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私は鞄から煙草を取り出した。
そして咥えた瞬間、口元にライターが現われた。
瀬戸くん…ってかヒカルが煙草に火をつけてくれた。
しまった!!!
私ってば無意識に煙草咥えちゃったよ!!!
瀬戸和樹の前で吸っちゃったよ!!!
………。
………もう…今更…か…
今更演じても遅い…よね…
バレちゃったんだし…。
「煙草吸いになるんですね」
「……意外?」
「いいえ。凄く似合ってますよ」
煙草が似合うって何だよ。
「髪形も服装も、凄く似合ってます」
「…そう?あたしには地味めな方が似合うとか思わない?」
煙草の煙をふかしながら視線を合わせずに問いかけた。
コイツどう答えるんだろう。
「俺、自分の彼女は普段は地味な格好でいてほしいです」
そう答えた瀬戸く――、ヒカルに奈津美が「どーゆう意味?」と迫る。
「俺と一緒の時だけ思い切りお洒落してもらいたいんで。他の男には露出度の高い服着てるとこは見せたくないです」
「げほっ!!!」
なんちゅー営業トークだ!!!と、思わず煙を吸い込んでむせてしまった。
「ちょっとマキ大丈夫!!?」
「ごほごほっ!!」
「マキさん、お水です」
“マキさん”じゃないわよ!!
なんなのよコイツ!!!!
あぁぁ、もう!!!
飲むしかないっ!!!
私は手元のワインを一気に飲み干すと
「テキーラ持って来て!!!」
と、叫んだ。
・
・
・
「あぁ〜、おいしぃ〜。次はシャンパン飲もうかにゃ〜」
「ちょっとマキ飲みすぎだよ!!大丈夫?」
「らーいじょぶ、らいじょうぶっ」
心配そうに覗き込んできた奈津美にアハハと、笑いながら言った。
今私達の席にいるホストはヒカルだけ。
ギャル男風味は気付いたらどっか行ってた。
ホストクラブへ来てまだ1時間。
ピッチの早い私は既にベロンベロンだった。
ついに瞼が重くなり私は背もたれのソファに顔を埋めた。
あぁ…ダメだ…眠い…。
「まったく…普段お酒強くてこんなに酔わないってのに…よっぽどストレス溜まってたのね」
「ストレス…ですか?」
「そう。この子ね、こう見えて実は高校教師なのよ」
「…へぇ…」
「こんな派手な格好してるけど学校じゃ随分地味に生きてるらしいの。そのストレスよ」
そんな会話が繰り広げられていたことを眠ってしまった私は知らない。
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眠ってしまったマキを挟んでヒカルと奈津美は話を続けていた。
「そんな自分を殺してまで地味に生活する必要ってあるんですかね?」
「微妙なとこね。マキのモットーは地味に無難に淡々と、だから」
「……なんですかソレ…」
「ちょっとねぇ…高校時代に男絡みでモメたのが原因だろうね…今のこの子は」
「え?」
ヒカルが漏らした「え」という声の直後、奈津美の携帯が鳴り響いた。
「何よコイツ」
着信相手を見て眉間にシワを寄せる奈津美。
「どうしました?」
「元カレ。最近ヨリ戻したいってうるさくてさ。ちょっと出てきていい?」
「どうぞ」
「悪いね。席離れないでマキのこと頼んだよ」
携帯を手に席を立つ奈津美に「はい」と苦笑するヒカル。
席に残されたヒカルは隣で酔いつぶれたマキを見て微かに笑みをこぼした。
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