「あれ!?事務所開いてる…て、山蛇さんいたんスか!?」
知らない人の声がして慌てると、山蛇さんが着ていた高そうな上着をかけられた。汚れますよ!?いや、汚したのアンタだけど…!
 事務所に入ってきたのは、金髪のチャラそうな男。しかししっかりとスーツを着ており、顔と首から下のギャップがすごい。
 喋り方からしてもチャラそうな男は、俺がいるとは思わなかったのだろう、俺と山蛇さんを見比べて「うわめっちゃ俺お邪魔しちゃった感じ〜?」と片手で口元を隠した。
「よくわかってるじゃないか、玄(ゲン)」
俺の前では、優しそうなイケメンにしか見えない男は部下の人の前では厳しいのかもしれない。山蛇の低い声にチャラ男は顔色を青くする。

「あ、あ、あ、あ〜〜〜俺ちょっと用事が…」
チャラ男が事務所の扉から出した顔を引っ込めようとした瞬間、山蛇に引き留められる。
「いや玄、お前一海高校の制服買ってこい。サイズは…」
と、言って俺を見、「お前が店着いた頃にメールする」と言った。
「え!? い、いやいいですよ…! 制服って高いし…」
「でも俊平君、明日着ていく制服はどうするの?」
またあの有無を言わせない笑みで、押し切るつもりだ。確かに明日一日俺一人ジャージで過ごすのは嫌だが、この男に借りをこれ以上つくりたくない。
「クリーニングとかに出せば…」
「クリーニングだと明日には間に合わないでしょ」

 床に散らばった制服はグチャア…と落ちているが、まあ着れなくはない。正直嫌だけれども、男子高生なんてそんなもんだ。俺に母親がいれば、口うるさく言ってくるのだろうが、俺にはそんな母親もいない。

「でも…」
「大人の言うことは聞いておきなさい、いいね?」

 やはりごり押しの笑みで俺が折れるはめになった。
 だがよくよく考えてみれば、この男があんなことをしなければ俺の制服が犠牲になることもなかったのだから、と思えば腹が立ってきた。
 なーにが、「大人の言うことは聞いておきなさい」だよ!大人げないことばっかりしてくるのはアンタだろうが!と、考えてくると、クスクスと笑い声が振ってきた。
 その笑い声はこの二日間で嫌というほど聞かされたものだ。

「そうだよ、大人げない大人でごめんね?」

 この大人が俺をどうしたいのかなんてわからないけれど、俺がどうしてこなってしまったのか考える。
 やすらぎ園を守ること、そのためだけだった。

「じゃ、俺っち行ってきますね〜!」
明るい声が事務所から消えていく。
 山蛇は軽く舌打ちをして、「あんの馬鹿、空気も読めないのか」とまた低い声で言っていた。
「この事務所、シャワーあるから入っておいでよ。着替えは用意しておくからさ」
山蛇の言葉に素直に甘え、俺は風呂に入ってくることにした。


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