Dream | ナノ

Dream

ColdStar

Bonds

そわり、と。肌にすっかりなじんだぬくもりが触れる。
腕輪が当たらないようにと言う気遣いなのだろうか、左腕で私の身体をしっかりと抱きしめたままソーマの掌がまずは私の頬に触れる。
くすぐったい、と身を捩るとソーマはまるで悪戯をする子供のように小さく笑い、不意に真顔に戻って頬に触れた手を一度引いた。
先ほどまで私をかき乱していた熱は緩やかに引き、それとともに私を支配し始めるのは睡眠欲……ソーマの胸に身体を預けるようにしながら目を閉じた私の髪を、頬から離れたソーマの手がさらさらと撫でていた。
髪には神経が通っていない、なんて話を聞いたことがあるがそれでもこうして髪を撫でられると心地よいと感じるのは一体どういう理由なのか……なんて、そんなことは誰にも聞けやしないけれど。
そんな、どうでもいいことがぼんやりと渦巻いている思考の中に割り込んでくるように私の耳に届くのは静かで、それでいて優しいソーマの声。

「……今日は随分疲れてんな……流石の藍音でも、あの量のアラガミを倒すのは疲れるか」

ソーマの言葉に僅かに瞼を持ち上げて視線をそちらに送る。だが、そこにあったソーマの表情が普段と何ら代わりがなかったことを確かめると私は再び眠気に身を任せるように目を閉じた。
ソーマが言っているのは今日受けたミッションを指している。いくら堕天種や接触禁忌種でないとは言え、大型のアラガミが5体も6体も現れるのだから疲れるのも当然だ。
しかし、私が眠気に襲われている理由は何もそれだけではない、わけで……

「そこに加えて余計疲れるようなことをさせたのは誰だ」

目を閉じたままで恨み言のように返してはみたものの、私の方だってソーマと身体を繋ぐ時間が嫌いではないのが困りもの。そのせいか力の籠もっていない反論に、ソーマは……言いやがる、なんて短く呟いてから私の身体を抱く腕に力を込めた。

「繋ぎとめておかなきゃ……藍音は勝手にどっか行っちまいそうだからな」
「どこにも行ける訳がないってあんたが一番良く知ってるくせに」

きっと今ソーマから離れたら私は自分で自分を保っていられる自信がない。
極東支部の中でも中心的存在にいる第一部隊隊長と言う立場を考えれば決して口にすることは出来ないその言葉は、想いは……身体だけでなく心まで繋がっていると信じているソーマにはきっと伝わっている。それは私の勝手な思い込みなのだろうか。

「……自分からどっか行く事はねえとしても、誰かに連れてかれたりするかもしれねえだろ」

……ソーマの言いたいことはなんとなく分かる。
先日も、サカキ博士からそんな話を聞かされたばかりだ。他の支部から、私の実力を買った上で転属してきて欲しいと言う要望があったと言うことを。

 ――勿論断ったけどね。藍音君を手放すのは極東支部にとっては損失が大きすぎる……それに、ソーマだって嫌がるだろうから。

付け加えられた一言には余計な世話だと言いかけたが、私の存在が極東支部にとって必要なものだと認められているのは素直に喜ばしいことだった。
極東支部は、アナグラは――私にとってかけがえのない人たちと沢山出会えたかけがえのない場所。そう簡単に離れることは出来そうにないし、大切な場所にとって私がかけがえのない存在なのだと認められていることはとても誇らしいことだとも思える。

「勿論藍音がどこか連れて行かれそうになったら俺はどんな手を使ってでも繋ぎとめてやるつもりだけどな」
「『どんな手でも』、か」

少しずつ眠気に侵されていく思考の中では考えていることが上手く言葉にはならず、そうやって鸚鵡返しをするのがやっとだったけれど。
ソーマがそんなことをするまでもなく、私は――ソーマが何かをするまでもなく、離れられるわけがない。
心も身体もソーマに寄り添うように、ソーマにとって一番近くに存在できるようにソーマの手によって変えられてしまった。
私を満たすことが出来るのはきっとソーマだけ。だから。

「離れたりなんて、しない……」
「……ああ。だから確かめていさせてくれ……俺と藍音が確かに繋がってるってことを、な」

ソーマはやっぱり、喪うことを何より恐れていて。
だからこそ、私の心を、身体を、繋ぎとめようとしている……

 ――確かめなくたって、私はここにいる……

睡魔によって支配される私には、もうその言葉を口にすることは出来なかったけれど。

「……俺から離れるな、藍音」

眠りに堕ちて行く私の耳に確かに残ったソーマのその呟きは……私をここに、ソーマの隣に繋ぎとめておくためには十分すぎる強さを持っていた、から。

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