次の日に迎えに来たのは、山蛇ではなかった。
「えっと……山蛇さんの、…?」
「はい、私はヤマダ法律事務所の園崎(ソノザキ)と申します。入間様のお迎えに上がりました」
 そのクソ丁寧な口調とは裏腹に、スキンヘッドでいかにも今一人殺ってきましたとでもいうような鋭い視線を持ち合わせた男。
「ご丁寧にどうも…」
 わざわざ助手席を開けてくれた園崎さんに礼を述べると少し驚いたような表情をした。黒いスーツを着ている園崎さんはもうまさに「いかにも」といった風貌で正直に言えば超怖い。しかしその一挙一動は流れるように綺麗で、そのギャップに頭が混乱しそうだった。



 昨晩、俺は紙袋に入っていた電話番号に発信をした。忙しそうだというのもわかっていたので、呼び出し音を長いこと聞き続けた。相手がマナーモードにでもしていなければかなり長い間うるさく着信音が鳴っていただろう。そう思うと、溜まった鬱憤が少し晴れた。だって俺だったら絶対嫌だもん。

 五分程しただろうか、着信音が途切れた。
『どうしたの? 俊平君』
俺が名乗ってもいないのに、間違い電話だったらどうするんだろう、と思った。電話口の声が少し疲れているような気がするのは俺の願望だろうか。ざまあみやがれ。
「迎えに来てもらってなんですけど…」

 せめて迎えに来るのならば、学校の入口目の前は本当にやめてほしかった。実際、クラスメイトたちに「あのイケメンとどういう関係!?」としつこく聞かれた。聞かれてもなにも答えられないのだから、かなり困る。まさか、自分の居場所を守るために、娼婦やってます。なんて誰も言えないだろう。

 そういうわけで、迎えの場所を学校から少し離れた場所に設定してもらい、放課後を迎えたわけだが、今度は迎えにきてくれた人に驚いた。
 まず遠目からして、かなり近づきたくないと心底思った。スキンヘッドに山蛇よりも高い身長、スーツが窮屈そうに見えるほどのゴツい身体つき。

 車に乗り込み、しばらくして昨日遠った道とは少し違う道で事務所に向かってることに気が付いた。
「少しくらい遠回りしても、所長は怒らないでしょう」
所長とは山蛇のことだろうか。やはり何度聞いてもその丁寧な口調に違和感しかない。

「入間様はどういった経緯で所長とお知り合いになられたんですか?」
「入間様、なんてやめてください。俺の方が年は下ですし…」
運転をしている園崎さんの真顔が少し和らいだ気がする。
「では、俊平君とでも呼びましょうか」

 どういった経緯で、と聞かれたが俺にも上手く説明ができない。そもそも、山蛇は、こんななんの変哲もない男子高校生を抱くことに有益を感じているのだろうか。
 しかも己の手で、尻を解そうとするなんて。男同士のやり方はぼんやりとしか知らなかったが、相当根気がいるようなことを聞いたことがある。

 やすらぎ園に手を出さないという条件で、なんでもするとは言ったがあちらにとってしっかりと対等な条件になっているのだろうかと疑問に思った。
「言いづらいのであれば、言わなくても結構ですよ」
どう説明をするか言いあぐねていると、園崎さんは申し訳なさそうに言った。
「別にそういうわけじゃないんですけど、説明しづらくて…」

 無理に聞き出そうとしない園崎さんに俺はヤクザもいい人はいるんだな、としみじみと思った。


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