Dream | ナノ

Dream

ColdStar

live for...

「それにしても、水臭いです」

新作の配給品を使った料理を試している最中に、ぽつりとアリサが呟いた。

「水臭いって何が」
「だから、ソーマとのことです……コウタですら知ってることを私が知らなかったなんて凄くショックだったんですよ」

唇を尖らせるアリサに、ああ……とだけ短く答える。
聞かれなかったから話さなかっただけで、コウタには聞かれたから答えた。ただそれだけのことではあるしさっきもそう説明はしたけれど、アリサにはそれがお気に召さなかったらしい。

「大体、聞かれなかったから答えなかったって……そんなプライベートなことを聞けるわけないじゃないですか。コウタくらい無神経ならともかくとして」
「コウタが聞いたら怒るな、それ」

本当にコウタが聞いたら大変なことになりそうな気がするアリサの失礼な呟きに、小さく笑みが漏れるのを止められない。
笑みがこぼれたのとは関係なく手を止めて……小さく、呟いた。

「リンドウさんがそうだったから」

私の呟きに、アリサもまた隣で手を止める。

「リンドウさんが行方不明になるまでサクヤさんとリンドウさんが恋人同士だって知らなかったし、積極的に言うようなことじゃないと思ってた」
「……尊敬してましたもんね、リンドウさんのこと」
「過去形じゃない……まだ尊敬してる」

私にとっては自分に実戦のいろはを叩き込んでくれた人。
その人の後を継いで第一部隊のリーダーとなった今でも、私は神機使いとしてはずっとリンドウさんの背中を追いかけ続けてるんだと……そう、思う。

「でも、あんまりリンドウさんの真似をしすぎるのはやめてくださいね」

ぽつりと、寂しそうにアリサが呟いた。

「アリサ」
「私は二回も直属の上司を失いたくないし、恋人を失って嘆いてる仲間を見るのももうまっぴらですから」
「……気をつける」

アリサの言葉に、『あの時』のサクヤさんの姿が脳裡を過ぎった。
私を失ったらソーマはどうなるんだろう、そんなことは考えたこともなかった――アリサの呟きを聞くまでは。
ふと、シオが月へと旅立ったときのことを思い出した。あの時のように取り乱したり、するんだろうか――なんて。

「ところで藍音さん」
「ん?」
「鍋、焦げてます」

アリサに指摘されてようやっと気付いた。黙々と黒い煙を上げる鍋を慌てて火から下ろして……ひとつ、ため息。
普段ならこんな失敗をすることなどないのに。

「料理をしながら考え事をするのはよくないな」
「まあでも、考えさせたのは私ですから。もう一回作り直しましょう」

私に笑顔を向けるアリサが自分を慕ってくれているのが伝わってきて、なんだか少し嬉しくなった。
ソーマの為だけじゃなく彼女や、そして同期として親しくしてくれているコウタや先輩として自分を導いてくれたサクヤさんのためにも、私は……

「生きなきゃ、いけないんだな」
「そうですよ。藍音さんがいなくなったら悲しむ人がどれだけいると思ってるんですか」

何を今更、とでも言いたそうなアリサの笑顔に、ひとつだけ頷きを返して――いつも神機を握る右手に、再び包丁を握りなおした。

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