Dream | ナノ

Dream

ColdStar

自分勝手な必然

新種のアラガミの偏食因子があれば外部居住区のアラガミ装甲を強化する事が出来る。
その話をヒバリから聞いたコウタは、どうやら第一部隊の通常任務の合間に新種のアラガミを倒しに行くミッションを積極的に受注している、らしい。
それが、シオの食事になりそうなものを集めたいと言う私やソーマの考えと合致する事もあって……時に、私とコウタは一緒に作戦に出撃する事も多くなっていた。

「それにしても今日は休暇の予定だったんだろ?別に無理して付き合わなくても良かったのに」
「……目的は違うが手段は同じ、ってことだ」

それだけ言ってやるとコウタはそれで理解してくれたらしく、笑顔を浮かべて大きく頷いていた。
入隊してから随分と時間が経って、ただの同期から隊長と隊員と言う関係になった今でもコウタのこういう気安いところはなんだか安心できるものだった。

「……家族を守りたいんだ。外部居住区にアラガミが進入するような事態が起こらないようにしなくちゃ」
「家族、か」
「あ……ごめん」

私の短い呟きにコウタは一言だけ詫びの言葉を告げる。
私にはもう家族はいない――以前、タツミに誘われて行った食事の席でそんな話をコウタにしたような覚えがあるがそのことで私に嫌な思いでもさせたのではないかとコウタは感じたのかもしれなかった。

「別に私は気にしてない……それに、両親はアラガミに喰われて死んだわけじゃないしな」
「……なら、いいんだけどさ」

ほんの僅か安堵したような表情を浮かべたコウタだったが、ふとその表情が真剣なものに変わる。

「こないだ、バガラリー見てて……すげー心に響いた台詞があったんだけど」

言葉だけを見ればいつものコウタ。だが、その表情の真剣さはいつもとは遥かにかけ離れている。私は黙ったまま、コウタの言葉が続くのを待った。
コウタは何かを思い出すように視線を上方へと送り、そして……ぽつりと、呟いていた。

「何かを守りたいって思うことで強くなれる、って。俺は家族を守ろうって思えることが強さになってるんだけどさ……藍音はどうなのかな、って今思ったんだ。だってほら、藍音……強いじゃん。多分俺より」

コウタの言いたいことはそれだけでなんとなく伝わってきた。
コウタにとっては何より守るべき存在である「家族」が私にはいない。私には守りたいものはないのだろうか、それが気にかかった……と言うことなのだろう。

「私が守りたいもの、か」

コウタが先刻そうしたように、上方へと視線を送る。
思い浮かんだ答えは……何故だろう、どうしてだか口にする事はできなかった。
その代わり、誤魔化すように思い浮かんだ別の考えをそのまま何のためらいもなく口にしていた。考えようによっては、相手がコウタである以上その方が余計恥ずかしいと頭では分かっていても。

「……全ての仲間……なんだろうな、多分。仲間を生還させる事が私の義務である以上」
「うわ、なんか今の藍音すごい隊長っぽかった」
「隊長なんだから当たり前だろう」

茶化すようなコウタの言葉に苦笑い交じりにそう返し、そして目を伏せる。
私の答えは、真っ先に思い浮かんだ真実とは違っていたから……そして、それをコウタに、と言うよりも誰かに伝える事は出来そうにはなかった。

守りたいもの、と言われて真っ先に思い浮かんだものは――ソーマ、そしてシオ。
最近は少しずつ私にも笑顔を向けてくれる事が増えたソーマと、無邪気にそんなソーマや私を慕ってくれるシオの存在――私にとって守りたいもの、そう言われて思いついたのは二人の姿だった。
誰よりも傷つきやすい心を守る為に他人に対して心を閉ざしていたソーマ。だが、シオの存在によってそんなソーマも少しずつ私に、皆に心を開いてくれるようになってきた。
その事実が私にとっては何よりも嬉しくて、何よりも幸せで……だから私は、ソーマとシオを守りたいと当たり前のように考えている。
全ての仲間を守りたいと思うこと、それは……コウタにも言ったとおり、第一部隊隊長である私にとっては義務でもある。だがそれよりも先に思い浮かんだのがソーマたちのことだった……だから、言葉には出来なかった。

 ――これは許されるんだろうか?

あまりにも自分勝手かも知れない、それが分かっているから言葉に出来なかった考えは私の胸の中に深く突き刺さる事になった。
だが、突き刺さったままのその考えが示していたものが、自分でも気付かないままに変わり始めていた感情だった事にこのときの私はまだ気付いてさえいなかった……

 Return 



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -