Dream | ナノ

Dream

ColdStar

さくらさくら

戦っている最中にそんな事を考えている場合ではない。そんな事を考えるのが命取りになるのは分かっているし、今対峙しているのは自分たちもよく見知ったアラガミ、ヴァジュラ。自分たちの世界から来た敵なのだから自分がしっかりと戦略を伝えてやる必要があるだろう。
だが、ソーマはふと近くにいたひとりの女性の姿を見て何事かを考え込んでいた。

「どうかされましたか?」
「……いや」

彼女……真宮寺さくらと名乗ったその女性を見ていると、ソーマの中で帰るべき場所に残してきたひとの姿がどうしてもちらついてしまう。
舞い散る花びら……この花が桜と言うのだと誰かに聞かされてから余計に。

「さくら君に何か用かい?」
「……いえ、違うんですよ大神さん。きっとソーマは……」

もの言いたげに笑うアリサからソーマは自然と目を反らす。アリサだってきっと同じことを考えているのだろうから、それ以上言うなと言ってやればそれでいいのかもしれない。
だが、自分が見ている限りではこの大神と言う男はさくらと恋仲であるらしい。余計な誤解を与えない為にも、そしてアリサが自分と同じことを考えているのを確かめるためにもソーマは敢えてアリサの言葉を止めなかった。

「さくらさんを見て思い出しただけだと思うんです。私たちの世界に残してきた、大切な人のことを」
「あたしを見て……?どうして、そんな」

アリサの考えは何も間違っていなかったのを確かめると、ソーマは視線を反らしたままぽつりと呟いた。

「持ってる武器に髪の色。それに名前が……な」
「名前?もしかしてソーマさんの『大切な人』もさくらさんとおっしゃるんですか?」
「いや、苗字が『櫻庭』って言うんだ」

そう、偶然とは言えあまりにさくらと藍音には重なるところが多すぎた……名前も、藍色の髪も、そして手にした刀も。
尤も、藍音はさくらより髪だって短いし彼女の半分もおしとやかさなんて持ち合わせてはいないし、和服を着てみたいと口にはするものの普段着ているのは決して小さくはない胸も引き締まった腹回りも気にせずに肌を露わにした恰好だし、そもそもこんなに愛想だってよくない。
だがそれでも……遠く離れているから、会いたいと触れたいと願っているから……ほんの僅かでも彼女の記憶に連なっているさくらの姿が今のソーマには愛しい人のことを思い出させるには十分すぎて。

「……そうか。なら、君たちは早く元いた世界に戻れるよう戦わなければならないんだな」
「ええ。ソーマにとっても大切な人ですけど、私にとってもその人はとても大切な人ですから」

大神の言葉に本来答えるべきであろうソーマの変わりにアリサが呟く。その言葉を耳にしたのであろうさくらは、まるで花の咲くような可憐な笑顔を浮かべて大神を見上げていた。

「……どんな方なんでしょうね。ちょっと会ってみたくありませんか、大神さん」
「ああ。さくら君に似たところが多い女性、しかもソーマとアリサが揃って大切に思うような人となると」
「次にどこに行くのかすら分からないまま戦ってるようじゃ会わせてやれるかどうか分かったもんじゃねえな」

ふん、と小さく鼻を鳴らしながらも、ソーマは舞い散る桜の花びらを見上げる。
そう、次にどこに着くのかも分からない戦いではあるが自分は戦いを続けなければならない……自分のいるべき場所へと帰るためにも。

「おしゃべりはその辺までにしておきましょう。ヴァジュラが来ますよ」
「ああ」

アリサの言葉に我に返ったかのように、ソーマは手にした神機を握りなおす。
心の中だけで愛しくて仕方のないひとの名をもう一度呼び、ソーマはヴァジュラに向かって大きく神機を振りかぶった。

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