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ColdStar

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リンドウさんの足跡を追う、と言われて向かったのは……見慣れた地下街、見慣れたスサノオ。
尤も接触禁忌種と言われているスサノオとたった2人の神機使いだけで倒したことなんてない。以前は第一部隊の皆と一緒だったし……だが、リンドウさんの足跡を追った先にスサノオがいたと言うことは……まあ、そういう事なんだろう。
アナグラに戻ってきても、自分が思っていた以上にリンドウさんが偉大だったのだということを改めて思い知らされた私から滑り出した言葉は呆れるほどに陳腐だった。

「リンドウさんはひとりでスサノオとも戦ってたと言うのか……」

その言葉に振り返ってみせたレンはどこか物悲し気な瞳を私に向け……ポツリポツリと言葉を繋ぐ。

「ええ、皆さんが知らないだけで。……たった独りしかいない第七部隊の正体くらい、隊長権限を持ってる藍音さんならとっくにご存知でしょう?」
「なんでそれを極東支部にいなかったレンが知っているのかは私には分からないがな」

私の告げた言葉に返事を返すことなく、レンはさっさとエレベーターへと乗り込んでいく。
尤も、レンが只者ではないことにくらいは薄々感づいている。寧ろ、レンがシオと同じように人の姿をしたアラガミだと言われても今の私ならすんなりと信じていただろう。
レンが何者なのかと言う具体的な答えは見えなくても、ただの人間、どこにでもいる神機使いであると考えるにはレンにはあまりにも不自然な点が多すぎる……ただ、直球で聞こうが遠まわしに尋ねようが、レンがその答えをはっきりと口にすることはなかったが。

「ところで藍音さん」
「今度は何だ」
「次のリンドウの行く先を特定するためにも、少しヒント探しをしてみませんか」

誘うように呟いたレンはちょいちょいとエレベーターの方を指さしてみせる。
……つまり、この……リンドウさんが作り出したアナグラの探検でもしようと言う腹だろう。考えているんだかいないんだか、やっぱりレンのことは私にはよく分からない。
しかし、リンドウさんがアナグラを……私達の「居場所」だったところをどう見ていたのか、それに興味がないわけじゃない。結局、自分の好奇心に負けるような格好で私はレンの後に続いてエレベーターに乗り込んだ。

新人区画に私の部屋があるのを見て、ふと懐かしい気持ちに駆られたりもする。そう、リンドウさんが見ていたアナグラでは私の部屋は新人区画にあって当たり前。私はまだまだ頼りない新人で、ただ新型神機使いであるという理由だけで第一部隊に配属されたばかりの頼りないひよっこだとリンドウさんは思っていたことだろう。
……もちろん、それを別段悔しいと思うことなんてない。アナグラを長く離れていたリンドウさんにとってはそれは当然のことで、リンドウさんがいなくなった後私に起こった出来事を知っているわけがないのだから。
だがそんな私が自分と同化しかけてるだなんてことを、この世界のどこかにいるのだろうリンドウさんが知ったらどう思うだろうか、なんてことを考えながら黙々と歩くレンについて再びエレベーターに乗り込む。
そしてベテラン区画、突き当たり――今の私にとっては「私の部屋」になっている場所が、リンドウさんの中ではリンドウさんの部屋なのだということにふと思い至ってレンに続いて足を踏み入れたその場所にいたのは……

「リンドウ、さん……」
「ここにいるリンドウは本物ではありませんよ」

歩み寄ろうとした私を諌める様にぽつりとレンが呟く。……よくよく見ればリンドウさんの隣には、私達が残してきたはずのサクヤさんもいる。……確かに、感応現象が起こらない旧型神機使いのサクヤさんがこの世界に入り込むとは少し考えにくかった。

「そこにいるサクヤさんはリンドウの意識が生み出したものです。そして、リンドウは藍音さんの意識が生み出した偽物のリンドウ……まずいですね、かなり同化が進んでしまっている」

一応確かめるようにリンドウさんに歩み寄って、声をかけてみてもリンドウさんから答えはなかった。そして同様に、そのリンドウさんに寄り添うように立っているサクヤさんからも。
……そのサクヤさんの姿を見ていて、不意に……エイジスに置いてきてしまった格好になるサクヤさんのことを思い出した。
リンドウさんを連れ戻すのはみんなのためだ、だが……きっと、リンドウさんを連れ戻して一番喜ぶのはサクヤさんだろう。一度その存在を諦めてずっと苦しみ続けてきたサクヤさんをこれ以上苦しめたくない。そんなことが頭を過ぎり、そのまま不意に以前サクヤさんからかけられた言葉が耳の奥に蘇った。

 ――無理はしちゃ駄目よ?ソーマに私と同じ苦しみを与えたくはないでしょ……

そう、私がこのまま戻らなければサクヤさんだけでなく……ソーマにも、愛するものを喪う苦しみを与えてしまうことになるのだと改めて思い知らされた。
先刻レンが言った、同化が進んでしまっているという言葉を考え併せてみればあまりここでのんびりしている時間はなさそうだった。

「それで、何か手がかりはあるのか」
「そうですね……リンドウが貴女やコウタさんにはデートだと言って一人で出て行った時のことを覚えていますか」
「覚えているに決まっているだろう。あんたがそれを知ってるのは何故なのかは置いておくとしても」

私の付け足した言葉は相変わらず聞こえなかったかのように背を向けて、レンはすたすたと歩きだす。どうやら、次に向かう先はその「デート」の現場……と言うことらしかった。
その時ははっきりとデートの相手を聞かせてくれることはなかったが、その同じ日に第七部隊がウロヴォロスの討伐に成功したという出来事と考え合わせると……その相手は自然と想像がつく。

「ウロヴォロス……か」
「ええ。ウロヴォロスと独りで戦ったことはあるんですよね?それならなんてことはありませんよね」
「簡単に言ってくれるな、まったく」

ため息を返してレンの後に続く。ぼやぼやしている暇はないことは私にだって分かっている、レンに文句を言う暇があったら少しでも前に進んだ方がいいだろう。
全てを解決して、帰らなければならない……ソーマの許へ。そして、サクヤさんのところへはリンドウさんを連れて。
そんなことを考えていた私より数歩前を歩いていたレンだったが、ふいにその足を止める。振り返ったレンのオレンジ色の瞳から放たれる視線が、ふいに私を真っ直ぐに捉えた。

「あまり悲壮感はありませんね」
「悩んでる暇なんてないからな。このままじゃ苦しめてしまうだけだ…ソーマも、サクヤさんも。自惚れでないとすればアリサやコウタや、極東の皆のことも」

だから連れて帰らなければならないし、だから帰らなければならない。
大切な人たちのために生きなければならないし、それは私だけの話ではなくリンドウさんもそう。
あまりにも当たり前のように私の中にある考え方で、今更自分でそれがおかしなことだとは思わない。

……なのに何故、目の前のレンはこんな顔をしているんだろう?

「生きようとしてるんですね、藍音さんは」

驚きを隠さない表情のままのレンの呟きは、冷静な彼らしくもなく……はっきりと言えば、間が抜けてさえいた。

「残念ながら死にたがる趣味を持ってないだけだ」
「こんな命がけの仕事をしていてそんなことが言える藍音さんのこと、嫌いじゃありませんけどね」

でも理解はできません、と付け加えてから……レンは不意に足を止める。

「僕はもしかしたら短絡的な方法を選びすぎていたのかもしれません」
「何の話だ」
「藍音さんは愛する人たちのために生きようとしている。……愛する人たちのために自分を犠牲にしたリンドウに、その藍音さんの意思が届けばもしかしたら……」
「だから、なんの話だと聞いている」

私の言葉に、それ以上レンは答えなかった。無言のまま、再び歩き始めるだけ。
相変わらず肝心なことは何一つ言わないレンへの苛立ちを抑えながら、私はただその後ろについて歩くだけだった。苛立ちはするものの、リンドウさんを連れ戻すために今一番頼りになるのがレンだということは紛れもない事実なのだ。

「……生きることから、逃げるな……僕にはきっと言えなかったな、その言葉」

無我夢中で私が叫んだあの言葉を、小さな声で呟いてみせたレンが一体何を考えているのか……この時の私にはまだ、知る余地すらなかった。

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