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連載主とマルコ
2010/04/22 11:26
「あめだー」
「雨だねい」
べたっと窓ガラスに張り付いて、チビ助はさっきからずっと楽しそうに雨だ雨だとはしゃいでいる。
サァサァと静かに降る雨は、ただモビーを濡らすばかりだ。
嵐ではないからおれもこうして部屋でのんびりしているのだけど、別に雨は楽しくない。つまりは、チビ助が楽しそうに雨だ雨だとはしゃぐ理由がわからない。
まあ、楽しそうならいいか、とおれはまた手元の本に視線を戻した。
「あめ〜あめ〜」
妙な歌まで聞こえてきた。
癖、なんだろうか。
このチビっ子は、機嫌が良いとよく歌いだす。
ゆるゆる歌うチビ助の声に耳を傾けて、またページをめくった。
「ふ〜れふ〜れ〜」
しばらく黙って聞いていたが、何度も同じフレーズを繰り返す。もしかしなくても、うろ覚えなんだろう。
聞き覚えのないその歌の正しい歌詞なんて、おれもわからない。
思わず笑って、窓際にいるチビ助を手招いた。
素直に笑顔で駆け寄ってきたチビ助を膝に乗せて、頭を撫でる。猫か犬のように、気持ち良さそうに目を細めた。
「くくっ…。なんて歌だい?」
「しらないー」
「知らないのかい?」
「うん」
「タイトルも?」
「うん。あめのうたじゃない?」
身も蓋も無いネーミングに、苦笑してチビ助の頭をぐしゃぐしゃに掻き混ぜる。ケラケラと楽しそうな笑い声を上げてタックルしてきたチビ助を受け止め、そのまま腰掛けていたベッドに倒れ込んだ。
「そうだねい。雨の歌でいいか」
「あめのうた、けってー」
「よいよい」
「ふへへー。あめのひは、まるこものんびりでたのしいねー」
「…あぁ…、それで」
「うん?」
「いや、こっちの話だよい」
なるほどなるほど、と一人頷いて、おれの腹の上で伸びているチビ助を両手足で持ち上げる。まるで空を飛んでるみたいな格好になった。
「あはは!そらとんでるみたい!」
「そうだねい」
「うえーい」
「うえーいって…」
「あっは!たのしいねー!」
そういえば、こんなにのんびりするのは久しぶりかもしれない。
外はまだ雨だし、海は穏やかだし、チビ助は楽しそうだし。なら、こうして家族サービスに努めるのもいいか。
おれもチビ助と同じように、声を上げて笑った。
雨の日は、みんなしてだらだらしてたらいいと思う
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