Dream | ナノ

Dream

ColdStar


鏡に自分の姿を映して、そこでやっと気づくと言うのも随分と鈍いと言えばそうかもしれない。
自分に僅かながら呆れを覚えながら、胸の間に――丁度ビスチェの隙間から覗いた隙間に刻まれた紅い痕に視線を落とす。
勿論こんなものを付ける人間はソーマしかいないわけで、しかも場所が場所だけにどういう状況で付けられたものなのかはあからさま過ぎる。流石にこれが見えるような状態で人前に立つことが出来るほど私は恥知らずなわけではない……
私にこの痕を刻んだ張本人のソーマはまだベッドで気持ちよさそうにまどろんでいる。態々文句を言う為に起こすのも気が引けて、私はため息をつくとビスチェの上に羽織っていたコートを脱いでソファへと放り投げた。
時々着ているホルターネックならば胸の谷間は覆い隠すことが出来る。クローゼットから衣装を探していると、背後でごそごそと衣擦れの音が聞こえてきて――振り返ると、先ほどまでは気持ちよさそうに寝息を立てていたソーマが軽く頭を押さえながら身体を起こしている所だった。

「もう起きてたのかよ」
「午前中に食糧会議が入っているからな、いつまでも寝ているわけには行かない」
「……本当に仕事馬鹿だな、藍音は」

呆れたように呟いたソーマに再び背中を向け、クローゼットから目的の衣服を取り出す。それと共にビスチェの紐を緩めて解き、足元に落としてから手にしたホルターネックに首を通した。
着替えを終えて振り返るとソーマは不思議そうな顔をして私のほうを見ている――その表情の意味は、問いかけられた言葉によってすぐに明らかにされたわけではあるが。

「なんで態々着替えてたんだ」
「誰のせいだと思っている?痕がはっきり見えるような服を着て人前に出るわけには行かないだろう」

自分のせいだなんて微塵も思っていなさそうなソーマの言葉に、僅かに腹が立ってくる。勿論、痕を付けられたのが嫌なわけじゃない――ただ、場所を考えて欲しかったと言うだけのことで。

「別に見られたって構わねえだろ。藍音が誰のものなのかはっきりさせるって意味では」
「……それで余計な憶測を呼んで陰でごちゃごちゃ言われるのは流石に面倒だろう」

勿論私とソーマの関係を知らない人間の方がアナグラには少ないし、子供じゃないんだから私とソーマの間に「そういう関係」があることも皆口に出すことはなくてもなんとなくは察してはいるだろう。
だが、それを身体に――それも胸の谷間なんてきわどい場所に残された痕をもって大々的に喧伝する必要なんてどこにもない、わけで。

「あんただって不必要にそのことを言われるのは面倒だと思わないか」
「まあ、そりゃそうだ」
「大体が……まあ、肌が見える服を好んで着ている段階で何を言ってるんだと思われても仕方なくはあるのだが」

コートに合わせて着ようと思っていた服はホルターには今ひとつ合わず、かわりに取り出したスカートに脚を通し――ソーマの方を見ないまま、私は言葉を繋ぐ。

「そういう姿をソーマ以外に想像させるのは……個人的には嬉しいことだとは思えないからな」
「当たり前だ。他の奴に藍音のそんな姿想像させたくねえ」

ソーマの言葉に、私は彼に見えないように僅かにほくそ笑む。
こうも見事に誘導が成功するとは私も思っていなかったのだから嬉しくなるのも仕方がない……とでも言うか。

「だったら人目につくような場所に痕を残すのはやめろ、いいな」

私の言葉に、ソーマはうっと言葉を詰まらせて私の顔を真っ直ぐに見つめ……やがて、はぁと大きく息を吐いた。

「……分かったよ」
「分かったならいい、それと」

着替えを終え、未だベッドに裸のまま座っているソーマへとゆっくりと歩み寄った。突然歩み寄ってきた私の意図が分からないのかソーマは僅かに表情を変える――だがそれにこだわることなく、私はソーマの肩に手をかけるとその身体をベッドに押し倒し、ソーマの首元に唇を押し当て……きつく吸い上げた。

「っ、藍音……」
「仕返し、だ。……まあ、ソーマの場合痕を付けても殆ど見えないから仕返しにもならないんだが」

それだけを言い残して、私は部屋を出る。あまりのんびりしていると会議に遅れてしまうのだから仕方がない。
ただ、私が自分から痕を付けたときのソーマの僅かに驚いたような顔は……普段彼が見せる表情とは異なっていて、それを見ることが出来ただけでもなんだか十分に楽しいと思えていた。

……その日の夜に、仕返しの仕返しと称して「見えなきゃいいんだろ」と服に覆い隠される部分にまた大量に痕を付けられることになるとはそのときの私はまだ知らなかった、わけではあるが。

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