反転した視点が移すのは天井だけではなかった。デジャヴ。山蛇のその綺麗な顔がすぐ近くにある。男の瞳が、少し赤みがかっていることに気が付いた。

「今日は挿れるのは無理だから、ほぐしてこうか」
「ほぐすってなにを…」

 俺の質問にはやはり答えてなんかくれなかった。俺のネクタイを解くと、光の速さで手首を頭の上で拘束されてしまった。身体が動かなかった。
 自分がまるで『Subにでもなってしまったようだ』。この俺を食べつくしてしまいそうな男を前にして抵抗なんて許されないと、思ってしまったのだ。

「良い光景だ」
まだなにもされていないはずなのに、心臓がドクドクとうるさい。男に見つめられるところが、ジクジクと疼いていく。
 男の白い指先がゆっくりとワイシャツのボタンをとっていく。気が付けばワイシャツの前は開かれ、制服のスラックスは膝まで下ろされている。

「ワイシャツの下にティーシャツとか着ないの? これじゃ、君のかわいい乳首、透けちゃうんじゃない?」

 乳首を爪で弾かれ、「…ッ」と息が一瞬止まる。山蛇の舌が俺の胸を這い、乳首の上をなぞっていく。男がそんなところ、感じるわけないのに。そう思っているのに、その赤い舌が肌を這って移動していく度に、身体を捩ってしまう。どうにかして逃げようと、固いソファに身体を押し付ける。

「…ッ、あ、」
突然、快楽が襲う。山蛇が下着の上から俺のゆるく勃ち上がったモノに指を這わせたのだ。
「ふ、ンッ…」
自分の部屋が存在しない俺にとっては、自慰をする機会もなかなかないが、稀に自分で触る時でさえも声を上げるなんてことはない。そのはずなのに、無防備に口を緩めると変な声を上げてしまいそうで必死に唇を噛みしめた。

「下着がびちょびちょだね」
「ッ…!言うな、ンンッ…」
「もしかして俊平君てオナニーする時も声出しちゃうの…? それって、エッチだね」
「で、ないッ…ァ、ンン…!」
否定をすると余計に強く触られる。竿を柔くなぞるように指を這わせたかと思えば、亀頭あたりを強く掴まれグリグリとされてしまえば、我慢していても声が上がってしまう。

「そろそろイっちゃうかな…?」
コクコクと頷いた。この男にどうしてこんなにも従順になってしまうのか、わからない。生理的に溢れ出した涙がこめかみを辿ってソファに落ちていく。
 ただ唯一わかるのは、この男を前にして素直になるのは、とても気持ちいいということ。
「素直でいい子だね」
ほら。この男は俺の頭を撫で、頬にキスを落とした。
 決して甘えているわけではないが、人に素直になるというのはこんなにも…
 その先の言葉を浮かべてしまうだけで、俺はなにかを失ってしまう気がして瞼に力を入れて、視界から入る情報をすべてシャットアウトした。

「ヒッ…つめた、」
目を瞑った瞬間、いつの間にか下着は剥ぎ取られ、尻に冷たい液体を垂らされた。思わず、目を開けて山蛇が実に楽しそうにローションを握っていた。
「あ、冷たかった? ごめんね、今度温感買ってくるね」

 優しいな…じゃねえんだよ!そういう優しさがあるなら、他で発揮しやがれ!腹筋で身体を起こして頭突きしてやろうかと思った瞬間、山蛇の指がグッと挿れられた。
「いッ…!むり、むりだって!」
「んー? もうちょっとローション足すー?」
ぼとぼととローションが垂らされていく。山蛇の指にはコンドームがされていて、それを俺のケツの穴にグリグリと挿入しようとしていた。
 俺がいくら足をバタつかせたところで、俺の足の間にいる山蛇には効果はない。入ってこないように力をグッと入れても、突かれて力を抜いた瞬間に指を押し込められて変な声が上がる。
 その繰り返しをしているうちに男が指を引き抜いた。

「…?」
「すごいね、お疲れ様。今日は指一本入ったよ」
そう言って俺の頭をまた撫でた。
「初日で健闘した方だよ、頑張ったね」

 俺の下半身はローションでびしょびしょで、ワイシャツもはだけている。縛られた手首を「ん」と差し出すと、山蛇はまた笑って素直に解いてくれた。
 正直、褒められた気がしない。
 俺がしばらくその場で放心状態でいると、山蛇は俺の耳元でこう囁いた。

「また明日も迎えに行くからね、逃げちゃダメだよ」

 とりあえず、風呂に入らせてくれと思った。勃起したままの下半身をどうにかしたかった。


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