Dream | ナノ

Dream

ColdStar

はじめの一歩

目を覚ましていつものようにターミナルを確認すると、今日のミッションは第一部隊総出で出撃する、と言う連絡が入っていた。
リンドウさんと私、サクヤさんと私、コウタと私。それに、ソーマさんと私。それぞれなら今までにも経験はあったが、全員でチームを組んでの作戦と言うのは初めてかもしれない……そこに神機はないのに、気付けば私はきつく拳を握り締めていた。
先日の作戦だって、入隊したばかりの私とコウタ二人に任せると言うことは二人でもどうにかなる程度の任務だと言うことだったのだろうし、それが今日は熟練の先輩たちと一緒と言うことは甘い考えでいたら命を落とすことに繋がると言う事位は私にだって分かっていた。

「……よし」

気合を入れなおすように呟くと、私は自室を後にする。丁度コウタも部屋から出てきたところで、普段の彼らしくなくどことなく引き締まった表情に彼も私と同じことを考えていたのだと実感して互いに頷きあった。


エレベーターを降りるとエントランスには既にリンドウさんもサクヤさんも、ソーマさんも顔を揃えている。
新参の私たちが一番遅れたことをほんの少し恥ずかしく思いはしたものの――

「よーし、これで全員集合だな」

あっさりそう言って出迎えてくれたリンドウさんの懐の広さに心の中だけで感謝しつつ、私は一番端に立っていたソーマさんの隣に並んだ。
ソーマさんはちらりとだけ私を見て、すぐに興味をなくしたように視線を逸らす。
……ここにやってきて少しは時間が経ち、他の人たちのことも分かってきたつもりではいるけれど……相変わらず、この人のことは良く分からない。

「んじゃ、準備が整い次第出発ってことで」

号令のようにかけられたリンドウさんの言葉に、まずはサクヤさんが、そしてコウタが。その後に続いてソーマさんが歩き出した……私も、黙ってその後ろに続く。
目の前を歩くソーマさんに何か声をかけようと思ったりはしたけれど、何を言えばいいのかすら分からず……結局、黙ったまま目的地へと向かう軍用車へと乗り込むまで、私は彼に何も言えないままだった。

軍用車で私はリンドウさんの隣に座らされ、とは言え話すこともなくただただ窓の外を見ているだけだったが……後部座席に目をやるとソーマさんが腕を組んだまま眠っているのに気付き、ふと思い立ったように隣のリンドウさんに話しかけた。
ソーマさんを起こさないように、なるべく小さな声で。

「……どうやったらソーマさんは心を開いてくれるんでしょうね」
「アイツの心を開くなんて、また大層なことを思いついたもんだな」

いつものようにへらりと笑いながらリンドウさんはそんなことを嘯き、後部座席で眠るソーマさんへと視線を送る。

「なんだか、他人を拒絶して生きているソーマさんが時々……凄く、哀しそうに見えるんです。だから」
「この短い時間でそこまで気付いたか。こりゃ、今度の新人はなかなかの逸材だったってことかな」

からかうように笑いながら、リンドウさんは再びソーマさんの方を見た。腕を組んだままの姿勢も、誰も自分に近づくなと言おうとしているかのように私には見えている――それはなんとなくだけれど、ただの気のせいではないように感じられていた。

「アイツは誰より身近な人間が死ぬのを恐れてる。だから誰も近づけようとしない……それには気付いてるか」
「はっきりとは分かりませんが、拒絶するのに理由はあるだろうと思っていました。だから、もしも心を開いてくれたら何かが変わるのかなと」
「今の段階でそれだけ分かってるんなら合格だ。あいつは失うのを何より恐れている……つまり、ソーマの心を開かせたければ取るべき行動は簡単」

リンドウさんは笑顔で人差し指を立て、そしてにぃと子供のように笑ってみせた。

「俺の命令を忠実に守っていればいい。死ぬな、必ず生きて帰れ。ソーマに教えてやればいいんだ、自分の存在が死を招いてるわけじゃないって」
「……はい」

戦い方だけではなく、自分の部下の考えていることを全て見抜いてこうして的確なアドバイスをくれるリンドウさんを見ているとなんだか……表面上だけ見ていればお世辞にも真面目に仕事に取り組んでいるようには見えないこの人が、この極東支部で慕われているのもなんとなく分かるような気がしていた。

「あー、それと。女の子にこんなこと聞いたら失礼かもしれんけど藍音、お前さん年いくつだっけ」
「え?……18歳、ですけど」

何故そんなことを聞かれたのかが分からず首を捻った私に、リンドウさんは再び子供のような笑顔を向ける。

「そんならソーマとそんなに年変わらないな。だったら、『ソーマさん』てのも止めてやれ。年の離れた俺やサクヤに気を遣うのは分からんでもないが、ソーマの心を開いてやりたいと思うんだったら藍音の方から飛び込んで行くくらいの心持でないとな」
「……分かりました」

そんな話をしている間に、軍用車は目的地へとたどり着く。
いつものように短いブリーフィングを行い、リンドウさんはデートだと言ってその場を去っていった……だが、私たちにはぼんやりしている暇などない。
神機を片手に、全員とアイコンタクトを取る。大きく頷いてくれたコウタやサクヤさんとは対照的に、ソーマは私から目を逸らしたままだったけれど。

「……行こう、ソーマ」

呼びかけにも返事はない。
私が彼の呼び方を変えた事にももしかしたら彼は気付いていないのかもしれない。

それでも、いつか……彼の心を閉じ込める氷の檻を溶かすことが出来たら、なんて考えながら私は走り出した。

何故そこまで、彼が気にかかるのかなんて自分では全く分からないままに。

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