衝動に重たい空気が沈殿していく。御園と名乗った男の冷たい視線が子供たちを刺しているようで、思わず二人を隠した。
 園長の立場を考えれば、この双子たちの完全な味方になれるのは俺しかいない。そう思うと、尚更自分の足に力が入る。

 御園は「子供に用はない」とでも言いたげに鼻を鳴らす。心の声が聞こえてきそうだ。
「じゃあ、園長。そういうことだ」
あとはよろしく、と言って食堂から去っていく。食堂から玄関は一直線だ。
 俺と園長は御園が去っていく後ろ姿をじっと見つめる。

 震える小さな二つの背中を摩る。
「祐介、佐助。どうした? なにがあったんだ?」
顔を上げた二人は今にも零れだしそうな涙を必死に堪えて、歯を食いしばっている。二人の頭をいつものように掻きまわすように撫で、抱きしめた。
「よく頑張ったな、二人とも。でも、兄ちゃんの前ではちょっとくらい泣いたっていいんだぞ」
「泣いても、きらいにならない?」佐助が震える声で言う。祐介は嵐が過ぎ去るのを待つように、じっと堪えている。
 こんな小学生がいていいのだろうか、大人の前で泣くことすら耐える二人に自分はなにをできるのか必死に考える。それでもその答えはでてこなくて、俺はただひたすらに二人を抱きしめるしかなかった。



 疲れ切って寝てしまった二人を抱き上げて、二人の部屋へと連れていく。すやすやと眠る顔をしばらく眺め、部屋を去った。
 俺はその足で園長の仕事場へと向かう。ノックもせずに扉を開けると「ノックくらいしなさい」と叱られた。
「御園って男が何者か、俺に教えてくれるよな?」
眉を顰めて目元に影を落とす園長が黙って俺にホットココアを差し出してきた。この人のこの顔は怒っているわけではない。強面だから勘違いされやすいが、これがこの人の「困ってる」顔なのだ。
 白い湯気が天井に昇っていく。一口飲むと、その温かさにささくれだった感情が少しばかり和らいでいくのを実感する。

「御園さんは…祐介と佐助の父親だ。血は繋がっていないけれどね」
そう言った園長にその先を目で促した。このやすらぎ園には子供ながらに「大人の事情」に巻き込まれ、重たい重たい事実に打ちひしがれる子供たちが何人もいる。
 普段は明るく活発で、楽しそうに友達と過ごす彼らも心のどこかにいつも影を落として抱え続けているのだ。
「実は…二人は実の両親に虐待されていてね、近所の人に通報され二人はうちに引き取られたんだ。どういった経緯かは知らないが、二人の母親は離婚後、御園と再婚したというのは風の噂で聞いていたんだが…まさか、子供を引き取りにくるんだんて思っていなかったよ」
言葉の節々から感じる園長の怒り。施設の長としては子供が親の元に行くというのは嬉しいことではないのか。文脈からして、決して喜べないのだろうなという予測はつくけれど。

 園長は視線を窓の外から俺に戻す。その表情には鬼気迫る何かがあった。
「片方どちらかだけを寄越せと言ったんだ。祐介と佐助、どちらかだけを跡取りにする、と。運悪く、御園と女の間に子供ができなかったらしい」
「それで、どっちか寄越せってか? ……クソッタレ」
毒吐くことしかできない自分に嫌気が差す。怒りとりもこの悲壮感に打ちのめされそうで、温くなったホットココアを飲み干した。
「御園は何者なんだ?」
園長がやめていたはずのタバコに火をつけたのを、横から奪う。口を尖らせ、責めるような目で見られたが無視をしてタバコの火を消した。
「……御園は、名の知れた資金家だよ。黒い噂もよく耳にするけど、それも証拠は掴めていないんだ。まあそれも時間の問題だとは思うけれどね」

 資金家…黒い噂…聞きなれない言葉に、またあの男の顔が浮かぶ。

「悔しいけど、僕にはどうしようもできないかもしれない」
気が弱いくせに変なとこで頑固な園長の弱音に、爪が食い込むほどに手を握りしめる。無理希な自分ができることは限られていた。



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