■部隊長の資質
「クルトに大神、それにエックスとゼロ……ああ、あとフレンもだったか」
ふとした休息の時間、リンドウがその場にいる仲間達を見渡し、何かを指折り数えながらそんなことを呟く。
丁度そこに、名を呼ばれた中に入っていた張本人……フレンがいたものだから、その言葉に反応したように彼の視線はリンドウの方へと送られてきた。
「僕がどうかしたかい?」
「ああ、いや……この集団の中には随分と、『隊長』って立ち位置の奴が多いな、と思っただけだ」
「リンドウさんだって元は隊長だったじゃないですか」
補足したリンドウの言葉に、アリサが一言呆れたように突っ込みを入れる。それもそうだが、なんて返しながらぼんやりと辺りを見渡していたリンドウだったが、その視線は不意に遠くにいたソーマのところで止まる……
「あいつも、隊長になってもらえないかって声かけられてんだろ。断固として拒否してるだけで」
「この短い期間の付き合いだけで見ての俺の個人的な意見だが、ソーマは確かに向いてるだろうと思う」
その話を近くで聞いていたのだろう、いつの間にやら話題にはエックスも加わっている。
……未来の世界、限りなく人間に近いとは言え機械の身である彼が部下を統べる部隊の長であると言うのも、生活に必要な程度の機械文明はあるとは言え人型機械などとは縁遠いリンドウ達からすれば不思議な話ではあるわけで。
そんなぼんやりとしたリンドウの考えなど知らないのであろう、今度はゼロが補足するように言葉を繋ぐ。
「部隊を統べるのに必要なものは実力と責任感、それと仲間に的確な指示を出す判断力と仲間のことに配慮する己を捨てた考え方。確かに、そう考えればソーマは隊長向きなのかもしれないな」
「大神さんはそこまで考えているのか怪しい時がありますけどね」
「さ、さくら君……」
手厳しいさくらの一言に大神が苦笑いを浮かべ、その場にいた全員の間にも笑いが巻き起こる。
その場にいる者たちが皆、気付けば遠くで何事かを思うように遠くを見遣っているソーマの方へと視線を送っている――その状態のまま、次に口を開いたのはクルト。
「まあ問題があるとすればコミュニケーション能力の低さ、か」
「大した問題じゃない。クルトだって最初は酷いものだったのを忘れたとは言わせない」
「イムカも割とひどいこと言ってるのだー」
今度はイムカからクルトに対しての手厳しい突っ込みが入り、無邪気にねねこが一言。そしてまた巻き起こる笑い――
先の見えない戦いではあるが、どこか和やかな空気が彼らの心の疲れを十分に癒しているのかもしれなかった。
「……でも不思議。ソーマはそれだけ認められてるってことでしょ?なんで隊長にならないの、勿体無いってね」
「そうじゃのぅ。責任感もまあまああるし他人のことを考える思考も持っておる。実力と判断力に至っては問題なし、おまけにルックスもいい。そこまで認められて、何でその誘いを断り続けておるのかわしには理解できん」
「……見た目は関係ないってね」
美依と小牟のやり取りに、その場にいた者たちは皆僅かに頷きあうが……そこでアリサが意味ありげな笑みを浮かべる。
「まあ、ソーマの気持ちは分からないわけじゃないですけどね私は」
そんなことをアリサが口にしたのとほぼ時を同じくして、考え事をしていたらしきソーマが不意に視線を彼らの方へと移していた。
彼らが皆自分を見ていると気付いたのだろう、ソーマは怪訝そうな表情のまま一行の……正確には、その中心にいたリンドウの方へと足を進める。
「おい、一体何の騒ぎだ。人のことをじろじろ見やがって」
「んー?ソーマには部隊長の資質があるっていうのに、なんでその誘いを断り続けてるんだろうなって話さ」
「また余計なことを」
ちっ、と小さく舌打ちしたソーマはすぐに彼らに背中を向けかけるが……静かに、言葉を紡ぐ。
「ひとりにしとくと勝手に突っ走って何しやがるか分からねえ頑固者の馬鹿隊長をほったらかしになんぞできるわけねえだろうが。藍音が隊長やってる限り、あいつを支えることが俺の仕事……理由なんてそれだけだ」
それだけ言い残してソーマはまた、その場をすぐに去っていく。
「……さらっとさくらやイムカより酷いことを言うておるのう」
「ま、愛情の裏返しってやつなんだろうな」
「でしょうね。なんだかんだ素直じゃないんですよね……ほんとは藍音さんのことが大切なくせに」
ぽつりと呟かれたリンドウとアリサの言葉に、その場にいた全員が今度は視線をリンドウとアリサの方へと移す。
その視線は明らかな好奇の色に染まっているものばかりで……
「おおー、と言うことはその隊長ってのとソーマはらぶらぶなのかー?いやーんなのだー!」
「あのソーマがそんな健気で一途だなんてちょっと信じられないけどねー。ま、愛の力恐るべし、ってね」
「男の人は一途な方がいいんですよ。大神さんも見習ってくれたらいいんですけど」
「だからさくら君……」
わいわいとそんな話が続く一行に背を向けたまま、ソーマが再び小さく舌打ちしていたのを聞いていたものがいたのかいないのか――それは、誰にも分からなかったが。