悪い事が起こる前兆というのは腹が立つほどわかりやすい。
 朝はいつも使っていた目覚まし時計が壊れていて寝坊をするわ、学校に向かう途中ではバイクが事故ってあと少し前に出ていたら死んでいたし、昼は購買に行ったらお気に入りのスペシャルパンが売り切れていたし、六限では古文の授業で馬鹿みたいに当てられて散々だった。
 ちなみに、スペシャルパンとは、俺が通う一海(ヒトウミ)高校名物のひとつだ。普通のコッペパンに生クリームとこしあん、イチゴジャムをサンドした素晴らしい食べ物である。

 話が逸れたが、今日が厄日ということは十分わかっていたはずだ。それでも、運命とは非情なもので、自分にとって最悪だと思うことから逃げることができるのは難しい。

 今日はシラクでのバイトは無い。与一さんにテスト期間ということがバレて「学生は勉強が一番!テストいつまでよ?終わるまで来るんじゃねぞ」と最後らへんはほぼドスの効いた男声で強制的に休まされた。…こうなるのがわかっていたから言わなかったんだけど、勘の良い与一さんは「アンタ、そういえばテスト期間いつよ?」という質問に嘘をつかなかった俺が悪い。いやだって与一さんに嘘なんかついたらすぐバレるに決まっているし、バレた後絶対怒られるやつ!

 折角休みをもらったのだから、大人しく帰って勉強しよう。
 やすらぎ園の玄関にはチビたちの靴が散らばっている。「ただいまー」と大きい声で言えば、奥からダダダッという足音が聞こえてきた。

「しゅん兄帰ってきたー!!」
腕を広げて待っていると双子が俺の胸にタックルを決めてきた。
「グッ…お前ら今日も元気に小学校行ってきたか…?」
そう聞くと、顔を輝かせて頷くふたりを思い切り抱きしめた。二人は小学校六年生の双子で兄の祐介と弟の佐助だ。
 活発的な祐介とは対照的に大人っぽい佐助はいつも二人一緒。今日も元気に出迎えてくれた。

「あれ園長は?」
「なんか知らない人来てるよ」
園長の所在を問うと、佐助が答えてくれた。
「ん…?知らない人?」
「なんかめっちゃ背がおっきい人だった!でねー、めっちゃ怖い感じ!」
え…ナニソレ怖い…
 園長はああ見えても小心者というか、怖がりな部分がある。祐介が言ったように、「めっちゃ背がおっきい人」で「めっちゃ怖い感じ」を思い浮かべる。俺の脳内には、園長が怯えながらグラサンヤクザと話している光景が浮かんでい来た。
 俺は二人を膝から下ろすと、頭をポンと撫でた。
「ちょっと園長、心配だから園長のとこ行ってくるわ」
「えっでもしゅん兄、園長がしばらく部屋には入っちゃダメって…」
心配そうに見る佐助の頭をぐしゃぐしゃと掻きまわすと、ぴゃーと嬉しそうに笑っている。


「だーいじょぶだって、兄ちゃん強いのお前らも知ってるだろ?」
なにも大丈夫ではないというのを、この時の俺に誰か教えてやってほしい。


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