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連載主とマルコ
2010/08/03 23:46
いーねえちゃんにきせてもらった、と言って駆け寄ってきたチビ助は、いつものTシャツやパーカー姿ではなく、波の模様の描かれた涼しげな浴衣姿だった。
「まるこ、みてみてー」
「ああ。涼しそうな格好だねい」
「いーねえちゃん、じょうず」
上手、とは着付けのことだろうか。普段から着物を好んで着ているイゾウにとってはたいしたことないだろうが、和服とはあまり縁のないチビ助からしてみると随分とすごいことのように見えたんだろう。
嬉しそうに顔をほころばせるチビ助を、よっと抱き上げる。
「…金魚みたいだよい」
ひらひらと風にそよぐ帯が少し邪魔だが、なんだか金魚みたいでかわいい。
浴衣とはこんな帯だっただろうかと少し考えるが、記憶の中にある帯はこんなではなかったように思える。となると、これは子供用か。
「ふへっ。ひらひらー」
「ひらひらだよい」
「まるこのはねみたい!」
「…あぁ、たしかに」
先の方から青のグラデーションがかかっているそのひらひらは、たしかにおれの羽に似ているかもしれない。風に吹かれてなびく様なんかは、まさに、だ。
「かっこいー」
にっこりと笑って首を傾けたチビ助は、かっこいいというよりもかわいいのほうがしっくりくる。けどそれを言ってガッカリさせるのもなんだから、おれはチビ助の言葉に頷いて丸い頭を撫でた。
「せっかく浴衣着たんだい。なんか夏らしいことしたいな」
柄にもなく、思わずそう言ってしまった。らしくない、と苦笑するより早く、チビ助がぱあっとさらに笑顔を浮かべる。
「したい!」
首にぎゅうっと抱き着かれた。耳のすぐそばで、きゃっきゃとはしゃぐ声が聞こえる。
どうやらこれはもう、本当に夏らしいことをするしかないな。
夏らしいこと…。
ううむ、と悩みながら、おれはひらひら揺れる青い帯にそっと触れた。
続きます。
…まさか続き物になるとは……。
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