Dream | ナノ

Dream

ColdStar

ダスキーモッズ

季節折々の風景が人の心を楽しませ、変わり行く気候に抗う為に人々が着るものを選んでいたのは遠い昔の話。
アラガミが跋扈するようになったこの世界には季節なんてものは存在しない。だが、それでも……

「……暑い」

元は人々を運ぶ為の交通機関だったはずの地下鉄跡地。いまやマグマがあふれ出し、その頃の面影といえばところどころに残るレールと朽ちかけた電車の車両のみと言うこの場所にやってくるのは何もこれが初めてと言うわけではない。マグマのせいで常に灼熱と言ってもいいほどのこの暑さにもすっかり慣れたつもりでいたはずだったのに。
心頭滅却すれば火もまた涼し、なんて言葉がふと頭を過ぎるがそれでも暑いものは暑い。

「そりゃ当たり前だろ、地下鉄跡地にそんな恰好してくるから」

呆れたように呟くカレルがそんな、と指差したのは私がいつも纏っているロングコート。ご丁寧に、襟周りや裾、袖口などにはファーがあしらわれている。
……そりゃあカレルの言うとおり、こんなものを着てくれば暑いに決まっているのだ。だが。

「……ついさっきまで平原地帯のミッションに行ってきたところだったからな。戻ってきてすぐ、人手が足りないからと召集されたんだ。着替える暇なんてなかった」
「そこは少しでも時間貰って着替えた方がよかったと思うぞ。藍音もだけど、ソーマもな」

その言葉の通り普段着ているジャケットを脱いでいるタツミの言葉に反応して隣に視線を移す……そこが定位置であるかのように私の隣で腕を組んで立っていたソーマの表情はいつにも増して険しく見えた。
そう、そもそも平原地帯に現れたアラガミを討伐する為に私とソーマの2人に召集がかかっていたのがそもそもの始まりだった。
平原地帯は雨が多く、気温が下がることも多い。だからこそ私はコートを羽織って出かけたしソーマもいつも通りのモッズコート姿で出撃することになったはいいのだが、帰ってきてすぐに地下鉄跡地のミッションに呼び出されるなんて思ってもみなかったのだから仕方がない。

「とりあえずソーマ、コート脱げば?」
「別に、このくらいなんてことねえ」

タツミに対して反論するようにソーマが言葉と共に吐き出した息が隣に立つ私の髪にかかる。何故かその吐息が熱いような気がしたのは私の気のせいだったのか――それとも。
いくら私よりずっと強靭な精神を持っているとは言え、この暑さはやはりソーマにも相当堪えているようではあった。

「変な所で意地を張らなくていいのに」
「別に意地張ってるわけじゃねえ」

揶揄するようなカレルの言葉に返した反論の言葉が、どう聞いても意地を張って出たものだと分かるからつい可笑しくなって小さく噴きだす……横目で睨まれたのは気のせいだということにしておこう。
しかし私は生憎、ソーマほど意地の皮が突っ張っているわけではない。この暑さでは動きに支障が出ることも分かっている――

「とりあえず私はコートを脱いでいく。マグマからの熱が直接肌に当たるのも厳しいものがあるが着込んだまま動くよりはよっぽどましだろう」

言葉と共にコートを脱ぎ捨てて私たちの乗り込んできた軍用車の中に放り込んだ、その瞬間……もう十分に険しかったソーマの表情が更に険しくなった、気がした。

「おい、藍音」
「どうした、妙な顔して」

問い返した言葉にソーマは無言で首を横に振る。それに合わせるように、ソーマは黙って着込んでいたモッズコートを脱いで私の肩に羽織らせていた。
その行動の意味はきっと、実際に動いた張本人のソーマ以外誰にも分からない。私自身外から見れば随分と間抜けな表情をしていたのではないかと思うが、それ以上に近くでその光景を見ていたタツミやカレルにだって分からないものだったのだろう、2人とも意味が分からないとでも言いたそうにソーマと私を交互に見ているだけだった。

「折角自前のコートを脱いだのにこれじゃ暑いだろう、何のつもりだ」
「いいからてめえはそれ着てろ」

不機嫌そうに一言言い放って、ソーマはそのまま歩き始める……行動の意図が分からないまま、それでも任務はこなさなければならない。
歩き出したソーマの後を追って私も足を進める。その後ろをついてくる2人分の足音を聞きながら、私達はマグマの噴きだす地下鉄跡地をただひたすらに進む……出てくるアラガミは大型のものが複数体。手分けした方がいいだろうかとか、どうやって分断するかとか、それぞれの手持ちのアイテムを確認した方がいいだとか、そんな風に話しながら遠くにアラガミの姿を確認し……結局、ソーマの行動の意図は全くつかめないまま。なんとなくそれを聞き出すことも出来そうにないまま、私たちは「神機使い」としての職務を全うするために走り出していたのだった。

* * *

「で、結局あの行動には何の意味があったんだ?」

アナグラに帰り着き、同時多発的にあちこちで大量に現れていたアラガミもあらかた討伐し終えたと聞いた私とソーマはそのまま私の部屋に戻り僅かな休息の時間を過ごすことになった。
その時に、結局聞きだすことの出来なかった先ほどの「答え」を私が知りたいと改めて思ったのも当然の話だろう、ソーマはそれが分かっているのか視線を反らしたままぽつりと呟いていた。

「タツミやカレルの前に、藍音をあんな恰好で放り出すことが出来るわけねえだろ」
「あんな恰好、って」

言われて思い出す、私がコートの下に纏っていたのはビスチェ1枚だけだということを。それも、正面はざっくりと開いているし丈は腰の位置よりも短く……コートと合わせているから気にもならなかったが確かに露出度はかなり高い。
なるほどそう言うことだったかと納得がいったと同時に、意味が分かってみるとソーマのその行動が急に可笑しく思えてきて……私はまた、小さく噴き出していたのだった。

「何が可笑しい。藍音は無防備すぎるんだよ」
「無防備も何も、今更私がどんな姿をしていようとあいつらがそれでどうこう思うようなことがあると思うか?」
「見られるだけで嫌なんだよ、そのくらい分かれ」

拗ねたように私から目を反らしたソーマの頭にぽんと手を置く。
……今まで愛情に飢えていたせいだろうか、愛することを、愛されることを知ったソーマはこうやって時折とても不器用な感情を曝け出すことがある。
それ程までに愛されていることを幸せだと思えば……ほんの僅か、地下鉄跡地で暑い思いをしたことくらいはどうでもいいのかもしれない、なんて――私はもしかしなくても、ソーマには甘いのかもしれない。

「……まあ」
「どうしたソーマ」
「その分俺は『それ以上』を見られればそれでいいんだけどな」

にやり、と口の端を上げたソーマの手がビスチェを綴じる紐にかかる――そのままソーマの手によってソファに押し倒された私がその後どうなったかは、……まあ、語るべきことではないのだろう。

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