講堂のステージが眩しいほどに照らされている。ステージに上がっていけば、静まり返った会場に緊張感が募る。

ーートーナメント戦、一年生の部。決勝戦。

「無事、ここまであがれたんですねぇ」
糸目で印象的な口調、ハスと名乗った新聞部の男と、その後ろに体格のいい男三人が俺達が登壇するのを待っていた。

いつものように、片手で隠しきれていない口の端が上がっているのがよくわかる。

「…お前」
ノアが後ろで驚き、一歩下がったのを感じる。

そもそも、ハスが一年だったという事実に驚いたし、決勝まで上がってくるようには見えない。まあそれは多方面からブーメラン!と突っ込まれそうだ。
相手のチームが持っている武器は、刀。
そして、ハスが手にしているのは、

(扇子…?)

武器とは思えないが、あの胡散臭い男のことだ。何かしらを隠しているのは明白だ。

表情のおかしい俺とノアを見て、なにかを察したシノとクロエにまで俺たちの緊張が伝わっている。

ダメだ。相手が誰であれ落ち着かなければ。
背中の痛みを落ち着かせるように、深く息を吸う。

くるり、と後ろを向いて心配そうな顔をする仲間に笑った。

「大丈夫」

俺は俺の仲間が弱いなんて、思ってなんかいない。一年生だろうが、隊長という立場からしても輝く原石だ。友人としても、信頼関係というのは一朝一夕で築くことはできない。だからこその、「大丈夫」だ。

(ノア…俺はお前らと使えるから友達になったわけじゃない)

時間など待ってはくれない。試合開始の鐘が鳴り、背後から殺意が迫ってくるのがわかる。
切れかかってくる刃を自分の鞘で受け止めた。



「シキ君、決勝戦まで進めたんだね」
興味なさげにステージを見つめていると、副会長であるエイノが話しかける。ステージ上では何かしらの会話を交わしているようだが、それがこちらに聞こえてくることはない。

そもそも、一年の試合なんて興味がないというのに、講堂に足を運んでいるのだ。エイノから言わせてみれば、将来の優秀な後輩たちがどうなもんか把握しておくのも仕事、だと押し切られ連れてこられたのだ。

「シキ?あの平凡か」
「その平凡って言うのやめなよ。あの子がただ物じゃないって薄々わかっていたから、ペアに誘ったんでしょ。ま、振られちゃったみたいだけど」

うっせ、と軽く返し憎らしい幼馴染の顔からステージに視線を向けると、丁度試合開始の鐘が鳴る。決勝なのだから、少しは面白い試合をしてもらわないと困る。

あの時、会ってからどうも気になって仕方がない平凡は敵に背を見せ、仲間に何かを言っている。

その瞬間、大柄な男がシキに上から力でねじ伏せるように斬りかかる。

確か、相手のチームは一人がAクラスで他はFクラスだ。生徒会に入った時に全校生徒の名前と顔を一致させているため、自身のデータベースから大体のクラス編成は把握している。

この学園におけるFクラスは、不良の集まりでありゴミの吐き溜めのようなクラスで、よく暴力事件を起こす問題児の集まりだ。しかし、こういう場面では、戦力として重宝される。

平凡は男の一刀を鞘で受け止め、反動で押し返しそれぞれが一対一の形で戦闘を始めている。それにしても、動きが早い。風のように周りをちょこまかと動かれては、動きを掴み斬ることも適わないようだ。

「ほら、すごいじゃない」
「…なんでお前が偉そうにしてんだよ」

「…あれ、なんか変だ」

エイノの一言でステージ上を注視すると、動かない二人の男。
「なにやってんだよ、あのバカ…」
隣でエイノが客席から身を乗り出して、ステージを見ている。

「もしかしてあの男って、お前んとこの親衛隊長じゃねえか」
「……」

エイノの表情には、いつもの親衛隊に対する憎しみではなく、ただ純粋そうに心配が浮かんでいる。

「ノアッ…!」
あの平凡の声が響き、エイノの親衛隊長を庇いに入った。どうやら自分が相手していた男をノックアウトさせてみたいだ。

見ていなかったが、あのひょろい体格で図体のデカい男をあっという間にノしてしまうとは思わず、つい口角があがる。

どうやら何かを話しているみたいだが、ステージ上の会話はこちらには一切聞こえない。
ただ、楽しそうに笑みを浮かべる相手の男と、動けない親衛隊の男を守るように睨みつける平凡に異様な空気が漂っているのがわかった。



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