シャワーから出ると、そこにはパーカーとジーンズが置いてあった。着てみるとサイズがピッタリで驚いていると、洗面所の扉が開いた。
「お、サイズどうだ〜?お前高校生だよな?俺と同じくらいか…?でけえな!」
あのチャラそうな男が満面の笑みで、うんうんと頷いている。
「用意してもらってすみません」
「別にいーって!いーって!山蛇さんの言うことはゼッタイだしよー。それにしても急に言うからそれ俺の服だけど、わりいな!」
山蛇の部下なのだから、この男もヤクザなのだろうか。…でも話している感じは悪い人ではなさそうだ。礼を述べると、また男は照れ臭そうに「いーって!」と言っている。

 洗面所から出ると、事務所に山蛇はいなかった。
「山蛇さん、急な仕事が入ったみたいだから帰りは俺が送るぜ」
「あ、でも俺ここから自分で帰れますよ」
これは嘘ではない。高校から少し離れたところにあるくらいで、別に一人で帰らない距離ではなかった。
 だがそれよりも、この男が運転する車に乗るのは怖い。山蛇の運転捌きは見事なものだったが、なんというかこのチャラ男は…
「あ、お前俺っちの運転が怖いとか思ってんだろ!? お前わかりやすいな〜!」
あ、マジか。手で口元を覆い、「すみません」と言うと、男は自分のポケットをごそごそと漁り、なにかを見せてきた。
 近すぎてなかなかピントが合わなかったが、どうやら免許書のようだ。
 今よりも少し大人しそうな見た目の彼の証明写真とともに、そこには『玄 吹雪』と書かれている。
「俺っちゴールド免許だっての! 失礼な奴だな〜!」

 彼の言い方がやはり子供っぽくて少し笑って再び「すみません」と言うと、「にしし」と独特な笑い方で笑って「もーいーよ!」と言った。

「だーかーら! 大人しくお子様は送られとけよ。じゃねえと、俺っちが山蛇さんに怒られちまう!」
玄は事務所に鍵を掛け、駐車場まで案内してくれた。
 車に辿り着くと、わざわざ助手席の扉を開けて「どーぞ」と言った玄に苦笑いをすると、また「にしし」と笑った。

 運転席に乗り込んできた玄は、慣れた手つきで音楽をかけ車を発進させた。地下にある駐車場から地上に上がると外はもうすでに真っ暗だった。

「なー、お前って山蛇さんのアイジン?」
突然ぶっかましてきた質問に思わず噎せ込んだ。
 丁度信号が赤になった瞬間に、玄が背中を摩ってくれた。

「あ、愛人なんかじゃないですよ」
「じゃあ、何?」

 何と聞かれましても…
 身体を売って、自分の家を守ってます…?言葉にしてみると、おかしな関係だ。この場合俺はあの男の愛人でもなんでもなく、娼婦…?

 最悪以外の何物でもなかった。

「お前ってさ、Domだろ?」
「そうですけど…」
肯定すると、あれほどうるさかった玄は「ふうん」と言ったきり、黙ってしまう。え、俺なんか変なことでも言ったか…?と不安になる。玄がこう聞くということは、山蛇には現在進行形で愛人がいるということだろうか。そう考えると余計腹が立ってくる。あの甘いマスクに増々一発決めてやりたくなった。

 運転席に座る彼を見ずに、気配だけを感じる。どれだけそうしていかは覚えていないが、気が付けば車は止まっていて、顔を上げるとやすらぎ園まで歩けばすぐのコンビニに停まっていた。
 車を降りると、後部座席に積まれていた新しい制服を持たされた。窓越しの玄に一礼し、去っていく車を見送る。

「……帰るか」
制服の入った紙袋の中にはメモが入っており、電話番号と山蛇という文字が書かれていた。


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