「この子のは俺と実戦授業に参加するの。早い者勝ちだよ?タクト」
そう言って、後から俺の首に腕を回して覆いかぶさるようにしてくる男。声音から一発でわかる、このめんどくさい副会長。耳元で質の良い声が囁かれ、俺ではなく自分の親衛隊の連中にやってやればいいのに…と心の中で毒づいた。

「あ?お前がこんな平凡と組む…?正気か?」
…コイツ、殺してやろうかな…別にこいつと組みたいわけではないし、断固として拒みたいが、この言い方、ムカつく…!!筋の通った高い鼻を、へし折ってやりてえ…!
睨みつける行為を我慢することなく、目の前のバ会長にガン垂れてやった。

「じゃあ別にいいでしょ、俺が誰と組もうがタクトには関係ないよ」
(そもそも、お前と組むのも俺は嫌ですけどね…!?)

思い出してほしいのだが、そもそも俺は別に副会長と組みたいだなんて一度も思ったことはないし、未だにどうにかしてこの男とのペアを解消できないかと試みているのだ。…まあ、それも現状できていないのだけれど。
「今日はいやにつっかかってくるじゃねえか」
「そっちこそシキ君にどうして執着するのさ」

まさに一触即発。俺を挟んで、やめてくれ…
会長と副会長のしばらくの無言に、周囲の空気が冷えていく。

君たちよく考えてくださいよ…取り合ってるの、この俺ですよ…?まるで、おもちゃを取り合う幼稚園児のようじゃないか。私のために喧嘩はやめて!なんて、今時流行らないのだから、やめてほしい。



『生徒会分裂!?一人の生徒をめぐる泥沼展開…!』

「…」
あの地獄から生還した次の日の朝、掲示板の前でたくさんの人が集まっていた。周りよりも低い身長を生かして貼り出されているものを覗く。
そこには、昨日の副会長と会長の間で俺が死んだ顔をしている様子と、「とある生徒を巡って副会長と会長が…」なんて文言で校内新聞の一面を飾っている。
さすがに俺の顔は、目元が隠されているけれど俺の顔を知っていればわかるだろう。

教室に着いたら机が大変なことになっていた。
「典型的だな…」
机と椅子がラクガキで埋め尽くされ、ご丁寧に花まで飾られている。
「シキ!」
ノアがこちらに駆け寄ってきてその手には雑巾が握られていた。
「ノア、もしかして落書きを消そうとしてくれてた…?ありがとう」
ノアは両手を後ろに隠して、こちらを見上げて心配そうな視線を向けてきた。
「…シキ、ごめんね」

その申し訳なさそうな表情に、こちらの胸が締め付けられる。
「気にすんな」
その柔らかそうな髪の毛を撫でるように触れれば、零れそうなほど大きな瞳が潤んだ気がした。それも一瞬、にっこりと笑ったノアに俺も安心する。
どうせ、綺麗に消したところでまた次の日には元通りだ。触ってみたところ、落書きも乾いているし制服には付着しないだろう。俺はそのまま席に着いた。

「おい、シキ!」
「シノ」

かなりの剣幕で教室に入ってきたのはシノだった。その後をクロが着いて歩いている。
「お前をめぐって会長と副会長がバトってるってどういうことだよ!」
鋭く小声で話すシノに、なんか心配かけて申し訳ねえなあ…なんてどこか他人事の自分がいる。

「いやあ…俺にもなにがなんだかわかんねんだよなあ…」
「今週末にあるトーナメント戦の方で勝った方がお前とペアを組むって…」

実戦授業のトーナメント戦の方は今週末に開かれる。それに向けて、全生徒が準備をしているが、あの二人は自分が勝ち進むことができるという自信があるのだろう。

「…それはともかく、僕は親衛隊をどうにかするよ」
「そうは言っても、ノアは副会長のとこのだろ。会長のとこも今回は噛んでるはずだぜ…?どうする気だよ。」

シノが心配そうにノアへと視線を移した。それでもノアの真っ直ぐな目は揺らぐことなく、爛々としている。

「親衛隊は任せて、僕がどうにかする。」


戻る / 次へ
top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -