しなかった。攻撃力はユージーンほど高くはなく、ほとんどその場に留まって攻撃を仕掛けてくるため逃げる素早さも持っていなかったからだ。ただ、体力だけはあるようで、何度大ダメージを浴びせても岩のようにびくともしなかった。
とはいえ、少しずつふらつきが見えてくるとヴァイスとレビは息を合わせて物理攻撃と射撃等で一気にキムスの体力を削り、魔法兵による雷属性魔法が最後の決め手となって崩れ落ちた。
 
「魔物と戦ったような気分だ」
 と、レビはため息をついた。
「確かに、人間とは思えん硬さだった」
 と、ヴァイスは銃をガンベルトにおさめた。
「ヴァイスさん、また第一部隊と思われる男が……」
 と、ゼフィル兵が慌てて駆け寄り、来た道の先を指さした。
 
遠目からでも歩き方などの様子から既に負傷しているのがわかった。どこかで一仕事を終えてやって来たようだ。
 
「俺が請け負う。お前は兵士を連れて先へ行け」
 と、レビは指の骨を鳴らした。
「平気か?」
「まかせろ」
「…………」
 ヴァイスは小さく頷いて、レビに背を向けた。
「同じハイマトス族として、お前を誇りに思う」
 と、レビはヴァイスにそう言って男に向かって走り出した。
「それは私のセリフだ」
 と、ヴァイスはレビに感謝し、兵士を連れて塔へ向かった。
 
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塔の頭が見えて来たところで、ルイの前にデュラハンという首なしの騎士が現れた。ガシャンガシャンと甲冑の音が耳障りだ。辺りを見遣ると点々とデュラハンの姿がある。この辺り一帯に現れるようだ。
 
「塔はすぐそこです。お先に行ってください」
 と、シラコがロッドを構える。
「ですが……」
 シラコも自分と同じように見るからに大ダメージを負っている。
「ここですぐに私に任せて立ち去らないのはあなたの悪いところですよ。自分の一番の目的を見失わないでください。一時的に一掃しますので、その間に駆け抜けてください」
「……わかりました。ありがとうございます!」
 
シラコはロッドを垂直に持ち、スペルを唱えて自分を中心に円を描くようにロッドを大きく振った。周囲にいたデュラハンが一斉に地面に倒れ込む。ルイは塔に向かって駆け出した。
 
「健闘を祈ります!」
 と、シラコの声を背中で聞く。
 
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「起きてくださいッ!! カイさんッ!!」
 と、ゼフィル兵が眠りこけているカイの上半身を起こし、頬をスパーン!と激しく平手打ちをした。
「い”ってぇええええぇ!」
 と、体を震わせて目が覚める。頬を押さえ、目の前にいるゼフィル兵を見開いた眼で見遣った。「信じられないくらい痛いっ!」
「すみません。あまりにも起きなかったもので……」
 と、さほど申し訳なさそうでもなく行ったゼフィル兵の背後でムスタージュ組織の女、チェスターが横たわっている。
 
敗れたパンツから色白い肌が見え、カイは吸い込まれるように女性に近づいた。
 
「あれ……? 俺、起きてチェスちゃんと戦った気がするんだけどなぁ……夢だったのかなぁ」
「彼女と一戦を交わしたあと、また眠らされていたのですよ。ですがカイさんとスーさんのおかげでだいぶ弱っていましたから、この通り、我々の勝利です」
「殺してしまったのかい……?」
 と、少し残念そうに生足を眺める。その視線を遮るようにスライムのスーがチェスターの足に飛び乗った。
「スーちん薄汚れてる。俺がまた眠っている間もがんばってくれたんだねぇ」
 と、手を差し伸べる。スーはカイの手にのぼって肩へ移動した。
「女は意識を失っているだけです」
 と、ゼフィル兵のひとりが言う。
「え、じゃあ起きちゃうじゃん」
「とどめはカイさんが」
「なんで!? そんな役いらないよ!」
「え……ですが、」
 と、崖の上にいたドルバードに目を向ける。「勇姿を見せた方がよいのでは」
「え?」
 と、カイもドルバードを見遣った。全国に眠りこけていた自分が映し出されていたと思うと再放送される際にはどうかカットしてほしいと強く願った。
「でも……俺この人……殺せないよ」
 と、チェスターの顔を見る。
「女性だからですか?」
「それもあるけど……。もういいじゃん、俺らが勝ったも同然なんだし。取り押さえる道具とかないの? あ、俺確かなわとび持ってるやー」
 と、シキンチャク袋を漁る。
「そんなものでは逃げられてしまいます。専用のロープがあるのでそれで縛っておきましょう」
 と、ゼフィル兵がシキンチャク袋からロープを取り出した。
 カイはそれを見ながら小声で耳打ちをする。
「──それ俺にやらせてもらっていい? 女の子を縛るプレイが好きなわけじゃなくてさ、いいとこ見せたいからさぁ」
「別にいいですけど……」
 と、渋々ロープをカイに手渡した。
「よし。では、この女を縛り上げるとする!」
 と、大声で実況をする。「この戦いは我々が勝った! わざわざ殺す必要もないからな!」
 
カイはゼフィル兵に手伝ってもらいながらチェスターをロープで縛り上げた。はじめはロープの跡がつかないようにと優しく縛っていたが、ゼフィル兵に叱られてやむなくしっかりと固く縛りなおした。
 
「結界かなんかで守ってあげてくれるぅ?」
 と、カイが立ち上がる。
「そこまでする義務はありません」
「魔物に襲われたらここで生かす意味なくなるじゃん」
「ですが……」
「結界紙持ってる? あ、俺持ってるやー」
 と、シキンチャク袋から惜しみなく結界紙を取り出してチェスターを結界で囲んだ。
 
それからカイは咳ばらいをして、トランシーバーから通信を行った。
 
「──あー、こちらカイチームのリーダー、カイ。たった今、第一部隊のチェスターちゃんを倒したところです。再び塔へ向かいます!」
 ほとんど寝ているだけだったけれど、と言いたげなゼフィル兵の視線を浴びる。
『了解』
 と、返答があった。重なった複数の声の中にアールの声を聞き分けたカイは満足そうに頷いた。
「おっしゃ、塔へレッツゴー!」
 カイが叫ぶと、肩にいたスーも拳を作って突き上げた。
 

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©Kamikawa
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