久しぶりに休日というものを自室で過ごしている気がする。与一さんから「今週の日曜日は休業日にするから、アンタも休みね」と言われたのだ。どうやら誰かの墓参りに行くようで、そのために店を休みにすると言っていた。
 山蛇も仕事が忙しいようで、「しばらく来なくていいよ」と言われた。こうして自室で一人スマホを弄っていると、虚無感を感じる。これが世にいうワーカーホリックとかいうやつだろうか。自分はまだ学生だというのに、嫌な響きだ。

 久しぶりにゲームでもやるか、とアプリを起動する。ダウンロードだけして未だ一度も触っていない音ゲーだ。キャラクターの声を有名な声優が担当しているようで今人気のスマホゲームアプリだと説明欄に書かれていた。
 そのゲームを一通り遊んでいると、そこで「ヤマダ」という名前のキャラクターが目についた。しかも設定が、ヤクザの組長らしい。…なんっであの男のことを思い出すんだよ!俺!とベッドの上で転がりまわる。
 なんで折角あの男と会わなくて済む期間にあの男のことを思い出さなきゃいけないんだよ…!それから少しプレイするも、腹が立ってしまってミスを連発してしまい、残念だがアプリをアンインストロールした。

 休みを台無しにされた気がして、不貞寝することにする。
「いいもんねー。昼飯食った後すぐに寝て、牛になっちゃうもんねー。はー、ギルティ」
そんな馬鹿なことを言いながらベッドでゴロゴロしていたら、陸に冷たい目で見られた。かなり傷ついた。

 それもこれもすべてあの男のせいだ。
 あの晩、風呂でのぼせた俺は山蛇に着替えさせられ、温かい布団で寝かされていたらしい。朝目を覚ますと、山蛇が作ったらしい朝飯を食べさせられた。美味かった。

 世話をしてもらったこと、朝飯をごちそうになったことに礼を述べ、マンションの外に出た瞬間言葉を失った。
 そのマンションを見上げると、見るからに一般人が住むような場所ではなく、金持ちが住んでそうなところだった。家賃なんて想像もできない。そもそもこのマンションは賃貸なのか…?そもそも本当にこの男の住むマンションなのだろうか。山蛇のことだから、いくつも自分の部屋を持ってそうだ。…タワーマンションがセカンドハウスなんてどこの富豪だと言いたくなるが。
 結局山蛇にやすらぎ園まで送ってもらい、その日は普通に学校に行った。

 暇を極めて下へと降りていくと、誰か客が来ているようだった。玄関に高価そうな靴が置いてある。
 食堂で水を飲んでいると、園長室から見慣れない身なりが整った男と、双子が出てきた。園長が「二人の幸せを考えてあげてください」とその男に言っている。双子は今にも泣きそうな顔をしていた。

 双子は俺が食堂にいることに気が付いたらしく、「「しゅん兄!」」と声を上げて駆け寄ってきた。未だ状況はわからないが、しゃがんで走り込んできた二人を抱きしめる。
 廊下から食堂に入ってきた園長と、玄関の高価そうな靴の持ち主がこちらに近づいてくる。思わず双子を隠すように身構えてしまった。

「…えっと、どなた様ですか?」
できる限り、愛想よく。気難しそうな男は俺と双子を見下ろして、目を細めた。
「私は御沢(ミソノ)という者だ、いつも祐介と佐助が世話になっているね」
「こちらこそ…あっ、俺は…」
こちらが名乗っていないことに気が付き、名乗ろうとした瞬間に手で制される。
「君の名前を覚える必要はなさそうだ、私はこの施設に用があるわけではないからね」
…随分嫌味なオッサンだぜ。
 見た目からして四十代後半、高価そうなスーツには自己主張が詰まっている。話し方、仕草からして相当自分に自信があるようだ。

「…こいつらの、父親ですか?」
そう聞くと、御園はさも当たり前だろう、文脈で汲み取れとでも言いたいような顔をした。
「そうだが?」
「二人が泣いてますけど、なにをしたんですか?」

 視界の端で園長が慌てているのが見えるがそんなことはどうでもよかった。この二人は滅多に泣くことはない。今だって泣いてはいないようだが、相当思いつめたよう表情をしている。
 その二人が俺に縋りついている、助けを求めている。それを見過ごすわけにはいかなかった。


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