Dream | ナノ

Dream

ColdStar

あのころ、

今のところ俺がアナグラで一番の新入りだってこともあるのか、俺は割と恵まれているというか色んな人にメシ奢ってもらったり作った料理の残り物を分けてもらったりしてる。……なんだかんだと理由をつけて俺にメシたかってくるカレルさんみたいな人もいないわけじゃないけどそれはおいといて。
……まあ、入隊して早々料理なんかしたことなかった俺がキッチンでボヤ騒ぎ起こして暫くキッチンで火を使うなってツバキ教官に厳命されたのも関係はしてんだろうけど。
だから、割といろんな人が俺にメシ奢ってくれるって言うんで俺はそれに甘えることも多いんだけど……今日、俺の目の前でメシ食ってるのは今までそんなことは一度も言わなかった人、だった。

「けど珍しいね、ソーマさんがメシ奢ってくれるとか」
「……今日は藍音がいないからな」

俺がかけた言葉に、俺から視線を反らしながらぽつりと呟くソーマさん。確かに、アナグラの食堂とかで見る限りはソーマさんと櫻庭先輩は一緒にメシ食ってることが多い。つーかそもそも食堂にいないことも良くあるけどこれは多分どっちかの部屋で一緒にメシ食ったりしてんだろうなーってのはなんとなく分かる。
そんなソーマさんが、櫻庭先輩がたまたま別の支部に呼び出されて1日だけアナグラにいないからって言ったってまさか俺をメシに誘ってくれるとは思ってなくて、最初に声をかけられたときにはちょっと耳を疑ったりしたわけだけど。
……とは言え、タツミさんとかみたいに俺に積極的に何かを話しかけてくれるわけでもなく。ソーマさんは俺の目の前でただ黙々とメシ食い続けてるだけだった。
ま、そんなに積極的に話しかけてくれるタイプの人だとは思っちゃいなかったけどここまでとは思ってなくて、俺も自分から何を話しかけていいのか良く分かんなくて……どことなく気まずい空気のまま、出された皿の中身だけがどんどん減っていく。
ソーマさんはメシ食いながら何か考え込んでる風でもあったけど、俺がそれにどうこう口出ししていいのかな、なんて思ってるうちに俺の皿はすっかり空っぽ。
それに気付いたのか、ソーマさんはこっちに視線向けねーまんまぽつりと呟いた。

「なあ」
「ん?どったの?」
「お前が知ってる、神機使いになる前の藍音って……どんな感じだったんだ」
「は?」

話しかけられた内容に思わず変な声が出た。
神機使いになる前、ってことはまあ高校生時代のことなんだろーけど、なんでまた今そんなことを聞き出そうとするのかが俺には良く分かんなかった。

「どんな感じ、って言われても」

俺にとっても結構遠い記憶になりつつある「そのこと」を思い出そうとして、見えるはずもないのにあっちこっちと視線を動かしてみる。なんせ、俺は確かについ最近まで高校生ではあったけど櫻庭先輩はそう言うわけじゃない。
のりしろみたいにちょっとだけ重なったその期間のことを俺が忘れてるかもしれないってソーマさんは思わなかったのかな、なんてちょっと考えたりはしたけど聞かれた以上はなんとなく答えなきゃいけないような気がして……ようやく思い出せたことをぽつりと口にする。

「あの、俺……入学してすぐ、学校の中で道に迷ってたんだけどさ。その時に丁度、前から歩いてきた先輩に教室の場所聞いたらその教室まで連れて行ってくれたんだ。それが櫻庭先輩」

自分で聞いておいて、ソーマさんは俺の言葉に返事をする気配はない。
……まあ、ソーマさんはこういう人なんだろうってことはこの短い付き合いでもなんとなく分かってはいる。そこからは一生懸命、記憶を辿るようにしながら言葉を繋いでいった。

「んで、櫻庭先輩ってなんか委員会かなんかに所属してて、その関係で休み時間とか校内を巡回してることが多かったんだ。だから俺も学校ん中で先輩に会うことも多くて」
「イインカイ、ってなんだ」
「え、そこから説明?」

聞き返しはしたものの――ソーマさんはすっげえ小さい頃から神機使いやってたらしい。そうでなくても、自分では意識してなかったけど学校に通わせてもらえるのは一部の恵まれた層だけだってことは神機使いになってから知った。
そう考えたらその辺のことをソーマさんが知らないのも当たり前なわけで、俺は心の中でちょっとだけソーマさんに謝ってから言葉を繋ぎ続けた。

「委員会って言うのはなんていうか、学校の中で仕事割り振ってそれをする人たちの集まり……みたいな?多分そんな感じ」
「仕事バカなところはその頃から変わってねえ、ってことか」
「あー、まあそうかも」

これは後から聞いたことではあるんだけど、櫻庭先輩が神機使いになって学校に来なくなった後――俺がその理由を知ったのは神機使いになった後のことではあるんだけど――名簿に名前が残ってるから何らかの理由で学校に来られないだけだけど理由は不明だなんて噂になってた頃、櫻庭先輩と同じ委員会にいた同級生が言ってた。
本当は別に巡回とか毎時間やらなくてもよかったけど、前にいた先輩は真面目だったからちゃんと時間ごとに出来る範囲で校内を巡回してたんだって。
そんな真面目な人だったんだなーってあとで話聞いて思ったけど、こうして自分が神機使いになって上官としての櫻庭先輩見てるとこの人は「真面目」って言葉で足りないくらいのクソ真面目な人なんだなーって言うのは思うようになってる、けど。
そんな俺の思い出はどうだっていい。今はソーマさんの知りたいことを答えてあげるほうが大事、かもしれない。

「んで、その関係で櫻庭先輩とはしょっちゅう顔合わせてて、最終的には先輩と仲良かった人からも『ああ、あの1年またいる』みたいに言われたりしてたなー。最初に世話になったから、櫻庭先輩は顔見かけたら挨拶してたし」
「……お前は」
「ん?」
「その頃藍音のことどう思ってた」
「どう、って」

ソーマさんの聞きたいことがいまいちつかめないまま俺は首を捻る――そんな俺に、ソーマさんのちょっとイラついてるっぽい視線が向かってくる。……えーと、睨まないで怖いから。

「お前の話を聞いてる限りじゃ、お前と藍音は当時から相当親しかったみたいだが」

睨まれながら付け加えられた言葉で、やっとソーマさんの聞きたいことが分かった、気がした。
つまり今ソーマさんは以前の俺が先輩のことを好きだったりしたんじゃないかって疑ってる、ってこと……?
それに気付いた瞬間、なんか妙に可笑しくなって……笑うのが我慢できなくなってた。

「笑うな」
「ご、ごめ、だってさ……ソーマさんがそんなん言うって思ってねーじゃんこっちも!」
「今てめえがジーナに惚れてるのは知ってる。けどそれは『今』の話であって」
「落ち着いて、落ち着いてソーマさん。ソーマさんが心配してるようなことは絶対無いって誓えるから」

今にも身を乗り出して俺に掴みかかりそうな勢いのソーマさんを手で制して大きく息を吐き出してから、手元に置いてあったグラスの水を一口。
そのまま、まだどこか俺を疑ってるっぽいソーマさんに向かって俺ははっきりと言い放ってた。

「あんまり大きな声では言えないけど俺、胸でかい女の人ってなんか怖いんだよ」
「……は?」
「だから、そのまんまの意味」

その理由を一から話すと長くなるからまあソーマさんには言わなくていいだろう。
きょうだいの中では俺が男一人だからって俺の扱いが大概酷かった姉貴と妹、唯一の男子なんだから多少のことでへこたれててどうする!と俺にスパルタ教育を施してくれたお袋、この3人が揃って、世間的に言えばご立派な胸だったせいもあって俺の中には胸でかい女の人への苦手意識がいつの間にか植え付けられていた。
それは勿論、あの当時――制服の上からでも隠せないくらいのサイズを誇ってた櫻庭先輩も同じ。

「だから、心配しなくても櫻庭先輩は……いい先輩ではあると思ってたけどそう言う意味で最初っから恋愛対象外」
「……クソッ」

吐き捨てたソーマさんの顔が微妙に赤かった気がするのは多分気のせいじゃない。
理由を説明されて、自分の早とちりが恥ずかしくなったのかなとか。そう言う風に考えればソーマさんって、俺が思ってる以上に人間っぽい所のある人なんだなーとかちょっと新発見した気分になってたりもして。

「だからその辺は心配しなくていーよ。勿論後輩としては櫻庭先輩のこと尊敬してるけどさ」

付け加えた俺の言葉に、ソーマさんはもう返事をしてくれなかった。
……考えてみれば、櫻庭先輩がいないタイミングを狙って俺をメシに誘ってくれたソーマさんは最初からそれが聞きたかったんだろうなーとか思ったりして。
あまり感情を表に出さない印象のあるこの不器用な先輩に対しての見方がちょっと変わった気がしたのは、もしかしたら1食分食費が浮いたこと以上の収穫だったのかもしんねーな、とかちょっと思っていた。

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