Dream | ナノ

Dream

ColdStar

その目に映る「私」

リンドウさんの腕輪信号が確認されたと言う情報を元に、私達はいつもの廃寺へと向かう。
討伐対象となったのは「あの時」に教会跡地で私たちを取り囲んだ、そしてリンドウさんと共に閉じ込められたプリティヴィ・マータ。
勝てない相手ではないと言うツバキ教官の、そして上層部の判断は決して間違ってはいなかったらしく……私たちは無事に氷の女王を撃退する事が出来た。
だが、結局プリティヴィ・マータからリンドウさんの腕輪は回収できなかった――
調査隊のいい加減さに憤るアリサをあざ笑うように聞こえてくる遠吠え。その声に誘われるが如くに私たちは声のした方へと向かうと――そこにいたのは、私たちが初めて目にした、黒いヴァジュラの姿だった。
……腕輪信号が廃寺から感知されたと言う情報が偽りでないのだとしたら、リンドウさんの腕輪を持っているのはきっと……そんな事を考えたのは、何も私だけではなかったらしい。
見てなさいよ、なんて小さく呟いたサクヤさんの声を耳にしながら、私は言葉にはしないまま神機を強く握りなおしていた。
感情的になるな、とツバキ教官からは釘を刺されている。だが――「あれ」がリンドウさんの仇だとすれば――

 ――リンドウさんの仇は絶対に討つ。ここで諦めてたまるか……!

その場にいた誰もがきっと、考えていた事は同じ。
言葉はないままに皆互いの顔を見合わせ、大きく頷きあって――私たちはアナグラへの帰路へとついた。


アナグラに戻っていつものようにシオの部屋を訪れる。いつものようにそこには先にソーマがいて……だが、シオの表情がどこか不安そうなのに気付いて、私はソーマはひとまず置いておいてシオの傍らにかがみこんでその目を真っ直ぐに見つめる――サカキ博士に言わせればシオはとっくに成人ほどの知性は持ち合わせていると言うが、それでもやはり子供に対してそうするような接し方をしてしまう癖は抜けそうにはない。

「どうしたんだ、シオ」
「そーま、なんかこわいかおしてる……」

シオの言葉に、しゃがんだ体勢のままソーマの方を見上げる。
確かにソーマはどこか心ここにあらずといった風情で何事かを考え込んでいるようだった――だが、今のソーマがこんな表情になるとしたら理由は……なんとなく推測できる。
私は一度シオの頭を撫でて立ち上がると、ソーマの隣まで歩み寄ってくいとその袖を引っ張った。
シオの言っていた事を考えると、あまり込み入った話をシオに聞かせて余計な不安を抱かせることになるのはどうも歓迎できないと思って……部屋の隅までソーマを引っ張っていくと、ソーマだけに聞こえるように小さな声で自分の考えを言葉として綴っていった。

「リンドウさんのこと、考えてたんだろう」
「ああ……あの黒いヴァジュラを倒したらリンドウを超えられるのかもしれない、そう考えてた」

ふと、ソーマの目がどこか遠くを捉える。その視線の先には、今この場にはいないリンドウさんの姿が映っているのだろうか――
そんなソーマを見ていると、先日……単独でウロヴォロス討伐に向かう前に支部長からかけられた言葉がその言葉に対して覚えた違和感と共に胸の中に不意に頭を過ぎる。

  ――彼に勝る逸材がここにいる……

支部長は私がリンドウさんに勝っていると言っていた。だが自分ではそんな事は微塵も思わないし、支部長がそんなことを口にした理由がどうしても私には理解できなくて……あの時からもやもやと心の中に違和感が渦巻き続けていた。

「リンドウさんを超える、か……そう簡単に超えられるような存在だとも思っていないがな、私は」
「……だろうな。藍音、お前はリンドウを超えようとしてるわけじゃない……リンドウに、なろうとしてる」

ソーマの言ったことの意味が今ひとつつかめず、私はただソーマの方を見ていることしかできなかった。
きっと相当に私は間の抜けた表情をしていたのではないだろうか――そんな事に思い至る余裕すらないほど、ソーマの言葉は私に衝撃を与える。

「リンドウさんに、なろうと……?」
「……お前が隊長としてリンドウを尊敬してるのも、未だにリンドウの背中を追いかけてるのも……部下やってりゃ分かる。だが、向き不向きってもんがある。リンドウはリンドウ、藍音は藍音だ」

ソーマの言っている事は、音としては耳に入ってくるもののその意味が私の中で上手く形にならない。
一体全体、ソーマには私がどう見えていると言うのだろうか。以前からアリサやコウタにいわれてきたことではあったが、自分のことは自分では全く理解が出来ていない。
それを改めてソーマにまで指摘される事になるとは全く考えていなかった――そんな私の顔を見て、ソーマはぽつりと短く付け加えた。

「そもそも、お前の性格でリンドウになれるわけがないからな」
「いや、それ以前に……リンドウさんになろうとしてるなんて、自分では全く……」
「……お前も自分のことすら分からねえ、か」

ふっ、と小さくソーマが笑う。その笑みは決して私を馬鹿にしたようなものではなく――どこかその笑顔が優しいと思ってしまったのは私の気のせいなのだろうか、それとも。
そうやって、少し緩められたままだったソーマの表情が私に向けられる……今までソーマのこんな穏やかな表情を見たことなんてきっと片手の指で足りるほどしかない、そんな事を考えている私の耳には、ソーマの落ち着いた声が静かに響いていた。

「お前も自分探しが必要なのかもな」
「おおー、あいねもジブンサガシ、だな!」

先ほどまでどこか落ち着かない表情だったシオが不意に笑顔を浮かべる。それには僅かに安堵したものの――私の頭の中には、それとは全く違う感情が強く渦巻いていた。
そう。ソーマの言うとおりなのかもしれない。
私も、自分の考えている事、行動の理由、そんなものが何一つ自分自身でつかめてはいない。
ただ、こうしたいと思ったからそのままに行動するだけ――根拠や理由なんて何も分からないまま。

だが、それをソーマに指摘されたことが……何故だろう、何故だかとても嬉しく思えていた。
丁度私が隊長になった直後、冷たくも聞こえるのにその奥に優しさを秘めた言葉を私に投げかけてきたあの時と同じように――ソーマの優しさが、不器用な言葉の殻を纏ったまま直接私の心に投げかけられてきたのだと素直に感じ取る事が出来ていたから。

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