園長の仕事部屋にノックもせず、入る。
「あれ俊平くんおかえりってなんで入ってきちゃったの!?」
以外にも和やかそうな雰囲気の室内に拍子抜けする。園長と向かい合うようにして座っている男の姿を捉える。
 座っている状態からでもわかる。高い身長に、綺麗な黒髪。高そうなスーツと端正な顔のせいでかなりインパクトが強い。柔らかそうな微笑みを浮かべているはずなのに、その表情は作り物のようだった。

「お客さん来てたんだ。ごめんね園長」
園長はそれが嘘だとわかっているのだろう、溜息を吐いて項垂れている。なんだよ、そんなにこの人と会わせたくなかったのかよ。とてもヤクザには見えない風貌の男だ。佐助が「怖そうな人」なんて言うからつい身構えてしまった。

「君が俊平君?」
この狭い空間には似合わない男がソファから立ち上がり、俺の近くまでゆっくりと近づいてきた。やはりデカい。俺が前回の身体測定で175センチだった。俺の頭半分くらいは高いから大体185センチくらいか…?
 その綺麗な顔がグッと近づいてきて視線が重なる。

「よろしくね?」
近くで見たその綺麗なはずの目は爬虫類のようで、まさに蛇に睨まれているような気分になる。
「あ、えっと…はい俊平です。よろしくお願いします…」
なんだよろしくお願いしますって…なにもよろしくしたくねえよ
「うん、よろしく」
なかなかそこから動くことができず、気が付けば男は座っていて園長とまた会話を始めている。園長は俺に「俊平くんも、座んな」なんて言うから完全にこの部屋から出る機会を失ってしまった。

 気まずい。かなり気まずい。放課後に女子とふたりきりになったときよりも気まずい。
「あ、え、えっと…お名前、聞いてもいいですかね…はは…」
まずい、だいぶ気持ち悪い喋り方になってしまった。最後の笑いもカラ笑いだ。
「えっと彼は…」
「山蛇です、山に蛇って書いてヤマダ。めずらしいでしょ?」
名は体を表すといったところだろうか。「めずらしいですね」とスラリと答えたが、その言葉には意味も感情も入っていない。仕方ないだろう、なんかこの人怖いんだよ…!俺の本能が『逃げろ』と言っている。
 この人はDomなのだろうか、俺よりも強いDomのGlareを浴びている状態ならば、この悪寒も頷けるが、理由はそれだけではないような気もした。

「お仕事はなにされてるんですか?」
口がカラカラで目の前にある緑茶を一気飲みする。隣に座っている園長のモノだったらしく、園長が小さく「あ、コラ」と言っているが関係ない。
「ふふ、なんだと思う?」

 俺の心のうちを晒すならば、こうだ。「今の質問に深い意味はないので、そういう答え方はマナー違反ではないでしょうかー!?」である。

「え、え!?はは、なんだろう…警察官、とかかな…」
「俊平くんが僕のお茶飲み干しちゃったから、ちょっと注いでくるね」
思わず「え!?」と言いそうになった。俺とこの人をふたりきりにする気か!?鬼の諸行すぎるよ!?
 しかし、願いは叶わず園長は部屋を出ていく。

 山蛇は、この機会を待っていたとでも言うのか、楽しそうに俺を見ている。着ているスーツの内側を捲り、そこから見えたものに俺は絶句した。

「残念、不正解。俺、怖ーい大人なんだよね」
ピストルに真似た山蛇の手が俺の頭を打ち抜いた。口で「ばーん」と言った山蛇をクスクスと楽しそうに笑っている。

 誰だよ、ヤクザじゃないには見えないって言った奴!俺だよ!!


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