“私は星野彩音です。高校1年生です。”


女性らしい可愛らしい文字だと辰己は思った。
高校1年生と言う事は彼女は辰己と同じ歳という事になる。


「俺は辰己琉唯。俺も高校1年だよ。」

“さっきは逃げてごめんなさい。びっくりしちゃって。”

「別にいいよ。その雑誌もう読んだから渡しておくね。」


辰己が笑顔で対応するとつられて彼女も笑顔になった。
話すことの出来ない彼女だが、筆談となると会話はスムーズだ。


“もしかして、たつみ君はあやなぎ学園?”

「そうだよ。」

“音楽、好きなんだね。”



彼女が辰己の着ている制服を見て綾薙学園の生徒だと気付き、音楽好きという共通点もあり、雑誌をペラペラ捲りながら暫く音楽の話をする。

どうやら双方、音楽に関しては詳しい様で、音楽観も似通っていた2人の会話はとても弾んだ。



「…っと、ごめんね。そろそろ寮へ戻らないと。」


話し込んで暫く時間が経過すると、もう空は紅くなってきていた。
辰己はまた通院するから、と言い残すと彼女は慌て気味にメモ帳へ文字を書き起こした。


“また来てね、今度はお礼させて。”


「お礼なんて…うん、また来るね。お大事に。」


辰己は立ち上がって手を振る。彼女もまたそれに振り返す。
受付の看護師は彼女を合唱部と言っていた。音楽の話はしたものの歌について辰己が触れることはなかった。
彼女が音楽の話題を振らなければその話題が上がる事は無かっただろう。

誰にだって触れられたくない事はある。
声の出ない彼女なら尚更だ。

しかし、彼女との会話の時間はとても有意義だった。個性豊かなチームメイトを抱える辰己にとって、彼等と趣向の違いからあまり深い話をする事は、あまりない。幼馴染みの申渡ですら同じである。

辰己は次の通院時の楽しみを思い頬を少しだけ緩ませた。


彩音もまた誰も居ない病室のベットの上で頬を緩ませた。
出会った瞬間透き通るような辰己の瞳に思わず吸い込まれそうで怖くなって逃げ出した等、辰己には絶対に言えない。

音楽の名門に通う彼は自分と同じく音楽好きだった。
会話もそれなりに弾んだし、彼との会話は退屈しなかった。
それに、自分は筆談で気持ちを伝える事に少し時間が掛かるものを彼は真っ直ぐ、その綺麗な目を逸らすことなく付き合ってくれた。
高揚した気持ちを落ち着かせると彩音はノートを開いた。


しかし彩音がノートに音符を書き足すことはない。











「機嫌がいいですね。」

「…栄吾。」


寮へ帰り部屋の扉を開けた瞬間、同室兼幼馴染みは辰己の顔を見るなりそう言い放った。


「顔に書いてあります。何かいい事でも?」


感の良すぎる幼馴染みに内心感心しつつも辰己は制服の上着を脱ぎ、夕食への身支度をする。


「…栄吾が言うなら、そうかもね。」












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